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episode3 転入生 神崎 嵐
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はっ、と息を呑んだ時には、斗哉の睫毛が間近に見えて、
つばさの唇が柔らかな斗哉の唇に塞がれる。ふわりと重ねられた
それはすぐに離れて、こつり、と斗哉の額がつばさに当てられた。
つばさは、濡れた唇に斗哉の温かな息がかかるのを感じながら、
どきどきと騒ぎ出した胸の鼓動を、耳の奥で聞いた。
「お前…ただの友達とこういうことするの?」
囁くようにそう言った斗哉に、つばさは小さく首を振る。
「じゃあ、ただの幼馴染とこんなことする?」
同じように質問を繰り返した斗哉に、つばさは、また首を振った。
「なら……少しは俺の気持ちも考えろよ。嬉しそうに別の男の
話するお前見て、俺が何にも感じないわけないだろうが……」
こつん、と斗哉の額で小突かれて、つばさは、いたっ、と声を
あげた。斗哉の顔が離れてゆく。額を擦りながら、ごめん、と
呟いて顔を上げれば、目の前にはいつもの斗哉の顔があった。
「まあ、お前の交友関係を制限する権利なんかないからな。
嵐の存在が心強いのはわかるし、会うなとは言わないけど、
他の女子からやっかみだけ買わないように気を付けろよ。
上履き代だって、馬鹿にならないだろう?」
心配そうに顔を顰めてそう言った斗哉に、つばさは、しまった、
と舌を出して見せた。いつもいつも、こういうことがある度に、
斗哉には黙っておくのだ。たいていの場合、犯人は斗哉に
想いを寄せる女の子だし、犯人を暴けば暴くほど、斗哉が
傷ついてつばさから女子の友達がいなくなってしまう。
もっとも……嫌がらせをするようなクラスメイトを友達と呼べるか
どうかは謎だけれども……
「わかった。気を付ける」
ひらひらになった上履きを思い出しながら、つばさは素直に
頷いた。そして、開いたままのノートに目を向け、シャーペンを
握った。つい、嵐の話で脱線してしまったが、まだ1行も宿題を
写していない。いいかげん、家に帰らないと母親から怒りの
電話がかかってくるかもしれない。
さらさらと、真剣にノートを写し出したつばさに、
「あ」と斗哉が声を発した。
「なに?」
視線をノートに向けたままで、つばさは斗哉に聞く。
斗哉は斗哉で、参考書に目を落としたまま、つばさを見ていない。
「24日、開けといてくれる?」
「24日?」
「そう。24日の金曜日」
その単語を聞いて、ようやくつばさは顔を上げた。
24日の金曜日と言えば、クリスマス・イブだ。つばさは斗哉の
横顔を見た。その眼差しは、参考書の文字を追っていて、
感情は窺えない。
「べっ、別にいいけど。確かその日は生徒会の定例会が
あるんじゃなかったの?帰りも、遅くなるって……」
つばさは、壁に貼ってあるカレンダーに目をやった。
「時間は何とかなるよ。つばさは、先に帰ってここで待ってて
くれればいいからさ。一緒にメシでも食いに行こう」
顔を上げて、斗哉がつばさを向く。やんわりと、笑みを浮か
べたその唇は、さっき自分に重ねられたものだなんて……
そんなことを考えてしまえば、また顔が熱くなってしまう。
「わ、わかった。24日ね」
二度三度頷きながら、ふい、と視線を逸らすと、つばさはもう、
顔を上げずにひたすらノートを写した。
つばさの唇が柔らかな斗哉の唇に塞がれる。ふわりと重ねられた
それはすぐに離れて、こつり、と斗哉の額がつばさに当てられた。
つばさは、濡れた唇に斗哉の温かな息がかかるのを感じながら、
どきどきと騒ぎ出した胸の鼓動を、耳の奥で聞いた。
「お前…ただの友達とこういうことするの?」
囁くようにそう言った斗哉に、つばさは小さく首を振る。
「じゃあ、ただの幼馴染とこんなことする?」
同じように質問を繰り返した斗哉に、つばさは、また首を振った。
「なら……少しは俺の気持ちも考えろよ。嬉しそうに別の男の
話するお前見て、俺が何にも感じないわけないだろうが……」
こつん、と斗哉の額で小突かれて、つばさは、いたっ、と声を
あげた。斗哉の顔が離れてゆく。額を擦りながら、ごめん、と
呟いて顔を上げれば、目の前にはいつもの斗哉の顔があった。
「まあ、お前の交友関係を制限する権利なんかないからな。
嵐の存在が心強いのはわかるし、会うなとは言わないけど、
他の女子からやっかみだけ買わないように気を付けろよ。
上履き代だって、馬鹿にならないだろう?」
心配そうに顔を顰めてそう言った斗哉に、つばさは、しまった、
と舌を出して見せた。いつもいつも、こういうことがある度に、
斗哉には黙っておくのだ。たいていの場合、犯人は斗哉に
想いを寄せる女の子だし、犯人を暴けば暴くほど、斗哉が
傷ついてつばさから女子の友達がいなくなってしまう。
もっとも……嫌がらせをするようなクラスメイトを友達と呼べるか
どうかは謎だけれども……
「わかった。気を付ける」
ひらひらになった上履きを思い出しながら、つばさは素直に
頷いた。そして、開いたままのノートに目を向け、シャーペンを
握った。つい、嵐の話で脱線してしまったが、まだ1行も宿題を
写していない。いいかげん、家に帰らないと母親から怒りの
電話がかかってくるかもしれない。
さらさらと、真剣にノートを写し出したつばさに、
「あ」と斗哉が声を発した。
「なに?」
視線をノートに向けたままで、つばさは斗哉に聞く。
斗哉は斗哉で、参考書に目を落としたまま、つばさを見ていない。
「24日、開けといてくれる?」
「24日?」
「そう。24日の金曜日」
その単語を聞いて、ようやくつばさは顔を上げた。
24日の金曜日と言えば、クリスマス・イブだ。つばさは斗哉の
横顔を見た。その眼差しは、参考書の文字を追っていて、
感情は窺えない。
「べっ、別にいいけど。確かその日は生徒会の定例会が
あるんじゃなかったの?帰りも、遅くなるって……」
つばさは、壁に貼ってあるカレンダーに目をやった。
「時間は何とかなるよ。つばさは、先に帰ってここで待ってて
くれればいいからさ。一緒にメシでも食いに行こう」
顔を上げて、斗哉がつばさを向く。やんわりと、笑みを浮か
べたその唇は、さっき自分に重ねられたものだなんて……
そんなことを考えてしまえば、また顔が熱くなってしまう。
「わ、わかった。24日ね」
二度三度頷きながら、ふい、と視線を逸らすと、つばさはもう、
顔を上げずにひたすらノートを写した。
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