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陸海軍協調
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日本の陸海軍の指揮系統の一本化は、戦前からあった。
ドイツ国防軍が陸海軍を統一指揮したことを山下率いる軍事視察団が見学し、強く日本軍の指揮系統統一を求めたことに始まる。
だがそれは陸軍が海軍を指揮下に入れようとした一種の権力闘争の一環であって早々に潰れた。
しかし、戦局が悪化した中頃から参謀本部の瀬島中佐と軍令部の源田中佐が、陸海軍の統合、もしくは指揮系統の一本化を目指した。
最終的に陸軍に吸収されることを恐れた海軍の反対により、流れたが、陸海軍共同航空部隊T部隊の編成にこぎ着けた。
「一部でも陸軍が航空機を出してくれるのは嬉しいです」
「此方からも一個航空戦隊を第四航空軍に送り込む事になったが」
陸軍側の不平を少なくするため、有馬少将率いる第二六航空戦隊が海軍から陸軍の指揮下へ送られる事になった。
「向こうが譲歩してくださったのです此方からも部隊をだしませんと」
「陸上の指揮権を陸軍に与えたのだから、不要という声もあるが」
「陸の防衛指揮は陸軍の方が上です。我々はとても戦えません」
海のことを知らない陸軍に海軍の部隊を送り込むのは、佐久田も不安だが各島に必要な守備兵力を引き出すには必要な処置だった。
もう一つ大きな進展は、海軍の陸上防備部隊を陸軍の指揮下に入れたことだ。
太平洋は各所に島が点在しており、ここを奪い合い味方のシーレーンを確保し敵のシーレーンを遮断するのが太平洋戦争の特徴だ。
海を移動できるのは、事実上船のみであり、艦艇を持つ海軍が主役である。
しかし、船は何日も洋上にいるが何ヶ月も浮かんでいられない。
蒸気機関が出来てからは燃料補給、機関の整備を行う拠点が必要であり、ここを守る必要がある。
日米開戦までは、海軍のみで各島々を保持できると日本では考えられていた。
だが、世界恐慌後、深まる日本の孤立化、周辺国との敵対化、太平洋が余りにも広すぎたために海軍独力で拠点を守り切る事は出来なくなった。
しかもアメリカ軍は上陸の際に本土から数千キロの離れていても万単位で兵力を上陸してくる。
ならば日本も万単位の守備兵力が必要となり陸軍の協力は必要不可欠となった。
それも各島々に配備するには数個師団は必要であり大本営レベルで調整を行う必要がある。
現場レベルでは陸海軍が協力し合う事が度々あり、佐久田も大陸での経験がある。
だが万単位となると、どうしても陸軍海軍全体で合意を得る必要があった。
これまでの戦闘でも、各島の守備に陸軍部隊も配備され海軍側の部隊と共同で戦った事はあった。
だが上手くいっていない。
理由は、陸軍と海軍で戦い方が違うからだ。
飛行場を守るとなれば万単位の防衛部隊が必要となる。
飛行機を飛ばすには平らで長い滑走路が必要なため、当然ながら飛行場は平地に建設される。そのため、周囲に守備に使えるような地形など無いので大兵力で、一箇所につき最低一個師団で守る必要がある。
米軍がガダルカナルに海兵一個師団で上陸したのは、圧倒的な兵力で落とすだけでなく、その後行われるであろう日本軍の反撃、防御に適した地形でない飛行場周辺を大兵力で守るために必要だったからだ。
この判断は間違いではなかった。
上陸後、第八艦隊が執拗に艦砲射撃を行い米海兵隊第一海兵師団に痛打を浴びせ続けなければ一木支隊の攻撃は成功しなかった。
