【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念

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第四章 最愛の番

十四

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次の日秀也は綾子の実家に押し掛けた。秀也の実家ほどではないがそれなりの大型病院を綾子の実家は経営しており、それに比例するような広い敷地に佇む豪邸に彼女は今も家族と住んでいた。
「綾子さんはいらっしゃいますか?」
「あら、秀也君いらっしゃい、今綾子を呼んできますね」
「ありがとうございます」
綾子の母に迎え入れられ、玄関まで入る秀也。中に招き入れる綾子の母に「ここで結構です」と伝える。
母と変わって家にいながらも身だしなみを整えている綾子が玄関に来る。
「家にくるなんて珍しいわね、どうしたの?」
「ちょっと外散歩しないか?」
綾子は「ええ」と嬉しそうに頷いて秀也と外に出る。

秀也は駐車場に停めていた車まで無言で綾子を連れ歩く。
「乗って」
綾子は言われるがままに助手席に座り、秀也が隣に乗り込むと「どこかいくの?」そう期待を込めた顔で秀也に尋ねる。
「全部君の計画なのか?」
秀也のその言葉に「え?」と一瞬顔を引きつらせる。
「なにが?」
「拓海さんと五十嵐さんが写ってた写真」
   流石にアメリカでスマホをスラらて、帰国前に手元に戻ってきたのは偶然だよな。
綾子は顔を隠すように窓の方を向いたが、秀也は気にせず話続ける。
「アメリカに着いてきたのも一年の交換留学じゃなくて僕を監視するためだったのか?」

少しの間黙っていた綾子は喉を震えさせぽつぽつと呟くように言った。
「あなたに振り向いてほしくて、恋人を作ったり婚約を解消したりしたのに、あなたは私の事を一度も見なかった」
綾子の気持ちを知らなかったとは言えなかった。アメリカで別の家に住んでいながらも、落ち込んでいる自分を彼女が支えてくれた。自分に尽くしてくれる彼女に気持ちが傾いたのは事実だった。
   だから、五十嵐さんが拓海さんを幸せにしてくれると信じて、綾子との婚約を決めたのに。
「僕は拓海さんが五十嵐先輩と同棲を始めたのを知った時、心が酷く弱っていた。君が僕の傍で明るく振舞って気を紛らわせようと気を使ってくれているのが嬉しかった。それが、君が考えた計画だったなんて、しかも拓海さんを傷つけてまで」
秀也は別れを告げた日の拓海の顔を思い出し、サアと頭から血の気が引き、胸が張り裂ける。
「僕は君に感謝してるから、幸せな家庭を築こうと思ってたのに」
その言葉を聞いて眉間に皺を寄せ綾子は秀也の腕にしがみつく。
「秀也? いやよ。絶対この婚約を破棄させない!」
「ごめん。僕はもう君を愛せない」
腕にしがみつく綾子の爪が布越しに皮膚に食い込む。
「ねえ!  違うの!  貴方を愛してるのは私よ!」
そう叫ぶ綾子に冷たく言い放つ。
「君の気持ちは彼らには関係ないだろ!   悪いけど、今回の事で君を許せない。
僕の事は無視出来るが、拓海さんにした事は罪を償ってもらう」
顔を青ざめる綾子に釘を指すように言った。
「今後、拓海さんに関わるなよ」
綾子はふらつきながら車から降り、そのまま家に戻った。
秀也は深くため息を吐いた。そのまま駐車場から車を出す。
今すぐにでも拓海を探しに行きたいと思っても自分が運転する車は自宅へと帰路につく。
   拓海さん。ごめんなさい。幸せにすると誓ったのに。貴方に合わせる顔がありません。

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