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episode1 私、みえるんです
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翌日。
相変わらず降り続く雨の中を、つばさは斗哉と二人、
傘をさして歩いた。交差点の信号で立ち止まる。
この場所は、昨日、つばさが梨花を見つけた場所だ。
「ここの信号を渡ってすぐ、あそこが彼のお店なの」
つばさの隣にいる梨花が、すっと斜め向こうを
指差した。
「なるほどね。だから、ここから彼を見てたんだ」
つばさは、梨花の指差す方向を見ながら呟いた。
斗哉はそんなつばさを、複雑な顔で見ている。
独り言なのか、梨花に話しかけているのか、
それとも自分に話しているのか、ややこしい。
信号を渡り花屋の前に立つと、黒いエプロンに
セルフフレームの眼鏡をかけた男性が見えた。
ひょろっと背が高くて、温厚そうな感じだ。
つばさが、じっと、と店内を覗いていると、
梨花の彼、早川が出てきた。
「なにか、お決まりですか?」
にこやかな笑顔を、つばさに向ける。
さて、何と切り出そうか……つばさは、一度
肩越しに梨花の顔を見て、唇を舐めた。
そうして、鞄から学校のIDカードを取り出した。
「あの、私、青山中央高校の、藤守つばさ
と言います」
突然、証明写真付きの身分証を見せられた
早川は、戸惑ったように頷く。斗哉は微妙な顔を
しながら、見守っていた。
「あぁ、あそこの、学生さんだね。知ってますよ。
それで、今日はどんなお花を探しているのかな?」
「えっと……お花は要らないんです。実は、お兄さん
に用があって……」
そこまで言って、言葉に窮してしまったつばさを見て、
斗哉が間に入った。
「お仕事中に、突然、こんなことを訊ねて失礼ですが、
舘林梨花という女性をご存知ですか?」
斗哉が梨花の名前を口した途端、早川の顔色が
変わった。その表情を確認した斗哉にも、緊張が走る。
つばさは、ごくりと唾を呑んだ。
「はい。知っていますが……彼女がなにか?」
早川の口調が、硬いものに変わる。斗哉は、じっと
彼の目を見つめると、事実のみを口にした。
「彼女は先週、交通事故にあわれて、
南台協立病院に入院しているんです」
「えっ!?梨花が、ですか?まさか……」
動揺を隠せないまま、早川が斗哉に詰め寄った。
当然だ。突然、現れた見知らぬ学生の口から、
別れた恋人の事故を告げられたのだ。
まず、混乱するだろう。つばさは、自分の肩越しに
彼を見守る梨花を見た。梨花の眼差しは、潤んでいる。
「幸い、命に別状はありません。でも、どういうわけか
彼女の意識が戻らないんです。そのことについて、
早川さんに何か心当たりがあればと思って、こうして
訪ねてきたんです」
まだ、本人が名乗ってすらいない名前を口にしながら、
斗哉は彼を制した。余程、動揺しているのか、早川は
その事に気付いていない。つばさは、居ても立っても
居られなくなって、口を挟んだ。
「梨花さん、あなたに連絡できなくて、ずっと
病院で待っているんです。だから、早く会いに
行ってあげてください。お願いします!!」
にわかには信じがたいのだろう。目の前で頭を下げる
つばさをじっと見つめ、早川は答えに窮している。
つばさは体を二つに折ったまま、彼の返事を待った。
「君たちは、梨花とどういった関係なのかな?僕は
梨花の口から、君たちの話を聞いたことがなくてね」
早川が探るように二人を見る。ぱっと、頭を上げた
つばさを、斗哉が止めようとしたが、遅かった。
「実は私、見えるたちなんです。昨日、偶然、体から
離れてしまっている梨花さんの霊体に会って、助けて
欲しいって頼まれて、だから……」
隣りで斗哉がため息をつく。案の定、早川は眉間の皺を