その後の再上陸で、同規模のアメリカ軍が上陸したとき、日本軍の守備兵力は増強されたと言っても三〇〇〇名規模でしかなく、易々と上陸を許し、ルンガ飛行場――米軍呼称ヘンダーソン飛行場を奪われた。
佐久田の指導により、飛行場の南方にあるムカデ高地の山側に陣地を構築し、粘り強く抵抗しなければ、米軍は飛行場を使って制空権を確保し、ガダルカナルは早々に奪われたかもしれない。
その後、第三八師団が投入され、ガダルカナル奪回後、そのまま同島の守備に入ったが、日本から何千キロも離れた孤島への補給は日本に多大な負担をかけた。
しかも、戦線が広がった日本軍には守るべき島が多すぎ、全ての島に部隊を派遣した上で補給を維持することが出来ない。
43年早々に、ソロモン撤退及び戦線縮小、絶対国防圏建設が決定されたのも、守備兵力の増大、各拠点のある遠隔地へ補給、その船舶確保困難の事情があるからだ。
特に船舶の確保は重要で最低でも五〇〇万トンが必要とされていた。
日本のみなら三〇〇万トンで済むが、アジア開放を謳い、各国を独立させようとしている今、勢力下に収める各地域への輸出を日本が担う必要があった。
満州や南京政府、タイなど一部の国では自前の商船隊を作りつつあるが足りない。
ポルトガル、スイス、スペイン、トルコなどの中立国の船舶を使っての輸送も行っているが足りない。
戦線の縮小は日本が唱えた大東亜共栄圏の維持のため、商船の確保のためにも必要あった。
しかし、ガダルカナルで得た戦訓、必要は無駄ではなかった。
日本軍もその後、飛行場の守備に、特に絶対国防圏の内部に関しては、一個師団で守るように防衛計画を立てていた。
国力に応じた戦線までの撤退も行われた。
だが、絶対国防圏まで後退しても守備範囲は広大であり、各拠点に配備する為に必要な守備兵力を確保するには海軍独力では不可能。
陸上兵力を豊富に持つ陸軍が出て来ないとダメだ。
だから、陸軍に出てきて貰って協同作戦を行って貰った。
だが、その試みは開戦劈頭の快進撃の間だけで中途半端に終わり、ソロモンの撤退戦と外南洋の戦いでは失敗が続いていた。
陸軍と海軍では戦う場所と考え方が違うからだ。
文字通り海軍は海で戦い、陸軍は陸で戦う。
太平洋は海軍が主力であり、帝国海軍は艦隊決戦を目的に作られた軍隊だ。
艦隊決戦が勝敗を分ける戦いであり、そのために全てを投入した。
海戦で負ける事は勝負に負けたのと同じであると海軍は考えていた。
そのため海軍は海で戦って負けると意気消沈し、防衛目標の島へ上陸されると敗北の最終局面と考えた。
だが、陸軍は違う。
陸で戦う為に、敵が上陸してからが自分たちの戦いだ、と考え上陸された後を本番としていた。
マリアナで機動艦隊及び航空艦隊が戦力を喪失した時点で敗北を悟り撤退に移ったのはそういう理由からだった。
一方陸軍が上陸されてから一月以上、救援無く戦いを続けたのは、彼らの戦場だからだ。
勿論、アメリカに上陸されたとき海軍と陸軍で作戦認識の齟齬、上陸時に無防備になる瞬間を狙って集中砲火を浴びせたい陸軍砲台に対して、出来るだけ艦艇を洋上で撃滅したい海軍砲台が先走って砲撃を開始し、米海軍の集中砲火を浴びて火力集中を妨げる不手際がマリアナの戦いで散見された。
一方陸軍も、強固に構築した陣地に寄って戦ったが、制海権が無いため援軍が遅れず見殺しにするしかなかった。
マリアナで計画された第一波二個連隊、第二波二個師団の逆上陸作戦は機動艦隊の壊滅により中止とされ、マリアナ陥落は確実となった。
このことが尾を引き、陸海軍の協同作戦は暗礁に乗り上げていた。
しかし、米軍の侵攻は待ってはくれない。
何とか頭を下げて陸軍の指揮下に海軍の防備部隊を送り、陸上の防衛指揮を頼むことにしたのだ。
