使用人の私を虐めていた子爵家の人々は、私が公爵家の隠し子だと知って怖がっているようです。

木山楽斗

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 私は、今日もラーファン家の屋敷で過ごしていた。
 ゲルビド子爵家にいた頃と比べて、私はとても平穏な日々を送っている。このように穏やかな毎日を送れることは、私にとってとても幸せなことだ。

「失礼する」
「あ、はい……」

 そんな平穏な日々を送っている私に、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
 一緒に聞こえてきた声は、エルード様の声である。
 彼が、私の部屋を訪ねて来た。その事実に、私は少し身構える。何かあったのか。そういう不安が芽生えてきたのだ。

「どうかされましたか? エルード様?」
「ああ、実はゲルビド子爵家に関して、色々と動きがあった。故に、お前に伝えに来たのだ」
「そうだったのですね。わざわざ、ありがとうございます」

 エルード様は、ゲルビド子爵家に関することを伝えに来てくれたらしい。
 それは、私もずっと気になっていたことである。あの子爵家との問題は、私にとって、とても重要なことなのだ。

「何があったのですか?」
「ゲルビド家の悪事を暴くことができたのだ。それがあれば、奴らを追い詰められるだろう」
「追い詰められる……そうですか」

 エルード様の言葉を聞いて、私は少し複雑な気持ちになった。
 ゲルビド子爵家は、私にとって憎むべき存在である。だから、追い詰められることは喜ぶべきことであるはずだ。
 だが、他人の不幸というものは素直に喜べないものである。あんなどうしようもない人達に対して、そういう思いを抱くのは間違っている。そう思っても、どうしても笑顔になることができなかった。

「……浮かない顔をしているな」
「え? あ、すみません……」
「謝る必要はない。お前は、優しい人間だ。だからこそ、ゲルビド家に対しても慈悲の心を持っているのだろう」
「い、いえ、私はゲルビド家を恨んでいます。彼らが破滅することを……願っているのです」
「ふっ……願っている者の顔ではないな」

 私の反論に、エルード様は笑っていた。
 恐らく、彼は私の心を見抜いているのだろう。必死に虚勢を張る私の姿は、彼にとっては滑稽なものだったかもしれない。

「お前が、罪悪感を覚える必要などない。これは、俺が勝手に行うことだ。お前が何を思っていようとも、俺は報復を実行する。故に、お前の気持ちなど関係はない」
「そんなことは……」
「これは、俺が背負うべきものだ。お前が背負うべきことではない。それでいいのだ」

 エルード様は、私の罪悪感をなくそうとしていた。
 それは、彼の優しさだろう。どこまでも大きな心を持つエルード様は、とても素晴らしい人間である。
 しかし、その優しさに甘えるべきではない。私も、彼と同じように、いや、彼以上に背負うべきなのだ。

「……エルード様の気持ちは、嬉しく思います。でも、私は逃げるつもりはありません」
「ほう……」
「これは、私が背負うべきものです。祖父母の代から続いているゲルビド家との因縁を、私が背負わずして、誰が背負うというのでしょうか。私が背負って、戦うべきなのだと思っています」

 ゲルビド家と続いている因縁を、私は背負わなければならない。
 祖父母も、母も、皆あのゲルビド家に苦しめられてきた。その報復は、果たさなければならない。
 その罪を背負うべき者は、私だ。はっきりと、私はそれを決意する。
 だから、彼に言わなければならない。今の自分の気持ちを、確かに言葉にしなければならないのだ。

「エルード様……お願いします。私の祖父母……そして、母の仇を取ってください。それを成し遂げてもらえるなら、私はあなたに全てを捧げてもいいと思っています」
「……それが、お前の覚悟という訳か?」
「お願いします。非力な私に、力を貸してください」
「……いいだろう。お前がそこまで覚悟を決めているというなら、最早何も言うことはない。この俺と共に、ゲルビド家を破滅させるぞ」

 エルード様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 こうして、私は改めて決意を固めるのだった。
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