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第11話 僕はアトラス軍の基地に行く
しおりを挟む一つ忘れていたことを思いだし、問題が解決することがわかった。
僕はアトラス教の軍からご飯を分けてもらえる。アトラス教の教徒ではない孤児たちの分はもらえないだろうけれど、僕自身の分は問題ない。
愛車から一つのペットボトルの水を残し、あとはすべてこの場に置いていく。
「レン、食料とか全部置いていくね。みんなで分けて、なるべく長く待たせるんだよ」
「わかった! ……でも、アカリ姉ちゃんの分はいいのか? 俺たちはめちゃくちゃ助かるけどさ」
レンがぎこちなく僕に問いかける。
「大丈夫だよ。たぶん私だけなら、軍に行けば食料くらい分けてもらえるからね。いざとなればバルドさんに頼めばいいし」
ふとバルドさんの存在を思い出し、その名前を出した。バルドさんならなんとかしてくれそうだ。
「……ありがとう」
僕はレンの頭を優しく撫でると、階段を登って外に出る。レンも後をついてきた。
「じゃ、私はこれからやることがあるから、またね。教会を建てるときには、またここに来るよ」
「おう! 待ってるからな!」
レンと別れ、愛車に乗り込んだ僕は軍が展開されている地域へ向かう。
軍はここからさらに北上した場所に展開しているはず。だけど、後方にも基地はあるのだ。
「まずは安全なところから探してみよう」
なるべく危ないところには行きたくない。
自分の身を大事にして行こう。
僕はUターンすると、来た道を戻る。
議会場まで戻ると西へ曲がり、幾分か細い道を行く。この先にアトラス軍の基地があるのだ。
移動していると鉄線で覆われた一角が見え始め、門らしきものが見える。
門番が居たので、挨拶をする。
「こんにちは」
「あぁ? 誰だお前」
ただ挨拶をしただけでお前呼ばわりか、と少し苛つきを覚えながら、僕は自己紹介した。
「あー……そういやそんなのが来るとか言ってたな。お前がそうだったのか」
「そのようですね。それで食料を分けて欲しいんです」
「ちっ、今はどこも食料は厳しいんだ。食糧支援が最近減ってきていてな。だいぶ少ないぞ」
「それでもいいんです。お願いします」
「クソっ。教義がなけりゃお前にわけてねぇっつーのに……」
ぶつくさ言いながらも奥にいる人に伝令を任せた。
アトラス教の教義の中には、施しを求める同胞に施しを与えなかったら、天罰が降るというものがある。
きっとそれがなければ、僕に食事はなかったのだろう。逆に言えば、それだけ食料事情が危ういことを意味している。
「ああ、そういや名乗ってなかったな。俺のことはジゼルって呼んでくれ」
「わかりました」
ジゼルは思い出したように名乗り、僕に軽く手を振った。
「じゃあ、入らせていただきますね」
「待て。お前は確かに統治官だが、俺たち前線部隊とは指揮系統が違うことを忘れるな。お前がやるべき仕事は、ここの政治だ。軍事には介入するなよ」
確かに指揮系統は違う。
だけど、アトラス教の軍隊はそもそも、自分の軍隊しか動かせない。別の部隊に対する指揮権は持たないのだ。
僕にも部下がいればよかったのだけど、これまで部下を作ってこなかった過去の自分を呪っておこう。
「私に泣きつかないようにしてくださいね。ここの政治とアトラス教の軍は不可侵なので」
だんだんイライラが高まってきたので、ジゼルとはあまり話したくない。なんだか、人を怒らせる才能を持っていそうだ。
ふんと顔を逸らして愛車で基地内を走り、いくつもある建物の中で一番大きな建物の前で停車した。ここがこの基地の中枢だ。
伝令として走っていた人が、ちょうど建物から出てきた。
僕は彼にどこで受け取ればいいのか聞き、もうすぐここに運ばれることを聞き出す。
「あ、来ました! じゃあ、俺はこれで失礼します」
