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第一章:幸せの配分
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しおりを挟むなぜなら、僕には「何だか暗闇で物が見えにくいな」という症状しかなかったからだ。
けれど、理由もわからぬまま検査を
進めてみれば、気付かぬうちに視野が欠けてゆ
く「視野狭窄」という症状も始まっていた。
-----自分が見ている景色は、人と同じもの。
そう思い込んでいた僕は、このとき初めて、
自分の見える世界が人とは違っていたことを
知った。言われてみれば、子供のころから転ん
だり、躓いたりすることが多かったな。
スポーツ全般苦手だし。帰りの車の中で、
ぼんやりと考えた。
この病の代表的な症状は、「夜盲」と「視野狭窄」、そして症状が進むにつれて
「視力低下」も起こるらしい。
「個人差はありますが、完全に失明する
ケースは少ないですよ。医療技術は日進月歩
しているし、前向きに考えましょう」
元来、楽観的で少々のん気な僕は、医師の
その言葉に笑って頷いた。病気という不幸を
乗り越えれば、その先は幸せなことが沢山待
っているに違いない。いつの間にか根付いて
いたそういう考え方もあって、僕が病気の
ことで塞ぎ込むことはなかった。
それから、日常生活は少しだけ変わった。
進行を遅らせる“らしい”ビタミン剤の服用
と紫外線から視細胞を保護する「遮光眼鏡」
の着用だ。眼鏡と言っても見た目はサング
ラスと同じなので、オシャレに見えるグレー
のラウンドタイプを選んだ。
「ちょっと軽い人に見えるんじゃない?」
一緒に選んでいた母は難色を示したが、
眼鏡は屋外でしかつけないし、鏡に映る自分
が気に入ったので、僕はあえて聞こえない
フリをした。
高校は特に問題もなく卒業し、猛勉強の末
受かった国立大学でもそれほど困ることは
なかった。
視野が欠けていることもあって、大学でも
スポーツサークルに入ることはできなかった
が、数学の知識を存分に活かせる解析学サー
クルに入り、仲間たちと数々の難問を解き
明かした。
すべてが順調だった。彼女も出来たし、
キャンパスライフを楽しむ姿は、他の学生と
何ひとつ変わらない。ところが、就職活動
を始めたころから、自分には“視覚障がい”
があるということを意識することが増えた。
僕は運転免許証を取ることが出来ない。
そのことが、意外にも就職活動の枷となっ
たのだ。考えてみれば、何の不自由もない
健常者ですら、内定を取るのに苦労する
ご時世だ。
履歴書の健康欄に病名があり、多くの学生
が当たり前のように取得している運転免許が
ないだけで、僕は早々に選考から外されて
しまった。
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