架空戦国伝

第９章 創天国の魂編

66.任務完了

先のワニア山で発生した崖崩れに巻き込まれ、生死不明となっていた政武。
その政武が今、自身の目の前に現れた事で宗重は胸を撫で下ろしていた。

それと同時に焦りの表情を見せながら宗重が言う。
「ただちに任務を再会し、このヘルト城の情報を一つでも多く入手せねばならぬ。」

これに対して政武は答える。
「それであらば心配には及ばず。故に、後はここから脱出するのみである。」
どうやら政武は既にヘルト城内においての情報を入手していたようであった。

宗重
「儂が幸盛と刀を交えておった間にお前が動いてくれておったというわけか…」

この宗重の言葉に対して政武が顔をしかめて言う。

政武
「あぁ。じゃが、任務を達成するまではちと難儀はしたけどな…」

そう話す政武の体は酷く汚れており、それでいてあちこちに真新しい傷が見受けられた。
それは、今回の任務がいかに困難であったかを物語っているかのようであった。

宗重
「どうやら、お前の忍びとしての力は口先だけではござらんかったというわけじゃな。」

宗重は、つい先刻前までは政武の忍者としての能力はさほど無いであろうと考えていたが、それがとんでもない思い違いであった事を知らされたのである。
途中で様々な困難に見舞われたのであろうか、彼の体中には無数の傷が出来ている。
だが、それでも与えられた任務は最後までやり遂げてはいる。
これにはただただ感心するばかりであった。

すると、引き締まった表情を見せて政武が声を上げる。

政武
「それよりも、かような不気味な城はさっさと出てしまうに限るぜ！」

そう言うと政武は一人そそくさと足を進め始めていた。
そして後ろを振り向いて急かすように宗重に対して声をかける。

政武
「おい爺さんよ、ぼさっとしておったら置いてくぜ！さ、早ういたせ！」

宗重
「ふふん、調子の良きところは真に政豊殿と似ておるのう。」

そうして二人は小屋から抜け出していた。
それからは政武の導かれるままに移動を続けて数刻後、無事にヘルト城からの脱出を果たすのであった。

政武
「ふぅ、これでようやく任務が終わったな。」

与えられた任務が無事に完了した事に対し、政武は何とも言えぬ達成感を感じていた。
すると宗重が政武に対して頭を軽く下げて言う。

宗重
「政武、礼を申すぞ。此度の件、真に助かったわい。」

政武
「へっ、別にあんたの為にやったことじゃないぜ。爺さんよ、勘違いするな。」

宗重による礼の言葉に対し、政武は素っ気ない口調でそう答えていた。
だが本心では宗重の安否を気遣っていたのであろうか、少し照れくさそうな表情を見せていた。

やがて眉間に皺を寄せながら宗重が口を開く。

宗重
「しかし、この儂が幻を見るなぞ初めてじゃ。やはり、歳には勝てぬということでござろうかのう…」

先刻前に宗重が体験した奇妙な出来事に対しての言及を始めていた。

あれは、自身の肉体の疲労の限界に達していたが故に見えていた幻覚であろう。
鍛錬を欠かさぬ日々を送っていたとしてもやはり人間というものは老いには逆らえぬものなのであろうか。
宗重はそう考えているようであった。

これに対して政武は真顔で首を傾げながら問い掛けの言葉を発する。

政武
「はて？生涯を忍びとして生きると豪語しておったのは一体、どこの爺さんであったかな？」

宗重
「政武…ふっ、こやつめ。いうてくれおるわ。」

宗重は笑いながらそう言っていた。