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第7章 天下分け目の大決戦編

56.三浦宮御所の戦い(9)

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木内政豊が幕府軍へ寝返った事により、志太軍の混乱状態はなおも続いていた。
余りにも予想外の出来事であった為か、兵たちの士気は著しいほどの低下を見せた。

祐宗と祐永は、これら軍勢に応戦する形で戦闘状態となった。
混乱状態が続く事で士気の低下を招いた志太軍は、木内軍の攻撃による被害が顕著にあらわれ始めていた。

そんな様子を見た政豊は自信満々の表情をしている。

政豊
「それにしても、あんたら味方の兵どもは骨が無いのぅ。それで儂に戦を仕掛けようなぞ笑止千万!」

政豊は吐き捨てるように祐宗らにそう言った。
同時に自軍の戦況が良い事に機嫌を良くしている様子だ。

祐永
「我が志太軍は、これしきのことでは負けぬ!特にお主のような裏切り者という悪は完膚無きまでに叩きのめしてくれる!覚悟しておくが良い!」

志太軍は、決して悪には屈しない。
まるで我ら志太家こそが正義である、と言わんばかりの物言いであった。

すると、今度は祐宗が兵たちに向けて大きな声をあげた。

祐宗
「えぇい!皆の者、今一度よく聞け!この木内政豊殿は、我が志太家に対して仇をなす存在である!」

その祐宗の通った声を耳にした兵たちは、ふと我に返って背筋をぴんと伸ばし始めた。
そして続けて祐宗が言う。

祐宗
「それ故、一切の私情は捨てて戦われよ。中途半端な情などは持つでないぞ。良いな?」

政豊は、先の国米の戦いにおいて志太軍の援軍として参戦。
幕府軍による追手を遮り、志太軍の全軍壊滅という窮地を命懸けで救ってくれた言わば恩人だ。

その恩人に対して刃を向けるなど、恩を仇で返す非情な行為。
恐らく兵たちもそのような考えもあってか、木内軍への攻撃を遠慮していたのではないだろうか。

しかし、今回は場合が場合。
いくら恩人とて、その後の行動が悪ければこちらも正義を振りかざして叩きのめすべきであろう。

こうして祐宗は、政豊の軍勢への反撃の口実を作ったのであった。

祐永
「最早政豊殿は敵…いや「悪」じゃ。遠慮は要らぬ、存分に戦うのじゃ!」

祐永もまた祐宗の言う事に納得し、賛成していた。

祐宗
「うむ、そういうことじゃ。皆の者!分かったら気を引き締めて全力を出されよ!狙うは政豊殿の首であるぞ!」

そう言うと祐宗と祐永らの軍勢は、政豊の軍勢を目掛けて一斉に突撃をかけた。

一方、志太軍の東側では口羽軍と鳥居景綱の軍勢が激しく衝突していた。
そんな中、崇数は志太軍側の異変に気付いた様子であった。

崇数
「むっ、何やら志太軍の方が騒々しいようじゃな。」

刻一刻と変わるであろう戦況を気にしながら崇数がそう言った。
志太軍の様子を遠目で確認して状況を把握した貞道が言う。

貞道
「どうやら木内政豊殿が幕府軍に寝返ったようにござる…」

その言葉を聞いた崇冬が大声を上げる。

崇冬
「な、何じゃと?!あの政豊殿が寝返ったとな?!それは…何かの間違いではござらぬか?!」

崇冬は非常に驚いた表情をしていた。

政豊とは柳城での死闘から始まり、先の国米での戦いで思いがけない再会を果たした。
初めは敵同士ではあったが、後に味方となって命を懸けて自軍を守ってくれた事に崇冬は深く感謝していた。
そして今回の三浦宮御所での戦いで再び政豊と再会し、共に幕府を相手に戦う事を心待ちにしていたようである。

だが、そう思った矢先に今回の政豊による寝返り行為が発覚。
その現実を知った崇冬は、酷く落ち込んだ様子であった。

崇数
「うむぅ…これは厄介なことになったな…」

前述の戦況からも分かる通り、志太軍は木内軍に押されている状態である。
この状態が続けば志太軍は壊滅し、本陣の祐藤もろとも討ち取られてしまう危険がはらんでいる。

しかし、そのような状況でも落ち着きながら義道が崇数に対して言う。

義道
「崇数殿よ、志太軍は優秀な兄者の血を受けた祐宗と祐永が場を構えておる。それ故、心配には及ばぬであろうぞ。」

義道は誇り高い表情をしていた。
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