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第12話 僕は土地をもらいに行く

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 一度アトラス軍の基地を出て、僕はバルドさんの家に向かおうとし、エルバース海兵隊からもらった地図を見る。
 この地図には主だった建物の位置が書かれていて、とても便利だ。
 反対に、僕がアトラス教を裏切るなら、これは良い手土産になるかもしれない。

 主だった建物の中には、すべての議員の町も含まれている。基地からさらに西へ向かい、少し北上したところにあるようだ。

 距離はたぶん、150キロくらい……?
 議会場からアトラス軍の基地までが30キロくらいのことを思えば、とても遠い。

「まだ帰ってないよね。どこかの宿にいる?」

 どこの宿だろう。
 一度議会場に戻ったほうがいいかな。議会場の周辺は、宿や食事処が多いのだ。
 家々があるのは、その外側となる。

 ということで、議会場に戻った。入り口付近に愛車を停め、中へ入ろうと扉を押す。

「あ」
「お」

 扉を押す力以上の速さで扉が開いたかと思えば、偶然バルドさんが出てくるところだった。

「さっきぶりですね。話がしたいんですけど、いいですか?」

「もちろん構いません。では、小会議室を使いましょう」

 バルドさんに先導され、僕は議会場の中に入った。


「して、話とは」

「実は頼みがあるんです。少しでいいので、土地をくれませんか?」

「土地? どうしてまた」

「……戦争孤児を見ました。私は彼らを助けたい。だから、店を建てたいんです」

 バルドさんが怪訝な顔をする。
 それもそうだ。
 戦争孤児を助けたい。だから孤児院を建設したい。それなら理解もできるだろう。けれど、僕が言っているのは、店を建てることだ。
 話が繋がっていないように聞こえる。

「知り合いの店です。その店を建てることができれば、いまの状況を改善することができます」

「店を出しても、金を持っていない孤児には使えないでしょう。孤児院が最適ではありませんか?」

「お金は当分、私が出します。だから、問題ありません」

「……そうですか。一つだけ、聞かせてください」

 真剣な表情で、僕を真っ直ぐに見る瞳に吸い込まれそうになりながらも、僕はなんとか先を促した。

「孤児は、どこまで救うのですか?」

 どこまで、とはどういうことだろう。
 そんな気持ちが顔に出ていたのか、バルドさんが苦笑する。

「失礼。まだ来たばかりで知らないかもしれませんがね。孤児の数はすでに大人より多いですよ。俺の部族――シュメルト族はすでに10万人ほどしかいません。ほかの部族もそうでしょう。大人は戦争で死に、老人は必至で畑を耕して僅かな食糧を得る。少しでも役に立つ子どもを選別し、役に立たないと判断した子どもたちは切り離され、この議会場周辺に集まる。それが、すべての部族で起きているのです。100や200ではない。1000や2000もの子どもたちが、孤児となっているのです」

 あまりにも想像を絶する話に、僕は言葉を紡げない。認識が甘かった。だけど、それだけの孤児が本当にいるとしたら、僕にはすべてを救えない。
 ゆくゆくはすべての町で教会と孤児院を作り、すべての子どもを救えるだけの受け皿を作りたい。

「……でも、レンのところは50人くらいで、ここら辺で一番大きい集団だと聞きました」

「レンか。あいつは、よくやっているようですね。将来は部族を継がせようとしたこともある、有能な子です」

 ……?
 有能なら、部族で育てるのではないのだろうか。
 というか、レンはシュメルト族だったようだ。

「レンは人を纏める才能がある。だから、そのときに切り離した子どもたちのまとめ役になってもらいました。あいつなら、きっとなんとかできる。俺たちとて、子どもたちを見捨てるのは苦しいんだ」

「そう、でしたか」

 だけど食糧がなさすぎる現在において、人をどれだけ纏められたとしても、お腹が空いたら死んでいくしかない。

「すべてを同時に救うことはできないかもしれない。ですが、私は少しでも助けたい。ゆくゆくは全員を」

「……わかりました。では、議会場の横に、用意しましょう」

「! ありがとうございます!」

 よし、よし! ちょっとだけでもいいのだ。ちょっとしか救えないならやる価値がないだとか、そんな話はどうでもいい。
 ちょっとずつやっていくしかないなら、ちょっとずつやっていくまでだ。

「それから、伝え忘れたことが一つ」

「なんでしょう」

「アトラス教の教会を建てるのは早いほうがいいと判断し、この議会場を教会に改装することになりました」

「え!?」

「俺たちには、時間も、力もない。アトラス教の助けがすべて、というところまで来ているんです。アトラス教につくと決めて、もう8日目だ。軍の基地はすぐに建設されたし、軍も派遣されてきた。だが、それらが動くのは教会ができてからだという」

 それは、そう決まっているから仕方ないのだ。

「明後日、停戦が終わる」

「え、聞いてないんですけど」

「それはそちらの問題でしょう。で、停戦が終わればどうなるか。停戦前にアトラス教を動かすにはどうすればいいか。その答えです」

「……本当は、新築がよかったんですけどね。そういうことなら、仕方ありません。私も全力でお手伝いします」

「よろしく頼みます」

 僕は頭を下げるバルドさんを見て、なんとなく、小さな人だと思ってしまった。
 体は当然僕より大きいし、言葉遣いもところどころ乱れている。男らしさもある。なのに、どうしてだろう。なんて、答えは決まっていた。
 精神的に参っているのだ。
 もう後がなくて、アトラス教に助けてもらうはずが、時間がそれを許さない。
 トルーダ帝国につくということも、アトラス教の軍がすでに駐屯していることからできない。

 僕は、救いたい。
 孤児だけじゃない。
 バルドさんも。シュメルト族も。今日会った議会の人たちすべての部族を。

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