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episode5 朔風に消える
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「どうしよう。あの時、私が嘘なんてついたから……」
失望に満ちた七海の顔を思い出して、つばさは声を震わせた。嵐が首を振る。
背を預けていた鉄棒から躰を起こすと、つばさに歩み寄った。
「つばさは何も悪くないよ。七海さんが悪霊になったのも、つばさのせいじゃない」
「でも、私の嘘が彼女を傷つけたのは間違いないでしょう?だって、失望して
たもん、嘘つきって。こんな嘘で加賀見さんが救われるわけないって。それに
私、死んでしまった人より、生きてる加賀見さんの気持ちの方が大事だって、
あの時そう思ったから言ったの。だから……っ」
七海が消えた瞬間からずっと、胸に溜まっていた想いが口をついて出る。
君は嘘が付けないタイプだね、と笑った加賀見に、自分は笑って嘘を付いた。
そして、その嘘で七海が傷ついた。だからといって、どうすれば良かったのかも、
わからない。どちらも、これ以上傷付いて欲しくなかったのに………
つばさは、大粒の泪を流していた。視界に映る嵐の顔が、大きく歪んでいる。
こんな風に、嵐を困らせるつもりじゃなかったのに、胸に溜まっていたものが
どんどん泪に変わってしまう。
「つばさのしたことは、間違いなんかじゃないよ。正しいことが、ひとつとは
限らないんだ。加賀見さんを救うためにつばさの嘘が必要だったなら、俺が
七海さんの魂を救いに行けばいい」
穏やかな声でそう言って、嵐がつばさの泪を拭う。温かな手の平に、つばさの
頬が包まれる。
「俺が行ってくるよ。彼女を浄化しに。犯人が呪われるのは天罰かもしれない
けど、それで七海さんがこの世を彷徨い続けるのを見過ごすわけにいかないし」
大きく目を見開いたつばさに、嵐はふわりと微笑む。正しいことはひとつじゃない
と言ったその言葉通りに、嵐が七海を救ってくれる。つばさは、嵐の服を掴んだ。
「じゃあ、私も一緒に行く。何にもできないけど、せめて七海さんに謝りたい」
食い入るように嵐を見つめるつばさに、嵐は静かに首を振る。
「ごめん。これは俺の仕事だから、つばさは連れて行けない。つばさがいる
ことで、七海さんの心に波風を立てるわけにもいかないんだ。理由は……
言わなくてもわかるよな?」
困ったように首を傾げて、嵐が顔を覗く。つばさは、黙って頷くしかなかった。
七海は、つばさを良く思っていないばかりか、嫉妬心さえ抱いている。嵐に
のこのこついて行ったところで、役に立たないどころか、除霊の邪魔に
なってしまうだろう。無力すぎて、何だか情けない。
「ごめんね。私、一緒にいても、何にも嵐の役に立たなかったね」
やっと乾いたばかりの頬を、また泪が濡らしてしまう。もう泣くなよ、と
嵐が苦し気に言って、そうして………
頬に触れていた手で、つばさを抱き寄せた。
「そんな風に泣かれたら、我慢できなくなる」
頭の上から擦れた声がして、つばさは躰を硬くした。突然のことで、
頭が真っ白になってしまう。どうして、自分はこんなにも強く、嵐に抱きしめ
られているのだろう?考えても、わからない。わかるのは、嵐の腕の強さと、
息づかいだけだ。
「役に立って欲しくて、俺はつばさを呼んだんじゃないよ。ただ、どうしても、
一緒にいたかったんだ。俺と同じ世界を見て、俺の隣にいて欲しかった。
俺がつばさの隣りにいられる理由は、それしかないから……」
嵐が切なげに息を吐きながら、つばさの髪に口づける。嵐の腕の中は温かい
はずなのに、つばさはびくりと肩を震わせた。髪に口づけていた唇が耳に触れる。
嵐の唇の熱が伝わる。熱い。つばさは、どうしたらいいかわからずに、
嵐の制服を握りしめた。
「……嵐?あの……」
強く抱きしめたまま、言葉を止めてしまった嵐に声をかける。
