奇妙な日常

廣瀬純七

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トイレでメイク

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「ねえ、ちょっと……!」  
電車が揺れる中、一花の体に入っている隆一が、不安げに話しかけてきた。  

「どうしたの?」と、一花は隆一の体で隣に立ちながら答える。  

「俺、いや、私……ノーメイクなんだけど!」  

その瞬間、一花の脳内に警鐘が鳴った。ノーメイクの自分の顔を職場で見られるなんてあり得ない。それに、隆一はメイクのことなんてまったく分からないだろう。  

「信じられない……!」一花は思わず声を上げた。「なんで気づかなかったのよ!」  

「だって、俺はいつも顔洗ってそのまま出るから、メイクなんて考えもしなかったんだよ!」  

「次の駅で降りるわよ!」  

---

### 多目的トイレでメイク大作戦

駅を降りて急いで多目的トイレに駆け込むと、一花はバッグからメイクポーチを取り出した。  

「座って。動かないでね。」  

隆一の体に入った一花が命令すると、一花の体に入った隆一はおずおずとトイレの小さな折り畳み椅子に座った。  

「本当にこれ必要か?」と隆一が言いかけたが、一花は睨みつけた。「必要よ!ノーメイクの顔で会社に行くわけにいかないでしょ。」  

「……はい。」  

ファンデーションを手に取り、一花は丁寧に塗り始めた。普段自分でやることとはいえ、他人の体、それも自分の体に施すという奇妙な感覚に戸惑いながらも手を動かす。  

「目、つぶって。」  
「うわ、冷たい!」  
「じっとして!アイシャドウがブレる。」  

マスカラの時には、隆一が体を仰け反らせて大騒ぎする。  
「怖い!目に刺さりそう!」  
「刺さるわけないでしょ!こんなの慣れよ!」  

最後にリップを塗り、一花は「ふーっ」と息をついた。  

---

### 出来栄え

「はい、終わり。」  
鏡を隆一の顔に差し出すと、一花の体が普段通りのメイクを施された姿になっていた。  

「……すごいな。こんな小道具でこんなに変わるのか。」隆一が素直に感心する。  

「でしょ?だからメイクは重要なのよ。」  

二人は急いでトイレを出て、再び電車に乗り込んだ。慌ただしい朝だったが、なんとか危機を乗り越えた。  

「でもさ、」隆一が電車の揺れに身を預けながら言う。「次からは、もっと早く教えてくれよな。俺、あんな怖い作業、二度としたくないんだけど。」  

「それなら、私が体に入っている間にメイクの練習しておいてね。」  

二人の新婚生活は、また一つ新しい課題を乗り越えたのだった。  

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