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【50】勝利と焼きリンゴ
しおりを挟む立ち往生した巨人を見て「「出るぞ」」とダンダレイスとレジナルドが声を揃え、レジナルドは白馬でダンダレイスは黒鹿毛の馬で駆け出す。アルファードもまた栗毛の馬の鞍に仁王立ちしたまま、二人ノ勇者のあとに続く。
第三騎兵団の築きあげた壁の外は、巨人の目から放出された雷の荒れ狂う嵐のような空間だ。だがそれもアルファードが無詠唱でレイピアを一振りした、光の結界で走る三騎を覆いはじく。
後ろから聖女ヒマリを乗せた軍用馬車が続く。遠くで祈るより、なるべく近くにいたほうが、聖女の力は勇者に伝わりやすいのだ。
馬車にも当然雷が襲い掛かるが、その周りを魔法盾でがっちり固めた、近衛騎士達の騎馬がぴっしりと固めている。駆け足でありながら、隊列を崩さないのはさすがというべきか。乱れぬ隊列の先頭は副団長のローマンが務めている。
そのかかげた魔法盾が光っているのは、馬車のなかでヒマリが祈っているからだ。ただの魔法盾では、巨人からの強力な稲妻は突破される。聖女の加護があればこそだ。
それは、アルファードが結界を展開している。“二人の勇者”の守りもそうだが。「これが聖人殿の加護か! すばらしい」とレジナルドが快活な口調でいう。
巨人の足下で、ダンダレイスとレジナルドを乗せた馬は言葉なく二手に分かれた。アルファードはダンダレイスのあとに続き、レジナルドはその結界から外れるが彼の身体は入れ替わるように、後ろからついてくる聖女の馬車と同じ光につつまれた。
二人が抜き放ち、かかげ持つ剣も光輝いている。
そして、巨人の左右の足に馬を駆けさせた二人は鏡合わせのような軌跡を描き回り込んだ。同時に剣を振り抜く、ダンダレイスは右をレジナルドは左を。
大木のような巨人の足だ。本来なら小さな人の持つ剣では切り傷をつけられるかどうかだろう。
しかし、光の剣はその刀身の限界を越えて伸び、巨大な刃となって巨人の膝から下をすっぱりと斬った。
どうっとその巨体が前のめりに倒れる。第三騎兵隊がつくりあげた巨大な魔法壁を崩すような形となり、「後退!」「後退!」という声が響き、獣人兵達は素早く回避した。
回避しながらも、倒れた巨人の周りを囲むように魔法防壁をつくりあげたのは流石といえた。総指揮官のダンダレイスがいなくとも、副官のツイロが「逃げたあとにデカブツを囲んで壁を作れ!」と叫んでいた。言葉遣いはともかく的確な指示だ。
そして、倒れ込んだ巨人の身体がぐにゃりとゆがんだ。いや、溶けた?
全身目がある姿も不気味だったが、全体に目がある巨大な軟体生物。スライムか? それも不気味すぎる。魔法壁に囲まれたまま、うごうごと蠢き目からまた雷を発し始める。
これにはダンダレイスもレジナルドも、うかつに手を出せずに様子見だ。手も足もある形ある身体ならば攻撃の方向性がわかるが、この軟体生物では、どこからその一部が飛び出してくるかわからない。
「固めるか……」
とアルファードはつぶやく。そして、念話でヒマリにイメージを送る。ヒマリからも『わかりました』と答えが返ってきた。
レイピアを額の前に構えて己の中の火と風と水と土、その渦から生まれる光を思い描く。渦の中心から伸びるものを。
レイピアの先から伸びた光は、壁に囲まれて蠢く粘体へと絡みつく。それはヒマリのいる馬車から伸びる。光のリボンはもがく粘体をグルグル巻きにして、ついにはそのすべての目を覆い尽くしてしまう。
「いまだ!」
アルファードの合図に、勇者二人が光のリボンで固められた魔物に駆け寄り、その左右から剣を両手で思いきり突き刺した。
二人の乗る馬の四つの足に、火と風と土と水のすべての紋章が浮かび上がり、聖人と聖女の天の光と勇者の大地の力が混じり合って、星が爆発するほどの輝きとなる。剣を突き立てられた場所から、びしびしと光の亀裂が走って粘体を覆いつくす。
勇者二人が馬を後ろに引いた瞬間、粘体を拘束していた光のリボンもはじけて閃光をはなち、それは消滅する。
巨大な黒いもやはヤキニゾゾの門の向こうに吸い込まれた。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
一つの魔物の軍団を吐き出せば、また門は閉まるのは変わりない。ただし魔王との戦いでは、明日また門が開く。
それでも夜のあいだは休める。
要塞に帰還すれば、さっそく“留守番”のゴドフリーが「我が輩もみなさまの後顧の憂いがないように立派に要塞を守っていましたぞ」と胸をはり。
さらには「勇者様と聖女様はさぞご活躍でしたでしょう」と得意? のゴマをすったが。
「ヒマリも頑張ったが、アルファード殿にはずいぶんと助けられた。さすがユキノジョウ殿の後継者だ。あの巨人をアルゴスと見抜くとは、我らでは不可能だっただろう。それにダンダレイスがいなければ、あれほど簡単に巨人は倒せなかった」
「はい、アルファードさんの指示がなかったら、わたしも光のリボンで魔物を固めるなんて、思いつきませんでした。
それにダンダレイス殿下もレジナルドと同じぐらいすごかったです」
二人の素直に讃える言葉に、ゴドフリーが恨めしそうに押し黙った。
さて、明日も戦いがあるから酒は出されないが、食堂ではささやかなごちそうがふるまわれた。各テールには去勢鳥の丸焼きに、ウサギのシチューのパイと手の込んだ料理が並んだ。
それに料理長が「季節がちっと早いが」と焼きリンゴを出してくれた。アイスクリームがほんのりシャンパン風味なのは「前祝いだ」そうだ。
くんとアイスの香りをかいで、一口食べてダンダレイスが「これなら大丈夫」とアルファードの前に一旦は出されたのに、大きな手が取り上げた焼きリンゴの皿を置く。
「でも、リンゴをお代わりするときは、普通のアイスにしてもらうように」
「わかっている」
答えて早速とけようとしているアイスに、あわててあつあつのリンゴを切って、それをからめて食べる。うん、あつ冷やにほんのりシャンパンの大人の味だ。
「アルファード卿はお酒に弱いのかい?」と聞いたレジナルドにダンダレイスが真面目な顔で「チョコレードボンボン二つで、世界が滅びそうになった」と答えた。
「そりゃたいへんだ!」と笑うレジナルドに、アルファードは解せぬ……と思った。
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