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10.大胆な行動

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「まさか、あなたがこちらに訪ねて来るなんて思っていませんでしたよ」
「突然の訪問、申し訳ありません。しかし、挨拶は早めに済ませておかなければならないと思いましてね」
「そんなものは不要であると言ったでしょう。まあ構いませんがね」

 ルバイトに対して、ランベルト侯爵は少し不満そうに鼻を鳴らしていた。
 彼からすると、ランベルト侯爵家にルバイトが足を踏み入れるということは、できれば避けたいことであるのだろう。

 アリシアから話を聞いたことによって、それが何故なのかはルバイトにもわかっている。
 ルバイトはだからこそ、敢えてこのランベルト侯爵家を訪ねて来た。この訪問は、彼なりの揺さぶりなのである。

「大切なご令嬢を預かるのですから、挨拶は必要でしょう。もっとも、順番が前後してしまったことは否めませんが……」
「それは、こちらが結婚を急いだからでしょう。あなたの事情を考慮していなかったのはこちらだ。それについては、申し訳なく思っています」
「いえ、それこそお気になさらず。私も婚約相手については困っていましたからね。ランベルト侯爵の提案は、渡りに船でした」

 ランベルト侯爵は、ルバイトのことをかなり警戒しているようだった。
 散々不要であると言っていた挨拶に来た彼のことを、訝し気に思っているようだ。

 故に二人の会話は、非常に表面上だけのものになっていた。
 お互いに腹の内を探っている。それが今のルバイトとランベルト侯爵の会話なのだった。

「しかし、挨拶というならアリシアも来て然るべきではありませんか? あの娘は何をしているのです? まさか何かご迷惑を?」
「環境が急に変わりましたからね。体調を崩したようです。それはまあ、仕方ないことでしょう。しかし予定的に今日くらいしか空きがありませんでしたからね。仕方なく、私一人でこちらに伺うことにしました」
「なるほど」

 ルバイトの説明は、まったくの出鱈目だ。アリシアはまったく持って体調を崩していないし、むしろ元気なくらいである。
 ルバイトは元より、アルシアを連れて来るつもりがなかった。彼女にとって苦しいだけでしかないランベルト侯爵家に、わざわざ戻らせることはないと思ったのである。

 そもそもの話、アリシアはこのような訪問には反対しただろう。
 彼女がルバイトの身を案じていたことは、ルバイト自身もよくわかっている。故に今回、彼女に置手紙だけ残して、ここまでやって来たのだ。

 そうしなければならない理由が、ルバイトにはあった。
 それは何も、アリシアのことだけではない。ルバイト自身にとっても、重要なことだったのだ。

(ランベルト侯爵の腹の内は、探っておかなければならない。彼がアリシアと俺を婚約させた裏には、必ず思惑が隠れているはずだ)

 ルバイトのような訳ありの侯爵に、わざわざランベルト侯爵は婚約を持ちかけてきた。
 それに対して、ルバイトは警戒していた。アリシアの扱いなどを聞いてからは、その疑念はさらに深まっている。

 そのためルバイトは、ランベルト侯爵家のことを探りに来た。
 アリシアのことも含めて、この訪問は必要である。ルバイトはそのように考えているのだ。
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