彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode5 朔風に消える

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「捜査協力???」


つばさの話を聞くなり、斗哉はくるりと机の椅子を回転させて、目を見開いた。

あの後、嵐から電話を受けたつばさは、真理と別れたその足で斗哉の部屋に来た。

もちろん、嵐の用件を斗哉に伝えるためであり、斗哉の許しをうために、である。

嵐の電話は、門田刑事から捜査協力の依頼を受けた、という内容だった。

門田刑事が、自分ではなくに連絡を入れたことに、いささかの不満を

感じつつも、それはそれ。

「都合が良ければぜひ、藤守さんと黒沢君もご一緒に」という伝言を聞けば、

居ても立っても居られない。つばさは、斗哉の返事が訊きたくて、

部屋に直行したのだ。

「俺は別に構わないけど、いつなの?門田刑事に嵐が呼ばれてる日って」

斗哉はちら、とカレンダーに目をやって、つばさを見上げた。

それなんだけどさ、と、つばさが口ごもる。

「今週末なんだよね。西警察署に来て欲しいって、嵐が呼ばれてるの……」

何となく、つばさの答えを予測していた斗哉は、そういうことか、

と心の中で呟いた。

今週末は、久々にデートに行く約束をしていたのだ。臨海公園に行く予定だった。

デートをするのはクリスマス以来だから、つばさも楽しみにしていたはずだが……

当のつばさは、嵐の誘いを断れば、次はいつチャンスがあるかわからない、と

言いたげにおねだりを始める。

「ねぇ、斗哉~行こうよ、一緒に。こんなこと、なかなか経験できないよ?」

つばさは、不機嫌な顔で頬杖をついている斗哉の肩を、ゆさゆさと揺すった。

斗哉が、はあ、とため息をついて、つばさを見上げる。つばさの性格は嫌という

ほど熟知している。とにかく、言い出したらきかない。斗哉が「うん」と言うまで、

これが続くのだ。ねぇ、ねぇ、とつばさが斗哉の顔を覗く。斗哉は、半ば諦めた

顔でしぶしぶ頷いた。

「わかったよ。どうせダメだって言っても、俺がいいって言うまで粘るんだろうし」

「ほんと?ありがとう!!じゃあ、さっそく、嵐に返事するね」

あっさりと承諾してくれた斗哉に、つばさはくるりと背を向けて携帯を取り出す。

けれど、満面の笑みで携帯の画面を操作していたのも束の間、つばさの手から、

斗哉はすっと携帯を抜き取ってしまった。えっ、と怪訝な顔をして振り返る。

不意に、腰を引き寄せられて、つばさは、斗哉の膝に座る形になった。




「あの、斗哉……携帯……」

つばさは、間近にある斗哉の顔を見下ろしながら、か細い声で言った。斗哉に

抜き取られた携帯は、ぱた、と机の奥に伏せられている。手を伸ばしても、届き

そうにない。やはり、怒っているのだろうか?と不安になったつばさに、斗哉は

艶やかな眼差しを向けた。

「いやさ。せっかくのデートを一蹴いっしゅうされるんだから、それ相応の見返りを

もらわないと納得できないな……と思って」

斗哉の低い声に、甘さが滲む。

伸ばされた指が、優しくつばさの頬を滑って、唇に触れた。どきりと心臓が跳ねて、

つばさの頬が染まる。斗哉が言うところのの意味がわかって、つばさは

慌てて首を振った。

「ま、待って。今日はダメだよ。だって、おじさんも、おばさんも下にいるし、

宿題だって……まだ終わってないし」

そう言っている間にも、スカートの中に忍び込んでくる、斗哉の手を必死に握る。

初体験の夜から、何度かこの部屋で斗哉に抱かれてはいるが、それは、この家に

誰もいない時だ。こんな平日の、両親がいる時に、斗哉に求められたことはない。



もしも、おばさんが2階にあがってきたらと思うと………ぞっとする。
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