架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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共同攻撃失敗

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「敵機の数が多い!」

 テニアンを発進した南山はグラマンからの攻撃を避けつつ叫ぶ。
 敵艦隊の上空で機動部隊からの攻撃隊――今朝攻撃に出た攻撃隊の残存機で編成された第二次攻撃隊がいるはずだった。
 だが、現れたのは敵の戦闘機だけ。
 マリアナを出撃した攻撃隊はグラマンヘルキャットの攻撃を受けてバラバラになって仕舞った。
 南山も空戦に巻き込まれ低空飛行で避けるので精一杯であり、僚機とははぐれてしまった。
 単機となって仕舞った南山は機体を横滑りさせ敵機の照準を付けにくくする。

「後部機銃! 撃ちまくれ!」

 同時に敵機の絶好の攻撃位置、機体上方へ機銃を撃って牽制射撃をする。
 命中弾は得られないだろうが、銃撃されると知って回避機動をしてくれれば、しめたものだ。

「敵機が、逃げていきました」
「安心するな! 新たな敵機だ!」

 離脱していくグラマンとは別に、新たなグラマンが食らいついてくる。
 グラマンヘルキャットは、絶好の位置に付くと南山の天山に向かった銃撃を浴びせた。

「大丈夫か!」

 銃撃が終わった後、南山は叫んだ。
 銃撃の瞬間機体を更に横滑りさせたので、致命傷は得ていないはず。だが、機体には数発喰らった。

「誘導装置が壊れました! 彩雲からの誘導電波、敵艦隊の位置を探知できません」
「燃料タンクに穴が! 火災は起きていませんが、半分近くを失っています」
「畜生……」

 南山は素早く計算し判断した。

「魚雷を投棄、撤退する」
「諦めるんですか?」
「敵艦隊の位置が分からないのでは闇雲に突進しても敵機に撃墜されるだけだ。それに帰還できるだけの燃料がない」

 飛行機は燃料があってこそ飛べる。
 燃料が無くなれば墜落しかない。

「ここで死んでも空母は撃沈できない。生きて帰ればまた魚雷をぶち込める機会がある。撤退する」
「分かりました。テニアンに戻りますか?」
「いや、機動部隊へ戻る。テニアンだと、また空襲を受けて出撃できなくなる」

 また連日の迎撃戦で基地の燃料が足りない。
 夜に艦砲射撃を受けて滑走路が使用不能になるのも避けたかった。

「機動部隊のおおよその位置は分かるだろう。それに近くに機動部隊から出てきた彩雲もいるはずだ」

 誘導装置が無くてもチャートを使って推測飛行で飛べる。
 彩雲に近づき、機動部隊の推定位置を教えて貰えれば艦隊に向かえる。
 また機動部隊からも攻撃隊の収容と誘導のための飛行機が飛んでいるはずで、誘導して貰えるはずだ。

「必ず生きて帰るぞ」



「どういうことだ」

 正午過ぎ、一航艦との共同攻撃失敗の報告に山口はいらだった。
 基地航空隊と機動部隊の機体を合わせれば一千機近くなる。
 昨日の攻撃を考えれば空母群の一つは確実に、上手くいけば二つを壊滅させることが出来たはずだ。
 なのになぜ航空攻撃は失敗したのか、山口は理解できなかった。

「敵の迎撃網が厳しかったようです。陸上基地の修復にも時間がかかり、しかも復旧が不十分で離陸時の事故が多発したそうです」

 報告書を読みながら佐久田は報告した。
 空襲の最中発進するのは難しいし、空爆で滑走路に空いた穴を埋めるのも不十分だ。
 それに各航空基地に分散している航空隊を空中で纏め上げるのも難しい。
 結局、集合した航空隊がバラバラに攻撃に向かい、連携のない波状攻撃を繰り返し、敵に各個撃破の機会を与えてしまったのだ。

「警戒隊より連絡! 敵編隊の接近を確認。機数二百!」
「敵艦隊が我々を見つけたか」

 昨日から敵艦隊に向かって全速力で向かっていれば、接近するのは当たり前だ。
 敵艦隊まで三百キロもないほど接近しているはず。
 敵からの攻撃を受けてもおかしくない。

「長官、全力迎撃の許可を」
「よろしい」
「全艦隊に連絡。至急待機中の全戦闘機を発艦せよ」

 各空母からは直掩に一個中隊一二機が上空に常に待機し、更に緊急事態に備えてもう一個中隊一二機が甲板上で待機している。
 一部隊は空母三隻で編成され、四個部隊がいるから最大二八八機を上空に上げることができる。
 さらに第五部隊に配備した軽空母は防空に専念するよう定められており、対潜警戒用の攻撃機を除けばすべて戦闘機が搭載されいる。その数合計一〇〇機。
 三八八機の戦闘機が第一機動艦隊を守る為に用意されている。

「だが敵艦隊はどうやって攻撃隊を出したのだ」

 第一機動艦隊の空襲と基地航空隊の襲撃で攻撃隊を、まとまった数の編隊を出す余裕はないはずだ。

「おそらく、マリアナ攻撃に出ていた攻撃隊を我々に向けたのでしょう。マリアナ航空基地上空が守られるようになった上に、我々を発見したのですから」

 空母同士の戦いの場合、相手の空母を撃沈しなければ自分が敗れる。それ以前に、再び発見できる保証はない。
 敵が攻撃してくるのは当たり前だった。

「だがマリアナの基地は再び敵機の攻撃を排除できるのでは」

 参謀長が楽観的な意見を述べたが、打ち砕くような報告が入ってきた。

「報告です。敵の戦艦部隊がテニアン及びグアム接近! 艦砲射撃を行っております。地上基地は発進不能」
「やはりな」

 佐久田は顔をしかめた。
 航空攻撃だけでなく戦艦で飛行場を砲撃し使用不能にするのは、ソロモンで日本軍がよく使った手であり、米軍が取り入れた戦法だ。
 ここで使われる事は十分に予想できたが、刻一刻と変化する情勢への対応に精一杯で数多が回らなかった。

「今日中に一航艦が再び攻撃する事は不可能か」

 艦砲射撃の中離陸できる機体は無いし滑走路も穴だらけだ。
 一航艦は事実上脱落したも同然だ。

「長官、まもなく、第二次攻撃隊と昨日放ちマリアナに着陸した攻撃隊の機体が戻ってきます」
「それが……」

 佐久田が何を言いたいのか山口には分かった。
 敵の攻撃隊による空襲と味方の攻撃隊の収容。
 どちらを優先するべきか問いかけてきているのだ。
 マリアナに引き返しても再び離陸出来る保証はない。そして引き返すだけの燃料ももうない。
 だが収容しなければ攻撃機は失ってしまう。
 非常に悩ましい問題だった。

「……何か腹案があるのか?」

 山口は佐久田に尋ねた。指揮官の質問に答えるのが参謀の役目だ。

「はい」

 佐久田は自身の案について話した。

「……」

 山口は一瞬顔をしかめた。
 作戦案に初めから想定されているものだ。だが実際に命じるとなると躊躇する。
 たとえ人殺し多門丸といえどもだ。
 だが、それ以外に案はなく山口は佐久田に実行を命じた。
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