「アメリカ軍は圧倒的な兵力で攻めてきます。防衛するには、此方も兵力が必要です。まあマリアナの失陥のお陰で危機感が増していますから、作戦の打ち合わせは上手くいっていますが」
ドイツ国防軍が陸海軍を統一指揮したことを山下率いる軍事視察団が見学し、強く日本軍の指揮系統統一を求めたことに始まる。
だがそれは陸軍が海軍を指揮下に入れようとした一種の権力闘争の一環であって早々に潰れた。
しかし、戦局が悪化した中頃から参謀本部の瀬島中佐と軍令部の源田中佐が、陸海軍の統合、もしくは指揮系統の一本化を目指した。
最終的に陸軍に吸収されることを恐れた海軍の反対により、流れたが、陸海軍共同航空部隊T部隊の編成にこぎ着けた。
「一部でも陸軍が航空機を出してくれるのは嬉しいです」
「此方からも一個航空戦隊を第四航空軍に送り込む事になったが」
陸軍側の不平を少なくするため、有馬少将率いる第二六航空戦隊が海軍から陸軍の指揮下へ送られる事になった。
「向こうが譲歩してくださったのです此方からも部隊をだしませんと」
「陸上の指揮権を陸軍に与えたのだから、不要という声もあるが」
「陸の防衛指揮は陸軍の方が上です。我々はとても戦えません」
海のことを知らない陸軍に海軍の部隊を送り込むのは、佐久田も不安だが各島に必要な守備兵力を引き出すには必要な処置だった。
もう一つ大きな進展は、海軍の陸上防備部隊を陸軍の指揮下に入れたことだ。
太平洋は各所に島が点在しており、ここを奪い合い味方のシーレーンを確保し敵のシーレーンを遮断するのが太平洋戦争の特徴だ。
海を移動できるのは、事実上船のみであり、艦艇を持つ海軍が主役である。
しかし、船は何日も洋上にいるが何ヶ月も浮かんでいられない。
蒸気機関が出来てからは燃料補給、機関の整備を行う拠点が必要であり、ここを守る必要がある。
日米開戦までは、海軍のみで各島々を保持できると日本では考えられていた。
だが、世界恐慌後、深まる日本の孤立化、周辺国との敵対化、太平洋が余りにも広すぎたために海軍独力で拠点を守り切る事は出来なくなった。
しかもアメリカ軍は上陸の際に本土から数千キロの離れていても万単位で兵力を上陸してくる。
ならば日本も万単位の守備兵力が必要となり陸軍の協力は必要不可欠となった。
それも各島々に配備するには数個師団は必要であり大本営レベルで調整を行う必要がある。
現場レベルでは陸海軍が協力し合う事が度々あり、佐久田も大陸での経験がある。
だが万単位となると、どうしても陸軍海軍全体で合意を得る必要があった。
これまでの戦闘でも、各島の守備に陸軍部隊も配備され海軍側の部隊と共同で戦った事はあった。
だが上手くいっていない。
理由は、陸軍と海軍で戦い方が違うからだ。
飛行場を守るとなれば万単位の防衛部隊が必要となる。
飛行機を飛ばすには平らで長い滑走路が必要なため、当然ながら飛行場は平地に建設される。そのため、周囲に守備に使えるような地形など無いので大兵力で、一箇所につき最低一個師団で守る必要がある。
米軍がガダルカナルに海兵一個師団で上陸したのは、圧倒的な兵力で落とすだけでなく、その後行われるであろう日本軍の反撃、防御に適した地形でない飛行場周辺を大兵力で守るために必要だったからだ。
この判断は間違いではなかった。
上陸後、第八艦隊が執拗に艦砲射撃を行い米海兵隊第一海兵師団に痛打を浴びせ続けなければ一木支隊の攻撃は成功しなかった。
その後の再上陸で、同規模のアメリカ軍が上陸したとき、日本軍の守備兵力は増強されたと言っても三〇〇〇名規模でしかなく、易々と上陸を許し、ルンガ飛行場――米軍呼称ヘンダーソン飛行場を奪われた。
