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第四章 最愛の番
十三
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「池上先生、五十嵐南さんからお電話がありました。今繋げてもよろしいですか?」
「……ありがとうございます。お願いします」
今更、なんの用だろうか。
秀也は受付に患者がいたら別の医者に診てもらうよう内線で伝えて、南の電話に出た。
「もしもし、池上秀也です」
「単刀直入に聞く、拓海と何があった」
秀也は眉間に皺を寄せる。
拓海さんは話をしていないのか?
「話をして別れてからは連絡を取っていません」
「……別れた?」
「はい」
「いつだ?」
「二、三週間前です」
「そんな前に、……どうして教えてくれなかったんだ」
秀也は電話口で独り言を言う南の様子に拓海に何かあったのかと胸騒ぎがした。
しかし、南がそれを教えてくれるとは思っていなかった。
「それだけですか?」
「拓海が、消えた」
秀也は勢いよく椅子から立ち上がった。
キャスターがカラカラと音を立て、椅子は秀也から離れる。
「なあ、拓海の事何か知らないか?」
南の声は切羽詰まっていた。
何も知らない。いつもそうだ、自分は拓海さんを傷つけたくなくて何も聞けないでいた。あの日だって、拓海さんを前にしてアメリカで生活していた時のことがフラッシュバックして自分の気持ちしか言っていなかった。
「……僕は、拓海さんが何を考えてそうしたのかわかりません」
秀也は口にするのを止められなかった。
「拓海さんが貴方と浮気までして、僕がどんな気持ちだったかわかりますか?」
「は? 浮気って、なんのことだよッ! そもそもお前のせいだろう!
お前がアメリカにいる間、拓海がどんな気持ちでお前の浮気に耐えてたか……」
頭が真っ白になる。秀也は自分と南の話がどこかで重なり合いながらもすれ違っていると感じた。
「どういうことですか? 俺が浮気?」
「お前と確か、成宮家の綾子って女だったな。お前らが学生時代からアメリカにいる間もずっと関係があったのを言ってんだよ」
「関係って、その時は何もありませんよ」
「そうか? 俺の耳には入ってるぞ。改めて婚約したんだってな」
もう五十嵐の耳にまで入っているのか。
「はい、拓海さんが幸せになるにはあなたの傍にいるのが一番だと思ったから」
「はッ! そうか、拓海を振り回して勝手に諦めて、昨日の今日で拓海と別れてから元婚約者とよりを戻したんだな」
秀也は南の話に何も言えず、黙る。
「二度と拓海の前に現れるんじゃねえぞ」
その言葉を最後に南の方から電話を切られ、秀也は受話器を持って立ったまま呆然とした。
綾子か? そんな……騙したのか?
「くそっ!!」
「……ありがとうございます。お願いします」
今更、なんの用だろうか。
秀也は受付に患者がいたら別の医者に診てもらうよう内線で伝えて、南の電話に出た。
「もしもし、池上秀也です」
「単刀直入に聞く、拓海と何があった」
秀也は眉間に皺を寄せる。
拓海さんは話をしていないのか?
「話をして別れてからは連絡を取っていません」
「……別れた?」
「はい」
「いつだ?」
「二、三週間前です」
「そんな前に、……どうして教えてくれなかったんだ」
秀也は電話口で独り言を言う南の様子に拓海に何かあったのかと胸騒ぎがした。
しかし、南がそれを教えてくれるとは思っていなかった。
「それだけですか?」
「拓海が、消えた」
秀也は勢いよく椅子から立ち上がった。
キャスターがカラカラと音を立て、椅子は秀也から離れる。
「なあ、拓海の事何か知らないか?」
南の声は切羽詰まっていた。
何も知らない。いつもそうだ、自分は拓海さんを傷つけたくなくて何も聞けないでいた。あの日だって、拓海さんを前にしてアメリカで生活していた時のことがフラッシュバックして自分の気持ちしか言っていなかった。
「……僕は、拓海さんが何を考えてそうしたのかわかりません」
秀也は口にするのを止められなかった。
「拓海さんが貴方と浮気までして、僕がどんな気持ちだったかわかりますか?」
「は? 浮気って、なんのことだよッ! そもそもお前のせいだろう!
お前がアメリカにいる間、拓海がどんな気持ちでお前の浮気に耐えてたか……」
頭が真っ白になる。秀也は自分と南の話がどこかで重なり合いながらもすれ違っていると感じた。
「どういうことですか? 俺が浮気?」
「お前と確か、成宮家の綾子って女だったな。お前らが学生時代からアメリカにいる間もずっと関係があったのを言ってんだよ」
「関係って、その時は何もありませんよ」
「そうか? 俺の耳には入ってるぞ。改めて婚約したんだってな」
もう五十嵐の耳にまで入っているのか。
「はい、拓海さんが幸せになるにはあなたの傍にいるのが一番だと思ったから」
「はッ! そうか、拓海を振り回して勝手に諦めて、昨日の今日で拓海と別れてから元婚約者とよりを戻したんだな」
秀也は南の話に何も言えず、黙る。
「二度と拓海の前に現れるんじゃねえぞ」
その言葉を最後に南の方から電話を切られ、秀也は受話器を持って立ったまま呆然とした。
綾子か? そんな……騙したのか?
「くそっ!!」
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