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7.苦手な笑み
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ヴェルード公爵家の屋敷に戻って来た私は、以前までとは少し違う気持ちだった。
アドルグ様という心強い味方を得られたことは、私の心を明るくしてくれるものだったのだ。
とはいえ、この屋敷での生活が心地良いという訳ではない。貴族の生活というものが、そもそも私にとっては堅苦しいものなのだ。
「動きにくい……」
貴族の服というものは、平民のものと比べると派手で豪華である。
その豪華な服というものは、動きやすいとは言い難い。なんだか全体的に重苦しいし、好んで着たいものではなかった。
ただ、脱ぎ去る訳にもいかない。そんなことをしたら、このヴェルード公爵家の人々から非難されるだけだからだ。
「おやおや、これはこれは……」
「え?」
「クラリアさんではありませんか。こんな所にいましたか」
私がそんな風に考えながら自分の部屋に向かっていると、一人の男性が私の前に現れた。
その人物のことは、当然しっている。ウェリダン様、ヴェルード公爵家の次男であり、一応は私の兄とされている人だ。
眼鏡をかけた彼は、少々悪い笑みを浮かべている。正直な所、第一印象から苦手に思っている人だ。あまり関わりたいとは思えない。
「わ、私に何か用ですか?」
「ふふ、そんな風に怖がる必要なんてありませんよ。僕は取って食ったりしないのですから」
しかし、話しかけられたからには受け答えする必要があるというものだ。無視をするのはいけないことだということは、平民として暮らしていた時からわかっていることである。
という訳で質問を投げかけてみると、また悪い笑みを返された。本当に取って食ったりしないのだろうか。正直な所、とても不安である。
「あなたとは話しておかなければならないことがあるのです。少し時間をいただけますか?」
「それは大丈夫ですけれど、その、何の話ですか?」
「ペレティア・ドルートン伯爵令嬢と、サナーシャ・カラスタ子爵令嬢の話ですよ」
「え?」
ウェリダン様の口から出た名前に、私は驚いた。
それは舞踏会の時に、私を詰めてきた二人である。あれからアドルグお兄様が調査すると言っていたが、その二人の名前がどうして彼から出てくるのだろうか。
「兄上――アドルグ兄上から調査を頼まれましてね。そこであなたの証言が聞きたいのです」
「アドルグお兄様から?」
「おや……」
「あっ……」
ウェリダン様の前で、私は反射的にアドルグお兄様を呼んでしまった。
しかしそれは、間違いだったといえるだろう。妾の子である私がそのように呼ぶということを、彼は許さないかもしれない。どうやら私は、油断してしまったようである。
アドルグ様という心強い味方を得られたことは、私の心を明るくしてくれるものだったのだ。
とはいえ、この屋敷での生活が心地良いという訳ではない。貴族の生活というものが、そもそも私にとっては堅苦しいものなのだ。
「動きにくい……」
貴族の服というものは、平民のものと比べると派手で豪華である。
その豪華な服というものは、動きやすいとは言い難い。なんだか全体的に重苦しいし、好んで着たいものではなかった。
ただ、脱ぎ去る訳にもいかない。そんなことをしたら、このヴェルード公爵家の人々から非難されるだけだからだ。
「おやおや、これはこれは……」
「え?」
「クラリアさんではありませんか。こんな所にいましたか」
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しかしそれは、間違いだったといえるだろう。妾の子である私がそのように呼ぶということを、彼は許さないかもしれない。どうやら私は、油断してしまったようである。
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