佐久田の指導により、飛行場の南方にあるムカデ高地の山側に陣地を構築し、粘り強く抵抗しなければ、米軍は飛行場を使って制空権を確保し、ガダルカナルは早々に奪われたかもしれない。
その後、第三八師団が投入され、ガダルカナル奪回後、そのまま同島の守備に入ったが、日本から何千キロも離れた孤島への補給は日本に多大な負担をかけた。
しかも、戦線が広がった日本軍には守るべき島が多すぎ、全ての島に部隊を派遣した上で補給を維持することが出来ない。
43年早々に、ソロモン撤退及び戦線縮小、絶対国防圏建設が決定されたのも、守備兵力の増大、各拠点のある遠隔地へ補給、その船舶確保困難の事情があるからだ。
特に船舶の確保は重要で最低でも五〇〇万トンが必要とされていた。
日本のみなら三〇〇万トンで済むが、アジア開放を謳い、各国を独立させようとしている今、勢力下に収める各地域への輸出を日本が担う必要があった。
満州や南京政府、タイなど一部の国では自前の商船隊を作りつつあるが足りない。
ポルトガル、スイス、スペイン、トルコなどの中立国の船舶を使っての輸送も行っているが足りない。
戦線の縮小は日本が唱えた大東亜共栄圏の維持のため、商船の確保のためにも必要あった。
しかし、ガダルカナルで得た戦訓、必要は無駄ではなかった。
日本軍もその後、飛行場の守備に、特に絶対国防圏の内部に関しては、一個師団で守るように防衛計画を立てていた。
国力に応じた戦線までの撤退も行われた。
だが、絶対国防圏まで後退しても守備範囲は広大であり、各拠点に配備する為に必要な守備兵力を確保するには海軍独力では不可能。
陸上兵力を豊富に持つ陸軍が出て来ないとダメだ。
だから、陸軍に出てきて貰って協同作戦を行って貰った。
だが、その試みは開戦劈頭の快進撃の間だけで中途半端に終わり、ソロモンの撤退戦と外南洋の戦いでは失敗が続いていた。
陸軍と海軍では戦う場所と考え方が違うからだ。
文字通り海軍は海で戦い、陸軍は陸で戦う。
太平洋は海軍が主力であり、帝国海軍は艦隊決戦を目的に作られた軍隊だ。
艦隊決戦が勝敗を分ける戦いであり、そのために全てを投入した。
海戦で負ける事は勝負に負けたのと同じであると海軍は考えていた。
そのため海軍は海で戦って負けると意気消沈し、防衛目標の島へ上陸されると敗北の最終局面と考えた。
だが、陸軍は違う。
陸で戦う為に、敵が上陸してからが自分たちの戦いだ、と考え上陸された後を本番としていた。
マリアナで機動艦隊及び航空艦隊が戦力を喪失した時点で敗北を悟り撤退に移ったのはそういう理由からだった。
一方陸軍が上陸されてから一月以上、救援無く戦いを続けたのは、彼らの戦場だからだ。
勿論、アメリカに上陸されたとき海軍と陸軍で作戦認識の齟齬、上陸時に無防備になる瞬間を狙って集中砲火を浴びせたい陸軍砲台に対して、出来るだけ艦艇を洋上で撃滅したい海軍砲台が先走って砲撃を開始し、米海軍の集中砲火を浴びて火力集中を妨げる不手際がマリアナの戦いで散見された。
一方陸軍も、強固に構築した陣地に寄って戦ったが、制海権が無いため援軍が遅れず見殺しにするしかなかった。
マリアナで計画された第一波二個連隊、第二波二個師団の逆上陸作戦は機動艦隊の壊滅により中止とされ、マリアナ陥落は確実となった。
このことが尾を引き、陸海軍の協同作戦は暗礁に乗り上げていた。
しかし、米軍の侵攻は待ってはくれない。
何とか頭を下げて陸軍の指揮下に海軍の防備部隊を送り、陸上の防衛指揮を頼むことにしたのだ。
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