132 / 173
episode5 朔風に消える
132
しおりを挟む
「斗哉っ、あっち!!」
高架沿いに続く遊歩道を走る嵐の背中が、遠くに見える。ここは通りの
歩道よりも歩行者が少ない。犯人も逃げやすいと思ったのだろう。
斗哉は門田刑事に、高架下を北に向かいます、とだけ言うと、電話を
切って全力で走り出した。つばさも斗哉に並ぶ。冷たい空気が喉の奥を
キリと絞めつけていたが、足を止めることはできない。
嫌な予感がするのだ。
犯人の消息が掴めてもなお、門田刑事への連絡を待ってくれと言った
加賀見の意図が、今になってわかる。犯人と鉢合わせた瞬間、加賀見の
背中から感じたあの空気を、殺気と呼ぶのなら………彼を止めないと。
つばさは、犯人を指差してしまった自分の軽率さを悔やみながら、走った。
不意に、視界の先で犯人が遊歩道と空き地とを遮る緑色のフェンスを
飛び越えたのが見えた。すぐ後を加賀見もよじ登って、飛び降りる。
追いついた嵐もフェンスに足を掛けたが、加賀見が手にしているものを
見て、鋭い声をあげた。
「逃げろっ!!!!」
フェンスを飛び越えながら、そう叫んだ嵐を振り返った犯人は、次の瞬間、
愕きに足をもつれさせて、その場に尻餅をついた。犯人に飛びかかろ
うとする加賀見の手には、刃渡り8センチほどのナイフが握られている。
ジャケットの内ポケに忍ばせていたのだろうか?いつから???
走りついたフェンスの前で、顔面を蒼白にして立ち止まったつばさに、
フェンスを飛び越えようとする斗哉の声が降ってきた。
「お前はそこにいろっ!!」
ガシャ、とフェンスを揺らして斗哉が飛び降りるよりも先に、加賀見が
犯人に襲い掛かった。制止しようと嵐が加賀見の手に掴みかかったが、
体格差がありすぎて振り払われてしまう。ざっ、と嵐の手の甲に赤い
線が走り、ポタポタと血が流れた。加賀見が目をギラつかせて犯人に
突進する。振りかざされた刃は、這いつくばって逃げようとする犯人の
右肩に深く食い込んだ。
「ぎゃぅっ!!!」
耳を塞ぎたくなるような犯人の悲鳴が、頭上を通過する電車の音に
混ざって聴こえた。痛みに顔を歪めながら、その場をゴロゴロと犯人が
転がる。つばさは、黙って見ていられず、フェンスを飛び降りた。
「死ねっ!!!死んで、七海の前で詫びろ!!!」
奇声とも呼べる声でそう喚きながら、再び加賀見が刃を突き立てようと
する。その躰を、駆けつけた斗哉が後ろから羽交い絞めにした。
「ダメだ!!加賀見さん、俺たちはこんなことさせるために、ここに
来たんじゃない!!」
ものすごい力で自分を振り払おうとする加賀見に抗いながら、斗哉が
ありったけの声で叫ぶ。けれど、加賀見の耳にその声は届かない。
何かに憑りつかれたように、死ね!!死ね!!と喚き続けている。
その加賀見の右手を、突然、脇から嵐が蹴り上げた。
「……っつ!!」
不意を突かれた加賀見の手から、ナイフがぽろりと落ちる。つばさは、
透かさずナイフに駆け寄ると、思いきり遠くに蹴とばした。地面の上を
くるくると回りながら、ナイフが空き地の隅へと転がる。その瞬間、
助かったとばかりに薄笑いを浮かべた犯人に、つばさは鋭い眼差し
を向けた。こいつを助けたくて、加賀見を止めたんじゃない。
そう、わかっていても、やりきれない。つばさは、唇を強く噛んだ。
その時だった。
「そこまでだっっ!!」
叫び声とともに、黒住刑事たちが犯人に駆け寄ってきた。
痛みに顔を歪めながら、それでも立ち上がって逃げようとする犯人に、
黒住刑事がのしかかり手錠を掛ける。
