32 / 37
30.黒幕
しおりを挟む
手当てが終わり包帯に腕をぐるぐる巻きにされ、痛み止めが効く頃にはすっかり日が暮れていた。
私は久しぶりに家に帰り自分の部屋のベッドに横たわっていた。
ソニアさんとお父さんがずっとついて世話を焼いてくれたことで帰ってこれたんだと実感する。
しかし痛みも引いて余裕が出てくると気になるのはジークさんの無事と怪我の治療代。
ジークさんについては怪我ひとつなく無事らしい。今は国王と話をしているようだ。
そして確認してもらったところ、治療代は国王が個人で負担してくれるとか。
国王は私が思うより優しい人なのかもしれない。
翌日、ジークさんを連れた国王が私の家を訪ねて来た。
「まずは礼を言わせてくれ。暗殺集団捕縛への協力と、弟の命を守ってくれたこと感謝する」
一国の王様に頭を下げられ、私だけでなく付き添ってくれていたお父さんやソニアさんまでぎょっとしている。
「まさかジークが国王様の弟だとは……っ、失礼しました!」
呆然と呟いたお父さんは慌てて言葉を直しジークさんに頭を下げる。
するとジークさんは悲しげに目を伏せた。
「顔を上げてくださいウォルトさん。今の俺はただの一般人です。王位継承権と一緒に王族であることも捨ててきましたから」
「弟もこう言っている。どうか態度を変えないでやってくれないか」
ジークさんを援護するように国王に告げられお父さんは戸惑いながらも頷いた。
「それから暗殺集団は一人残らず捕縛した。奴らと繋がっていた公爵家の侍女も捕らえてある」
リエナのことだ。
「あの……その侍女と話すことはできますか?」
私の知っているリエナは優しくて少し涙腺の弱い普通の女性だった。
そんな彼女がどうしてジークさんの命を狙い、私を犯人に仕立てようとしたのか知りたい。
「あぁ、構わない」
「スザンナだけでは心配だ、怪我のこともあるし俺も同行する」
国王が頷く横でジークさんが名乗りをあげてくれたので、私はジークさんと一緒にリエナの捕らわれている街の収監所に向かうことになった。
家を出発し国王の手配してくれた馬車で街まで向かう。
村には暗殺集団を収監出来る場所がないので彼らはこの街に収監されている。
国王は看守に話を通してくれたらしく、私達はすんなりとリエナの捕らわれている牢屋に案内された。
そこは想像していた通りの牢屋だ。
石造りの壁と床で囲われ、鉄格子で区切られた狭い空間。
その真ん中にリエナは侍女服のままで座り込んでいた。
「リエナ」
私が声をかけるとリエナはぱっと顔を上げて眉を下げ泣き出す。
「スザンナお嬢様!あぁ、来てくださったのですね……!誤解なんです……逆らうとマリーナお嬢様を殺すと言われてっ……それで仕方なく」
「仕方なくジークさんの命を狙って私に罪を擦り付けるつもりだった、と?」
「はい……本当に申し訳ありませんっ……でも仕方なかったんです!私一人では助けを求めることもできなくて……」
「そんな嘘、つかなくて良いのよ」
リエナの言葉を遮りそう告げると彼女はポロポロと涙を流した。
「そんな……嘘だなんてっ……」
「私、知ってるの。あなたが暗殺集団の頭領と手を組んでいたこと。あなた達が捕まえた私の様子を見に来た時、全部聞かせてもらったわ。だからあなたに騙されることはもう二度とない」
淡々とそう言いながらも心のどこかではリエナを信じたかった。
彼女は本当に暗殺集団に脅されていて仕方なく私を誘拐し、演技をしてやつらを騙して逃がしてくれるつもりだったのではないかと、どこかで期待している自分がいる。
けれどリエナは数度目を瞬かせた後、口許を緩めて私の期待を粉々に打ち砕いた。
「なーんだ、バレてたの。それじゃあもう言い逃れできないじゃない」
先程まで流していた涙を引っ込め、諦めたように肩を竦める。
「……何のためにジークさんの命を狙ったの」
問い掛ければリエナは私の隣にいたジークさんをちらりと見て口の端をにいっとつり上げた。
「もちろん、私のためよ。そこのジーク様とマリーナお嬢様が結婚すれば私はマリーナお嬢様付きの侍女としてお城で働けるもの。そうすれば公爵家で働くより何倍もの収入が得られるわ」
眉を寄せた私の代わりに口を開いたのはジークさんだ。
「……悪いが俺はもう王族ではない。それにスザンナの妹とどうこうなるつもりもない」
「そうなのよねぇ。ゲームではあなたはマリーナお嬢様とハッピーエンドを迎えてお城に戻るはずだったのに……ねぇ、マリーナお嬢様はどこで選択肢を間違えたのかしら?せっかく私が色々お膳立てしてあげたのに骨折り損のくたびれ儲けだわ」
「……何を言っている?」
肩を竦めるリエナにジークさんは眉を寄せるが私は無意識に自分の手を握りしめていた。
