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8.お近づきの印

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「これはこれは、僕がよく知らない内に二人はかなり親しくなったようですね……」
「え、えっと……」

 ウェリダン様は、意地が悪そうな笑みを浮かべている。
 彼のその笑みに、私は息を呑む。どうしてアドルグお兄様のことをそのまま言ってしまったのだろうか。今まではアドルグ様と言ってきて、慣れているのはそちらのはずなのに。
 気が抜けていたということだろうか。私は自分の発言を後悔することになった。

「アドルグ兄上は手が早いですね……まったく、もうクラリアを取り込んでいるとは。その手腕には恐れ入ります」
「え?」

 ウェリダン様の言葉に、私は少し固まってしまった。
 なんだろうか、彼が言うとまるで何かしらの策略が行われているかのように思えてくる。
 いや、実際にその可能性はあるのだろうか。アドルグ様には何かしらの思惑があって、ああいったことを言った。私はその可能性を、今の今まで考えていなかった。

 それは愚かなことだといえるかもしれない。アドルグお兄様を信頼しきるのは危険なのではないか。私の頭の中にはそのような考えが過ってきた。
 ウェリダン様が言っているように、あれは彼の貴族としての手腕が光ったというだけなのかもしれない。貴族は口が上手いと聞いたことがあるし、その可能性は高いような気がする。

「そういった方面に関して、僕は駄目駄目ですからね。子供の心に取り入るというのはどうにも難しい事柄です」
「え、えっと……」
「クラリア、あなたに質問をしてもよろしいですか? ああ、これはあの二人の令嬢とは関係がない事柄ですが……」

 ウェリダン様は、こちらにゆっくりと近づいて来た。
 私は、少し後退る。なんというか、怖かった。元々苦手に思っていたウェリダン様に近づかれるというのは、正直言って少し辛い。

「クラリア、あなたは花は好きですか?」
「花? え? えっと、嫌いではありませんが……」
「そうでしたか。それなら幸いです」
「うん?」

 ウェリダン様は、私の眼前で手を合わせた。
 その動作に、私は首を傾げる。それは一体、何をしようとしているのだろうか。
 いただきますとか、そういう意味の可能性はある。まさか私は、本当に取って食われてしまうのだろうか。

「はい」
「……え?」

 そんなことを思っていると、ウェリダン様はその手を離した。
 すると彼の手には、一輪の花が握られていた。先程までそこには何もなかったはずなのに、ウェリダン様はその花を私に差し出してくる。

「お近づきの印です」
「あ、ありがとうございます……」

 目の前で起こった奇妙な出来事に、私は混乱していた。
 彼は一体、何をしたのだろうか。まったく持って、訳がわからない。もしかしてウェリダン様は、魔法使いか何かなのだろうか。
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