彼にはみえない

橘 弥久莉

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episode3 転入生  神崎 嵐

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斗哉は参考書に目を落としたまま、ん?と返事をした。

「今日、新しく友達が出来たんだ」

「友達?」

「うん。ほら、昨日、うちの学校に転入して来た……」

つばさがそこまで言うと、その先はくるりと振り返った斗哉が言った。

「もしかして、神崎嵐?……B組の」

「そう!斗哉も知ってたんだ」

振り返った斗哉を見上げて、つばさが笑う。一瞬、斗哉の表情が

止まった気がしたけれど、つばさは、参考書を手に自分の前に

戻ってきた斗哉に話を続けた。

「就任式のあと、上履き買いに購買に行ったんだけどね、うっかり

渡り廊下で転んじゃって、で、偶然通りかかった嵐が助けてくれたんだ」

きらきらと、目を輝かせて語るつばさに、斗哉は複雑な顔をする。

そして「ふうん。が、ねぇ」と反芻した。つばさは、そんな斗哉の

様子を気に留めるでもなく、さらに言葉を続ける。

「それだけじゃなくてね、私も本当にびっくりしたんだけど、嵐も

霊能力者なんだよ。しかも、私より凄いの!代々続く霊能一族の

当主でね、渡り廊下のところにいた生霊が私に怨念持ってて危ない

から、って、護符までくれたんだ。ほら、これ」

興奮冷めやらぬ様子でそこまで言ったつばさは、ブレザーの懐から

嵐がくれた護符を取り出し、見せた。


「あの転入生が霊能力者?しかも、霊能一族の当主って……

まだ、俺たちと同じ17だろう?」

にわかに信じ難いという顔で、斗哉が護符を手に取って目を見開く。

それもそうだろう。今までつばさの人生で、同じように霊が見える

という人間に出会うこともなければ、そういった事を話せる友人さえ

一人もいなかったのだ。突然、現れた転入生が霊能力者で、しかも

周囲の女子がざわつくほどのイケメンとなれば……斗哉も内心、

穏やかではない。

「うん。だから凄いなぁ、って思ってさ。私なんかお婆ちゃんの血を

受け継いでるのに、何にもできないんだもん……嵐みたいに、

何でもわかって、自分で解決できれば、もっと堂々と生きられるん

だけどなぁ……」

尊敬と、憧れと、少しの嫉妬を交えた感情に浸りながら、つばさは

斗哉の手の中の護符を眺める。その顔は、まるで嵐に恋をしている

乙女のようで……斗哉はため息をつくと護符をつばさに返した。

「良かったな。これがあれば俺が渡したお守りなんて必要ないし、

嵐がいれば俺なんか……」

らしくもない愚痴が口を突いて出て、斗哉は途中で言葉を呑んだ。

つばさがムッ、とした顔で斗哉を睨んでいる。こんな顔をさせて

しまう自分が、どうにも情けない。斗哉は、ごめん、と呟いた。



つばさは首を振りながら、スカートのポケットを探る。そして、

斗哉がくれた人形のお守りを手に取って見せた。何となく、嵐の

護符と斗哉のお守りを重ねて持ち歩くのは、気が引けたのだ。

神様同士が喧嘩してしまうような気がして、分けて持ち歩いていた。

「斗哉がくれたお守りだって、大事に持ってるよ。何かの時は、

きっと守ってくれると思うし……嵐は大事な仲間で、友達だけど、

それは斗哉だって同じだよ。大事な幼馴染だし、友達だし……」


そこまで言いかけたつばさの頬に、斗哉の手の平が触れた。
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