ゲームとかハッピーエンドとか選択肢という言葉がリエナから出てくるということは彼女は私と同じ転生者なのだろうか。
(まさかこんな近くにいたなんて……)
驚く私を見てリエナはくすくすと笑いだす。
「そんなに驚いてどうしたの?あぁ、選択肢を間違えたのはスザンナお嬢様だったのかしら。マリーナお嬢様を怨ませようと画策したのに全然行動を起こさないのだもの。あなた本当に悪役なの?それともバグ?あぁ、もしかして転生者なのかしら?でもまあ、なんでもいいわ、もう私の登場シーンはおしまいみたいだから全部話してあげる」
言葉を返せずにいる私を見たリエナは楽しげに今までのことを語りだした。
私は久しぶりに家に帰り自分の部屋のベッドに横たわっていた。
ソニアさんとお父さんがずっとついて世話を焼いてくれたことで帰ってこれたんだと実感する。
しかし痛みも引いて余裕が出てくると気になるのはジークさんの無事と怪我の治療代。
ジークさんについては怪我ひとつなく無事らしい。今は国王と話をしているようだ。
そして確認してもらったところ、治療代は国王が個人で負担してくれるとか。
国王は私が思うより優しい人なのかもしれない。
翌日、ジークさんを連れた国王が私の家を訪ねて来た。
「まずは礼を言わせてくれ。暗殺集団捕縛への協力と、弟の命を守ってくれたこと感謝する」
一国の王様に頭を下げられ、私だけでなく付き添ってくれていたお父さんやソニアさんまでぎょっとしている。
「まさかジークが国王様の弟だとは……っ、失礼しました!」
呆然と呟いたお父さんは慌てて言葉を直しジークさんに頭を下げる。
するとジークさんは悲しげに目を伏せた。
「顔を上げてくださいウォルトさん。今の俺はただの一般人です。王位継承権と一緒に王族であることも捨ててきましたから」
「弟もこう言っている。どうか態度を変えないでやってくれないか」
ジークさんを援護するように国王に告げられお父さんは戸惑いながらも頷いた。
「それから暗殺集団は一人残らず捕縛した。奴らと繋がっていた公爵家の侍女も捕らえてある」
リエナのことだ。
「あの……その侍女と話すことはできますか?」
私の知っているリエナは優しくて少し涙腺の弱い普通の女性だった。
そんな彼女がどうしてジークさんの命を狙い、私を犯人に仕立てようとしたのか知りたい。
「あぁ、構わない」
「スザンナだけでは心配だ、怪我のこともあるし俺も同行する」
国王が頷く横でジークさんが名乗りをあげてくれたので、私はジークさんと一緒にリエナの捕らわれている街の収監所に向かうことになった。
家を出発し国王の手配してくれた馬車で街まで向かう。
村には暗殺集団を収監出来る場所がないので彼らはこの街に収監されている。
国王は看守に話を通してくれたらしく、私達はすんなりとリエナの捕らわれている牢屋に案内された。
そこは想像していた通りの牢屋だ。
石造りの壁と床で囲われ、鉄格子で区切られた狭い空間。
その真ん中にリエナは侍女服のままで座り込んでいた。
「リエナ」
私が声をかけるとリエナはぱっと顔を上げて眉を下げ泣き出す。
「スザンナお嬢様!あぁ、来てくださったのですね……!誤解なんです……逆らうとマリーナお嬢様を殺すと言われてっ……それで仕方なく」
「仕方なくジークさんの命を狙って私に罪を擦り付けるつもりだった、と?」
「はい……本当に申し訳ありませんっ……でも仕方なかったんです!私一人では助けを求めることもできなくて……」
「そんな嘘、つかなくて良いのよ」
リエナの言葉を遮りそう告げると彼女はポロポロと涙を流した。
「そんな……嘘だなんてっ……」
「私、知ってるの。あなたが暗殺集団の頭領と手を組んでいたこと。あなた達が捕まえた私の様子を見に来た時、全部聞かせてもらったわ。だからあなたに騙されることはもう二度とない」
淡々とそう言いながらも心のどこかではリエナを信じたかった。
彼女は本当に暗殺集団に脅されていて仕方なく私を誘拐し、演技をしてやつらを騙して逃がしてくれるつもりだったのではないかと、どこかで期待している自分がいる。
けれどリエナは数度目を瞬かせた後、口許を緩めて私の期待を粉々に打ち砕いた。
「なーんだ、バレてたの。それじゃあもう言い逃れできないじゃない」
先程まで流していた涙を引っ込め、諦めたように肩を竦める。
「……何のためにジークさんの命を狙ったの」
問い掛ければリエナは私の隣にいたジークさんをちらりと見て口の端をにいっとつり上げた。
「もちろん、私のためよ。そこのジーク様とマリーナお嬢様が結婚すれば私はマリーナお嬢様付きの侍女としてお城で働けるもの。そうすれば公爵家で働くより何倍もの収入が得られるわ」
