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4.怒った兄

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「あ、あそこだ」
「あれは……」

 ロヴェリオ殿下は、すぐにアドルグ様を見つけた。
 私の一番上のお兄様は、辺りを見渡している。その動作から考えると、彼の方も私を探しているようだ。
 そのことに、私は息を呑む。アドルグ様が怒っているのではないか。そんな思考が頭に過って来たのだ。

「む……」

 そんなことを考えていると、アドルグ様がこちらに視線を向けてきた。
 彼は眉間にしわを寄せている。やはり怒っているのではないだろうか。今から少し億劫になってしまう。
 とはいえ、今の私がこの舞踏会の会場から帰るためには、アドルグ様を頼るしかない。彼とは話をつけなければならないのだ。

「クラリア、どこに行っていた?」
「あ、えっと、その……」
「アドルグ様」
「うん?」

 こちらにやって来たアドルグ様は、私に声をかけてきた。
 するとロヴェリオ殿下が口を挟んだ。そんな彼の声鬼、アドルグ様は驚いているようだ。
 私のすぐ隣にいた彼に、気付かなかったというのだろうか。それはなんというか、おかしな話である。それだけ怒っているということだろうか。

「久し振りですね、アドルグ様」
「ロヴェリオか……お前もここに来ていたのだな?」
「ええ、そうなんです。そこでちょっと嫌な場面を見ちゃいまして」
「嫌な場面?」
「ええ、クラリアがどこかの令嬢に詰められていました」
「なんだと?」

 ロヴェリオ殿下は、事情を説明してくれた。
 彼がそのように言ってくれるのは、とてもありがたい。私は上手く説明できるか自信がなかったし、これならアドルグ様も多少は考慮してくれるのではないだろうか。

「……クラリア、ロヴェリオが言っていることは本当か?」
「え、ええ、本当です。誰かはわかりませんが、二人の令嬢から詰め寄られました」
「そうか……」

 事実を聞かされて、アドルグ様は目を瞑った。
 今回の件について、彼なりに考えているということだろうか。
 ただ、別に何かを起こすことはないだろう。二人の令嬢も言っていた通り、私は所詮妾の子だ。そんな私を侮辱した所で、問題になんてならないだろう。

「ペレティア・ドルートン伯爵令嬢と、サナーシャ・カラスタ子爵令嬢だな」
「え?」
「お前を詰めたという令嬢達だ。俺の推測が正しければその二人であるだろう」
「そ、そうなんですか?」

 アドルグ様が出した名前を聞いても、まったくピンとこなかった。
 それは当然だ。私はあの二人の名前なんて知らないのだから。
 というか私は、別のことを考えていた。アドルグ様は、とても怒った表情をしているのだ。しかもそれは私に向けたものではなく、あの二人に対してのものである。
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