深くして、つばさを睨んでいる。つばさは、その顔を見て、
不味かった、と悟った。
相変わらず降り続く雨の中を、つばさは斗哉と二人、
傘をさして歩いた。交差点の信号で立ち止まる。
この場所は、昨日、つばさが梨花を見つけた場所だ。
「ここの信号を渡ってすぐ、あそこが彼のお店なの」
つばさの隣にいる梨花が、すっと斜め向こうを
指差した。
「なるほどね。だから、ここから彼を見てたんだ」
つばさは、梨花の指差す方向を見ながら呟いた。
斗哉はそんなつばさを、複雑な顔で見ている。
独り言なのか、梨花に話しかけているのか、
それとも自分に話しているのか、ややこしい。
信号を渡り花屋の前に立つと、黒いエプロンに
セルフフレームの眼鏡をかけた男性が見えた。
ひょろっと背が高くて、温厚そうな感じだ。
つばさが、じっと、と店内を覗いていると、
梨花の彼、早川が出てきた。
「なにか、お決まりですか?」
にこやかな笑顔を、つばさに向ける。
さて、何と切り出そうか……つばさは、一度
肩越しに梨花の顔を見て、唇を舐めた。
そうして、鞄から学校のIDカードを取り出した。
「あの、私、青山中央高校の、藤守つばさ
と言います」
突然、証明写真付きの身分証を見せられた
早川は、戸惑ったように頷く。斗哉は微妙な顔を
しながら、見守っていた。
「あぁ、あそこの、学生さんだね。知ってますよ。
それで、今日はどんなお花を探しているのかな?」
「えっと……お花は要らないんです。実は、お兄さん
に用があって……」
そこまで言って、言葉に窮してしまったつばさを見て、
斗哉が間に入った。
「お仕事中に、突然、こんなことを訊ねて失礼ですが、
舘林梨花という女性をご存知ですか?」
斗哉が梨花の名前を口した途端、早川の顔色が
変わった。その表情を確認した斗哉にも、緊張が走る。
つばさは、ごくりと唾を呑んだ。
「はい。知っていますが……彼女がなにか?」
早川の口調が、硬いものに変わる。斗哉は、じっと
彼の目を見つめると、事実のみを口にした。
「彼女は先週、交通事故にあわれて、
南台協立病院に入院しているんです」
「えっ!?梨花が、ですか?まさか……」
動揺を隠せないまま、早川が斗哉に詰め寄った。
当然だ。突然、現れた見知らぬ学生の口から、
別れた恋人の事故を告げられたのだ。
まず、混乱するだろう。つばさは、自分の肩越しに
彼を見守る梨花を見た。梨花の眼差しは、潤んでいる。
「幸い、命に別状はありません。でも、どういうわけか
彼女の意識が戻らないんです。そのことについて、
早川さんに何か心当たりがあればと思って、こうして
訪ねてきたんです」
まだ、本人が名乗ってすらいない名前を口にしながら、
斗哉は彼を制した。余程、動揺しているのか、早川は
その事に気付いていない。つばさは、居ても立っても
居られなくなって、口を挟んだ。
「梨花さん、あなたに連絡できなくて、ずっと
病院で待っているんです。だから、早く会いに
行ってあげてください。お願いします!!」
にわかには信じがたいのだろう。目の前で頭を下げる
つばさをじっと見つめ、早川は答えに窮している。
つばさは体を二つに折ったまま、彼の返事を待った。
「君たちは、梨花とどういった関係なのかな?僕は
梨花の口から、君たちの話を聞いたことがなくてね」
早川が探るように二人を見る。ぱっと、頭を上げた
つばさを、斗哉が止めようとしたが、遅かった。
「実は私、見えるたちなんです。昨日、偶然、体から
離れてしまっている梨花さんの霊体に会って、助けて
欲しいって頼まれて、だから……」
隣りで斗哉がため息をつく。案の定、早川は眉間の皺を
深くして、つばさを睨んでいる。つばさは、その顔を見て、
不味かった、と悟った。
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