「ありがとうございます」
さっきのジゼルとは大違いだ。
丁寧な物腰の伝令に感謝し、台車を押してきた一人の女性に目を向ける。彼女が食料を持ってきてくれたらしい。
「あなたが特一第三隊長のアカリ様ですね! お待ちしておりました! 私は第二四師団補給部隊のヒルゼンと言います!」
ぱぁっと明るい表情見せたヒルゼンが、僕に風呂敷に入った食糧を差し出す。
「妹から念話で話は聞いてます。なんでもとても速く動くケイというものを乗りこなす特一の隊長がいると!」
「そ、そうなんだ? 私って結構有名なのかな」
「そりゃもう有名ですよ! なんといっても、アトラス教で唯一部下を持たない隊長ですからね」
地味に僕が気にしていることをグサグサと言ってくる。
「……あ、そっか、そうだよ」
僕はふとある一つのことに気付く。
ヒルゼンの念話はピスパニア市国にいる妹に繋がるのだろう。念話は双子の場合はよく出るアトラスなのだ。
この念話でムタくんに連絡を取り、ムタくんのコンビニの二号店をこの区域に出せばいい。
そうすれば子どもたちは飢えないし、僕もご飯をちゃんと食べることができる。
「ヒルゼンさん、本国にいるムタくんと連絡を取りたいんですけど、できますか?」
「ムタくん、ですか? それはもしや、アカリ様とお付き合いしてるって噂の……!」
「お付き合いはしてないけどね、うん」
「そうなんですか? 残念です」
すぐに否定すると、本当に残念そうな顔をする。
「できると思います。妹に聞いたら、妹がよく行く店のオーナーだそうで。何を伝えましょう?」
「まず謝罪と、その後に、このグティア・ブンバーダに二号店を出したいということを伝えてほしいです。理由は、教会を建てるまでの間に飢えて死んでしまいそうな子どもたちを助けるためです。彼らはまだアトラスを得ていないので、施しを与えられませんから……」
「わかりました! お伝えしておきますね。でも、いいんですか? ここに店を出すのはとても危険だと思いますけど」
確かにその通りだ。
ここは戦争の最前線と言える。
これからこの地の議会を掌握し、さらに現地人たちにも自分で戦う術を持たせる必要がある。なんならトルーダ帝国に攻め入る必要も出てくるかもしれない。
戦略のことを考えると、それはここだけの戦況では判断できないけれど。
「危険だけど、でも、子どもたちは今にでも飢えそうだから。私たちの力で助けられるなら、助けたい」
「……! アカリ様はお優しいですね。まったく、うちの団長にも見習って欲しいです!」
そう言って、ヒルゼンは僕の後ろを見た。
僕を見ていないその目は、確実に僕の後ろを見ている。僕の後ろにいる誰かを。
僕はゆっくり振り返った。
「えっ」
「あぁん??」
団長? もしかして、第二四師団の団長? この人が??
「なんだよ、文句あるか?」
「いえ、ありませんけど……ただの門番だと思ってました」
後ろに立っていたのはジゼルで、ジゼルはどうやら、この地域の戦争を取りまとめている第二四師団の団長らしい。
空いた口が塞がらないとはこのことか。
「ちっ、いつまでも帰ってこねぇから見に来たが、仕事中に話し込んでんじゃねぇぞヒルゼン」
「は! 申し訳ございません! 失礼します」
ヒルゼンが背筋をピンと伸ばして敬礼し、すごすごと建物の中に入っていく。
僕はまたジゼルと二人きりなのか。と思いきや、とても影の薄い人がジゼルの後ろにいた。背後霊のように。少し驚きながらも、ジゼルの護衛か何かだろうと納得する。
「お前、まさかヒルゼンを横取りしたりしねぇよな?」
「しませんよ。まったく、なに動揺してるんですか」
少し震える声で、ジゼルは僕に問いかけた。
もしかしてヒルゼンのことが好きなのだろうか。
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