高架沿いに続く遊歩道を走る嵐の背中が、遠くに見える。ここは通りの
歩道よりも歩行者が少ない。犯人も逃げやすいと思ったのだろう。
斗哉は門田刑事に、高架下を北に向かいます、とだけ言うと、電話を
切って全力で走り出した。つばさも斗哉に並ぶ。冷たい空気が喉の奥を
キリと絞めつけていたが、足を止めることはできない。
嫌な予感がするのだ。
犯人の消息が掴めてもなお、門田刑事への連絡を待ってくれと言った
加賀見の意図が、今になってわかる。犯人と鉢合わせた瞬間、加賀見の
背中から感じたあの空気を、殺気と呼ぶのなら………彼を止めないと。
つばさは、犯人を指差してしまった自分の軽率さを悔やみながら、走った。
不意に、視界の先で犯人が遊歩道と空き地とを遮る緑色のフェンスを
飛び越えたのが見えた。すぐ後を加賀見もよじ登って、飛び降りる。
追いついた嵐もフェンスに足を掛けたが、加賀見が手にしているものを
見て、鋭い声をあげた。
「逃げろっ!!!!」
フェンスを飛び越えながら、そう叫んだ嵐を振り返った犯人は、次の瞬間、
愕きに足をもつれさせて、その場に尻餅をついた。犯人に飛びかかろ
うとする加賀見の手には、刃渡り8センチほどのナイフが握られている。
ジャケットの内ポケに忍ばせていたのだろうか?いつから???
走りついたフェンスの前で、顔面を蒼白にして立ち止まったつばさに、
フェンスを飛び越えようとする斗哉の声が降ってきた。
「お前はそこにいろっ!!」
ガシャ、とフェンスを揺らして斗哉が飛び降りるよりも先に、加賀見が
犯人に襲い掛かった。制止しようと嵐が加賀見の手に掴みかかったが、
体格差がありすぎて振り払われてしまう。ざっ、と嵐の手の甲に赤い
線が走り、ポタポタと血が流れた。加賀見が目をギラつかせて犯人に
突進する。振りかざされた刃は、這いつくばって逃げようとする犯人の
右肩に深く食い込んだ。
「ぎゃぅっ!!!」
耳を塞ぎたくなるような犯人の悲鳴が、頭上を通過する電車の音に
混ざって聴こえた。痛みに顔を歪めながら、その場をゴロゴロと犯人が
転がる。つばさは、黙って見ていられず、フェンスを飛び降りた。
「死ねっ!!!死んで、七海の前で詫びろ!!!」
奇声とも呼べる声でそう喚きながら、再び加賀見が刃を突き立てようと
する。その躰を、駆けつけた斗哉が後ろから羽交い絞めにした。
「ダメだ!!加賀見さん、俺たちはこんなことさせるために、ここに
来たんじゃない!!」
ものすごい力で自分を振り払おうとする加賀見に抗いながら、斗哉が
ありったけの声で叫ぶ。けれど、加賀見の耳にその声は届かない。
何かに憑りつかれたように、死ね!!死ね!!と喚き続けている。
その加賀見の右手を、突然、脇から嵐が蹴り上げた。
「……っつ!!」
不意を突かれた加賀見の手から、ナイフがぽろりと落ちる。つばさは、
透かさずナイフに駆け寄ると、思いきり遠くに蹴とばした。地面の上を
くるくると回りながら、ナイフが空き地の隅へと転がる。その瞬間、
助かったとばかりに薄笑いを浮かべた犯人に、つばさは鋭い眼差し
を向けた。こいつを助けたくて、加賀見を止めたんじゃない。
そう、わかっていても、やりきれない。つばさは、唇を強く噛んだ。
その時だった。
「そこまでだっっ!!」
叫び声とともに、黒住刑事たちが犯人に駆け寄ってきた。
痛みに顔を歪めながら、それでも立ち上がって逃げようとする犯人に、
黒住刑事がのしかかり手錠を掛ける。
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる