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episode5 朔風に消える
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「斗哉っ、あっち!!」
高架沿いに続く遊歩道を走る嵐の背中が、遠くに見える。ここは通りの
歩道よりも歩行者が少ない。犯人も逃げやすいと思ったのだろう。
斗哉は門田刑事に、高架下を北に向かいます、とだけ言うと、電話を
切って全力で走り出した。つばさも斗哉に並ぶ。冷たい空気が喉の奥を
キリと絞めつけていたが、足を止めることはできない。
嫌な予感がするのだ。
犯人の消息が掴めてもなお、門田刑事への連絡を待ってくれと言った
加賀見の意図が、今になってわかる。犯人と鉢合わせた瞬間、加賀見の
背中から感じたあの空気を、殺気と呼ぶのなら………彼を止めないと。
つばさは、犯人を指差してしまった自分の軽率さを悔やみながら、走った。
不意に、視界の先で犯人が遊歩道と空き地とを遮る緑色のフェンスを
飛び越えたのが見えた。すぐ後を加賀見もよじ登って、飛び降りる。
追いついた嵐もフェンスに足を掛けたが、加賀見が手にしているものを
見て、鋭い声をあげた。
「逃げろっ!!!!」
フェンスを飛び越えながら、そう叫んだ嵐を振り返った犯人は、次の瞬間、
愕きに足をもつれさせて、その場に尻餅をついた。犯人に飛びかかろ
うとする加賀見の手には、刃渡り8センチほどのナイフが握られている。
ジャケットの内ポケに忍ばせていたのだろうか?いつから???
走りついたフェンスの前で、顔面を蒼白にして立ち止まったつばさに、
フェンスを飛び越えようとする斗哉の声が降ってきた。
「お前はそこにいろっ!!」
ガシャ、とフェンスを揺らして斗哉が飛び降りるよりも先に、加賀見が
犯人に襲い掛かった。制止しようと嵐が加賀見の手に掴みかかったが、
体格差がありすぎて振り払われてしまう。ざっ、と嵐の手の甲に赤い
線が走り、ポタポタと血が流れた。加賀見が目をギラつかせて犯人に
突進する。振りかざされた刃は、這いつくばって逃げようとする犯人の
右肩に深く食い込んだ。
「ぎゃぅっ!!!」
耳を塞ぎたくなるような犯人の悲鳴が、頭上を通過する電車の音に
混ざって聴こえた。痛みに顔を歪めながら、その場をゴロゴロと犯人が
転がる。つばさは、黙って見ていられず、フェンスを飛び降りた。
「死ねっ!!!死んで、七海の前で詫びろ!!!」
奇声とも呼べる声でそう喚きながら、再び加賀見が刃を突き立てようと
する。その躰を、駆けつけた斗哉が後ろから羽交い絞めにした。
「ダメだ!!加賀見さん、俺たちはこんなことさせるために、ここに
来たんじゃない!!」
ものすごい力で自分を振り払おうとする加賀見に抗いながら、斗哉が
ありったけの声で叫ぶ。けれど、加賀見の耳にその声は届かない。
何かに憑りつかれたように、死ね!!死ね!!と喚き続けている。
その加賀見の右手を、突然、脇から嵐が蹴り上げた。
「……っつ!!」
不意を突かれた加賀見の手から、ナイフがぽろりと落ちる。つばさは、
透かさずナイフに駆け寄ると、思いきり遠くに蹴とばした。地面の上を
くるくると回りながら、ナイフが空き地の隅へと転がる。その瞬間、
助かったとばかりに薄笑いを浮かべた犯人に、つばさは鋭い眼差し
を向けた。こいつを助けたくて、加賀見を止めたんじゃない。
そう、わかっていても、やりきれない。つばさは、唇を強く噛んだ。
その時だった。
「そこまでだっっ!!」
叫び声とともに、黒住刑事たちが犯人に駆け寄ってきた。