けれど、返ってきた言葉に、つばさは痛いほど鼓動を鳴らすことになった。
失望に満ちた七海の顔を思い出して、つばさは声を震わせた。嵐が首を振る。
背を預けていた鉄棒から躰を起こすと、つばさに歩み寄った。
「つばさは何も悪くないよ。七海さんが悪霊になったのも、つばさのせいじゃない」
「でも、私の嘘が彼女を傷つけたのは間違いないでしょう?だって、失望して
たもん、嘘つきって。こんな嘘で加賀見さんが救われるわけないって。それに
私、死んでしまった人より、生きてる加賀見さんの気持ちの方が大事だって、
あの時そう思ったから言ったの。だから……っ」
七海が消えた瞬間からずっと、胸に溜まっていた想いが口をついて出る。
君は嘘が付けないタイプだね、と笑った加賀見に、自分は笑って嘘を付いた。
そして、その嘘で七海が傷ついた。だからといって、どうすれば良かったのかも、
わからない。どちらも、これ以上傷付いて欲しくなかったのに………
つばさは、大粒の泪を流していた。視界に映る嵐の顔が、大きく歪んでいる。
こんな風に、嵐を困らせるつもりじゃなかったのに、胸に溜まっていたものが
どんどん泪に変わってしまう。
「つばさのしたことは、間違いなんかじゃないよ。正しいことが、ひとつとは
限らないんだ。加賀見さんを救うためにつばさの嘘が必要だったなら、俺が
七海さんの魂を救いに行けばいい」
穏やかな声でそう言って、嵐がつばさの泪を拭う。温かな手の平に、つばさの
頬が包まれる。
「俺が行ってくるよ。彼女を浄化しに。犯人が呪われるのは天罰かもしれない
けど、それで七海さんがこの世を彷徨い続けるのを見過ごすわけにいかないし」
大きく目を見開いたつばさに、嵐はふわりと微笑む。正しいことはひとつじゃない
と言ったその言葉通りに、嵐が七海を救ってくれる。つばさは、嵐の服を掴んだ。
「じゃあ、私も一緒に行く。何にもできないけど、せめて七海さんに謝りたい」
食い入るように嵐を見つめるつばさに、嵐は静かに首を振る。
「ごめん。これは俺の仕事だから、つばさは連れて行けない。つばさがいる
ことで、七海さんの心に波風を立てるわけにもいかないんだ。理由は……
言わなくてもわかるよな?」
困ったように首を傾げて、嵐が顔を覗く。つばさは、黙って頷くしかなかった。
七海は、つばさを良く思っていないばかりか、嫉妬心さえ抱いている。嵐に
のこのこついて行ったところで、役に立たないどころか、除霊の邪魔に
なってしまうだろう。無力すぎて、何だか情けない。
「ごめんね。私、一緒にいても、何にも嵐の役に立たなかったね」
やっと乾いたばかりの頬を、また泪が濡らしてしまう。もう泣くなよ、と
嵐が苦し気に言って、そうして………
頬に触れていた手で、つばさを抱き寄せた。
「そんな風に泣かれたら、我慢できなくなる」
頭の上から擦れた声がして、つばさは躰を硬くした。突然のことで、
頭が真っ白になってしまう。どうして、自分はこんなにも強く、嵐に抱きしめ
られているのだろう?考えても、わからない。わかるのは、嵐の腕の強さと、
息づかいだけだ。
「役に立って欲しくて、俺はつばさを呼んだんじゃないよ。ただ、どうしても、
一緒にいたかったんだ。俺と同じ世界を見て、俺の隣にいて欲しかった。
俺がつばさの隣りにいられる理由は、それしかないから……」
嵐が切なげに息を吐きながら、つばさの髪に口づける。嵐の腕の中は温かい
はずなのに、つばさはびくりと肩を震わせた。髪に口づけていた唇が耳に触れる。
嵐の唇の熱が伝わる。熱い。つばさは、どうしたらいいかわからずに、
嵐の制服を握りしめた。
「……嵐?あの……」
強く抱きしめたまま、言葉を止めてしまった嵐に声をかける。
けれど、返ってきた言葉に、つばさは痛いほど鼓動を鳴らすことになった。
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