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【51】副団長の片腕
しおりを挟む二日目。
再び門が開く。
「さすがにドラゴンは雑魚扱い出来ないな」
門の向こうから現れたのは、昨日最後に出たアルゴス並にデカい、ドラゴンだ。それも二体。赤と青。
おそらくこれがいきなりの本日のボス。というと本日の日替わりメニューのようだが、さすがに魔界でもドラゴンは希少種のはずだ。ワイバーンはともかく、こんなドラゴンがわらわら集団で出てきてもらっては困る。
色からしてファイヤードラゴンとアイスドラゴンで間違いないだろう。それでも小手調べとばかり、アルファードは腰のレイピアを抜き放ち、ムチのようにしならせて、無数の光の矢をドラゴン二体に飛ばす。
大嫌いな光の属性を嫌うように、赤いドラゴンは炎を、青いドラゴンは氷のブレスを吐く。これで確定だ。
「一番隊、三番隊、それぞれのドラゴンのブレスの対消滅を。二番隊は三番隊の、四番隊は一番隊の補助をしろ」
ダンダレイスの指示によって、ファイアドラゴンには、水属性の三番隊が、アイスドラゴンには、火属性の一番隊があたる。
ドラゴンの吐き出す炎が氷の魔法結界に阻まれ、氷のブレスは燃えあがる炎の結界によって封じられる。
そして、武装の弱い軽騎兵隊の前には盾の二番隊が、そのウォーハンマーをふるって土の防壁をつくり、ドラゴンのブレス以外の爪などの物理攻撃を防ぐ。アイスドラゴン相手の一番隊は重装騎兵ゆえの守りは固いが動きがいささか重いところを、四番隊の風の魔法が動きを素早くさせて、こちらはこちらで巨大な尻尾の回転攻撃を、強化された馬が軽々とかわしていた。
そして、アルファードとヒマリの祈りによって、聖なる加護をまとったダンダレイス、レジナルドの二人がドラゴンへと挑む。
ブレスを封じられたドラゴンたちは、今度はその身に宿る属性魔法を発動させ、炎の雨と氷の槍を降らせるが、それはアルファードとヒマリがみんなを守るように頭上に展開した、光の盾によって防がれる。
そして勇者達の持つ光の剣は、たやすくドラゴンの赤と青の鱗を切り裂く。馬で駆け巡るダンダレイスとレジナルドは、昨日の連携がさらに洗練された動きで、ダンダレイスがファイアドラゴンの尻尾を切り裂けば、レジナルドがアイスの片脚を跳ばし、今度はダンダレイスがアイスドラゴンの飛び立とうとした片翼を、レジナルドがファイアドラゴンの前脚へと攻撃を繰り出し、ついには天に伸びて交差する光の剣の奇跡は、双方のドラゴンの首をひとまとめにはね飛ばした。
二つの首が、幾たびもの勇者と魔王戦いに、不毛の荒野となった大地にごろりと転がる。ざらざらと切り離された尻尾や翼、手足、そして胴体が黒い霧となって崩れて行く。
その様子を、じっとダンダレイスはじっと見ていた。隣の馬上の鞍に立つアルファードもだ。
だがレジナルドは勝利を確信して笑顔となって、近衛が囲む軍用馬車を……その小さな窓から笑顔を見せるヒマリを見た。
しかし、彼の背後に転がるファイヤードラゴンの首はいまだ消滅していない。アルファードはそのピンとした髭をぴくりとひくつかせて「油断するな!」と叫んだ。その瞬間だった。
「え?」
レジナルドが振り返る。彼に向かいファイアードラゴンの首だけになった顎の下から、高速でなにかが跳ぶ。
それはアイスドラゴンの首もからも、ダンダレイスに向かって、しかし、首をしっかり見ていた彼は、まだ輝きを失っていない光の剣で、それをキン! とはじきとばす。
地面に転がったのは巨大な竜の鱗。逆鱗と呼ばれるものだ。
そしてファイヤードラゴンからのもの同じ。無防備なレジナルドに巨大な鱗が飛ぶ、その彼の前に馬を寄せてかばった者がいた。
「ローマン!」
レジナルドが叫ぶ。ローマンの半身は血に染まっていた。そして、その肩から先の左腕がなかった。
レジナルドが反射的に地面に突き立てた剣。そこには己を害そうとしたファイヤードラゴンの逆鱗とそしてローマンの腕があった。光の中に逆鱗に消え、その腕も消滅する。
「ローマンさん!」
馬車から騎士の手も借りずに飛び降りたヒマリが、血だらけの彼に駆け寄り、身体に触れようとする。
「待っていてください! 今、腕を!」
しかし、その彼女の手はローマンの血に染まったレジナルドに握りしめられた。そして、後ろから抱きしめるようにローマンから遠ざけられるのに、ヒマリは「え?」という顔になる。
「なぜです!? レジナルド! わたしはローマンさんの腕を!」
「今はダメなんだ、ヒマリ」
「ダメってどういうことですか!? 」
「明日は魔王との戦いだ! 蘇生や大きな欠損部分の回復には大量の魔力を使う。ここで聖女の力を消耗させるわけにはいかない」
「そんな! じゃあ、ローマンさんの腕はどうなっちゃうんですか!? 失った身体もその“直後”ならば回復出来るって聞きました、でもこのままじゃ……」
「私には構わず……」とローマンが苦しい声で訴える。「国を守るためならば、この片腕ごとき犠牲にしても惜しくはありません」と。しかし、その言葉はヒマリの心に余計響いたようで、彼女はレジナルドの手をなんとか振りはらおうとするが、力で彼に敵う訳がない。
「ヒマリ、聞き分けてくれ。ローマンはまだ生きている。明日、魔王を倒さなければ、もっと大勢の人々が死ぬことになる。人間界は暗黒に包まれる」
その言葉にヒマリの「離してください!」という抵抗の手も止まる。そして瞳を潤ませてレジナルドを見る。
「でも、でも、ローマンさんの腕が」
泣きじゃくるヒマリをレジナルドが、いつもの快活な表情が嘘のように、沈痛な表情で抱きしめる。
アルファードは馬から飛び降り、ローマンへと駆け寄ると、その切り落とされた腕の傷口の邪気のみをはらった。従軍神官達を振り返ると「あとは、私どもにお任せを」と彼らはローマンを囲み癒やしの聖呪を詠唱する。
ローマンにアルファードは「すまん」と小さくつぶやいた。
「今は傷口の邪気を払うことしかできない」
ヒマリがやればきっと彼の腕を再生しようと無理をするだろう。だからアルファードは邪気のみ祓い、魔力を“温存”した。そのアルファードにローマンは「十分です。感謝します」と出血と傷の痛みが聖魔法で癒えてきて、うっすらと微笑む。
そっとダンダレイスが横にきて、アルファードの小さな手を握りしめてくれた。「よくやった」も「あなたの選択は間違っていない」なんて言葉もない。ただ黙って寄り添ってくれていることのほうが慰めになった。
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