痛みに顔を歪めながら、それでも立ち上がって逃げようとする犯人に、
黒住刑事がのしかかり手錠を掛ける。
高架沿いに続く遊歩道を走る嵐の背中が、遠くに見える。ここは通りの
歩道よりも歩行者が少ない。犯人も逃げやすいと思ったのだろう。
斗哉は門田刑事に、高架下を北に向かいます、とだけ言うと、電話を
切って全力で走り出した。つばさも斗哉に並ぶ。冷たい空気が喉の奥を
キリと絞めつけていたが、足を止めることはできない。
嫌な予感がするのだ。
犯人の消息が掴めてもなお、門田刑事への連絡を待ってくれと言った
加賀見の意図が、今になってわかる。犯人と鉢合わせた瞬間、加賀見の
背中から感じたあの空気を、殺気と呼ぶのなら………彼を止めないと。
つばさは、犯人を指差してしまった自分の軽率さを悔やみながら、走った。
不意に、視界の先で犯人が遊歩道と空き地とを遮る緑色のフェンスを
飛び越えたのが見えた。すぐ後を加賀見もよじ登って、飛び降りる。
追いついた嵐もフェンスに足を掛けたが、加賀見が手にしているものを
見て、鋭い声をあげた。
「逃げろっ!!!!」
フェンスを飛び越えながら、そう叫んだ嵐を振り返った犯人は、次の瞬間、
愕きに足をもつれさせて、その場に尻餅をついた。犯人に飛びかかろ
うとする加賀見の手には、刃渡り8センチほどのナイフが握られている。
ジャケットの内ポケに忍ばせていたのだろうか?いつから???
走りついたフェンスの前で、顔面を蒼白にして立ち止まったつばさに、
フェンスを飛び越えようとする斗哉の声が降ってきた。
「お前はそこにいろっ!!」
ガシャ、とフェンスを揺らして斗哉が飛び降りるよりも先に、加賀見が
犯人に襲い掛かった。制止しようと嵐が加賀見の手に掴みかかったが、
体格差がありすぎて振り払われてしまう。ざっ、と嵐の手の甲に赤い
線が走り、ポタポタと血が流れた。加賀見が目をギラつかせて犯人に
突進する。振りかざされた刃は、這いつくばって逃げようとする犯人の
右肩に深く食い込んだ。
「ぎゃぅっ!!!」
耳を塞ぎたくなるような犯人の悲鳴が、頭上を通過する電車の音に
混ざって聴こえた。痛みに顔を歪めながら、その場をゴロゴロと犯人が
転がる。つばさは、黙って見ていられず、フェンスを飛び降りた。
「死ねっ!!!死んで、七海の前で詫びろ!!!」
奇声とも呼べる声でそう喚きながら、再び加賀見が刃を突き立てようと
する。その躰を、駆けつけた斗哉が後ろから羽交い絞めにした。
「ダメだ!!加賀見さん、俺たちはこんなことさせるために、ここに
来たんじゃない!!」
ものすごい力で自分を振り払おうとする加賀見に抗いながら、斗哉が
ありったけの声で叫ぶ。けれど、加賀見の耳にその声は届かない。
何かに憑りつかれたように、死ね!!死ね!!と喚き続けている。
その加賀見の右手を、突然、脇から嵐が蹴り上げた。
「……っつ!!」
不意を突かれた加賀見の手から、ナイフがぽろりと落ちる。つばさは、
透かさずナイフに駆け寄ると、思いきり遠くに蹴とばした。地面の上を
くるくると回りながら、ナイフが空き地の隅へと転がる。その瞬間、
助かったとばかりに薄笑いを浮かべた犯人に、つばさは鋭い眼差し
を向けた。こいつを助けたくて、加賀見を止めたんじゃない。
そう、わかっていても、やりきれない。つばさは、唇を強く噛んだ。
その時だった。
「そこまでだっっ!!」
叫び声とともに、黒住刑事たちが犯人に駆け寄ってきた。
痛みに顔を歪めながら、それでも立ち上がって逃げようとする犯人に、
黒住刑事がのしかかり手錠を掛ける。
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