眉を寄せた私の代わりに口を開いたのはジークさんだ。
「……悪いが俺はもう王族ではない。それにスザンナの妹とどうこうなるつもりもない」
「そうなのよねぇ。ゲームではあなたはマリーナお嬢様とハッピーエンドを迎えてお城に戻るはずだったのに……ねぇ、マリーナお嬢様はどこで選択肢を間違えたのかしら?せっかく私が色々お膳立てしてあげたのに骨折り損のくたびれ儲けだわ」
「……何を言っている?」
肩を竦めるリエナにジークさんは眉を寄せるが私は無意識に自分の手を握りしめていた。
ゲームとかハッピーエンドとか選択肢という言葉がリエナから出てくるということは彼女は私と同じ転生者なのだろうか。
(まさかこんな近くにいたなんて……)
驚く私を見てリエナはくすくすと笑いだす。
「そんなに驚いてどうしたの?あぁ、選択肢を間違えたのはスザンナお嬢様だったのかしら。マリーナお嬢様を怨ませようと画策したのに全然行動を起こさないのだもの。あなた本当に悪役なの?それともバグ?あぁ、もしかして転生者なのかしら?でもまあ、なんでもいいわ、もう私の登場シーンはおしまいみたいだから全部話してあげる」
言葉を返せずにいる私を見たリエナは楽しげに今までのことを語りだした。
43
お気に入りに追加
1,885
あなたにおすすめの小説
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました
ララ
恋愛
3話完結です。
大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。
それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。
そこで見たのはまさにゲームの世界。
主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。
そしてゲームは終盤へ。
最後のイベントといえば断罪。
悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。
でもおかしいじゃない?
このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。
ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。
納得いかない。
それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?
88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう
冬月光輝
恋愛
ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。
前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。
彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。
それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。
“男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。
89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。
この国の王族に嫁ぐのは断固拒否します
鍋
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢?
そんなの分からないけど、こんな性事情は受け入れられません。
ヒロインに王子様は譲ります。
私は好きな人を見つけます。
一章 17話完結 毎日12時に更新します。
二章 7話完結 毎日12時に更新します。
悪役令嬢の居場所。
葉叶
恋愛
私だけの居場所。
他の誰かの代わりとかじゃなく
私だけの場所
私はそんな居場所が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。
※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。
※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。
※完結しました!番外編執筆中です。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる