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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【9】ひょいと戻って来ることを信じて その2
しおりを挟むコウジが欠けたままの円陣で長距離跳んだジーク達は、着地したとたんシオンやマイアがふらりと崩れ、あわててコンラッドとピートが彼女達を支えた。
ジークは周りを見渡しここがフォートリオンと接する虚海の海岸のほとりだと確認する。
続けてジークが周囲に敵の気配がないか警戒するあいだに、コンラッドとピートは互いのパートナーの手を握りしめて、魔力を巡回させて回復に努める。
シオンとマイアの落ち着いた気配を見てジークが「乗り物は出せるな?」と彼らに尋ねる。
乗り物とは王子と魔法少女が作り出す飛行道具だ。フォートリオンでは魔道具として空飛ぶほうきがあるが、あれは空を飛べても目の前の虚海を渡ることは出来ない。
だが、王子と魔法少女が創る乗り物ならば、この海を越えることは出来る。コンラッドとシオンは黒い天馬を、ピートとマイアはデッキブラシを出す。
しかし、ジークにはコウジが欠けている。当然乗り物は出せない。どうするのか? と彼らが尋ねる前にジークは口を開いた。
「みんなは先にフォートリオンに戻ってくれ。私はコウジを迎えに行く」
それだけ告げれば用はすんだとばかり、戻ろうとするジークにコンラッドが「待て!」と声をかける。
「一人でコウジを救出しに行くつもりか? 無茶だ。ならば私達も……」
共に行くと言いかけたコンラッドに「断る」とジークは遮る。
「コンラッド、お前は序列第2位の王子だ。フォートリオンの次代の王となるのはお前だ」
ジークがこれほどはっきりと次期王について言及するのは初めてだった。そのことにコンラッドは息を飲み、しかし、行こうするジークに「待て!」と再び声をかける。
「それを言うならばお前とて、私と同じ序列2位の王子だ。お前にも王となる責務がある」
「私は今、パートナーたるコウジと離れている状態だ。パートナーが欠けていては、王となる資格などない」
そうジークは言ったあと「違うな」とつぶやく。
「私がコウジを取りもどさなければならないのだ。彼の居ない世界など考えられない」
「しかし、コウジはあの変貌した勇者の元に残ったのだぞ。さらに私達をかばってあのすさまじい閃光の直撃を受けた。
生存は……」
絶望的だとの言葉をコンラッドが呑み込む。それにジークが首を振る。
「コウジは生きている。私にはわかる」
運命の王子と魔法少女の繋がりは絶対だ。ましてジークは子供の頃にコウジと出会い、そのときに契約を果たしてのちに、彼と一旦離れてなお、その繋がりを保ち続けた。
コウジがコウジとして、この世界に召喚されるのを待ち続けたのだ。
「彼が生きているのがわかるならば、今は心配だろうが、一旦、ここは退いて我らとともにフォートリオンに戻り、彼の奪還を考えるのが賢明な方法ではないか?」
「コンラッド、お前の冷静な判断は正しい。だが、私はあの男の手から一刻も早くコウジを取りもどしたい」
「ジーク・ロゥよ、冷静になれ。お前は私と同じフォートリオンの序列第2位の王子なのだぞ。国の大事を思えば、今は私情を捨てて退くべきだ」
「ならばただいま、私は序列2位の王子の地位も、フォートリオンで受けたすべての爵位も放棄しよう。
ただ一人のジーク・ロゥとなって、コウジを救い出す」
「ジーク・ロゥ!」とコンラッドが声を荒げるのを、ピートが「コンラッド兄様、今のジーク・ロゥ兄様になにを言っても無駄ですよ」と間に入る。
背を向けていたジークはそんなピートをちらりと振り返り「ピート、コンラッドをよく補佐してくれ」とそれだけ言い残して駆け出した。
魔力を足に乗せた速度は馬よりも速く、その姿はたちまち見えなくなる。コンラッドは「普段はあれほど冷静な男が信じられん」と吐き捨てるように言う。ピートが「さあ、僕達はフォートリオンに戻りましょう」と促す。デッキブラシの前にマイアが、後ろにピートが乗り込み浮かべば、コンラッドもシオンを鞍の前に乗せて、自分も黒い天馬にまたがった。
シオンが「わたしは二人は必ず戻ってくるって信じてる」きゅっと唇を噛みしめて思い詰めた顔で。
「その上で帰ってきたら、あのおじさんにはまた勝手なことしてと、怒らなきゃ気が済まないわ」
コンラッドもふ……と微笑んで「私もジーク・ロゥに王族の立場をなんと心得ていると、言いたいことは山ほどある」と口を開く。
それにピートが「それでも僕にコンラッド兄様を頼むって言うあたり、ジーク・ロゥ兄様だって、フォートリオンのことを大切には思っているんですよ」と海の上をかける天馬の横、デッキブラシにマイアとともにまたがり併走しながら話しかける。
「ただ、ジーク・ロゥ兄様の場合、なによりも優先すべきなのは、コウジさんだってことです。フォートリオンどころか、自分の命よりも」
「情熱的ですね」と続けたピートにコンラッドが「しょうがない奴だ」と息を吐く。
「……でも、なんか少し怖いかな」
マイアがぽつりとつぶやいたのに、ピートが「なに?」と聞く。
「わたしね、好きって素敵なことだと思っていた。温かくて優しい気持ちになれるでしょう?」
「うん、僕もマイアが好きだよ」とさらりと明るく口にするのがピートだ。マイアも「わたしもピート君が好きよ」と笑顔で答える。
「そう、わたし達の気持ちは穏やかで優しいものだと思う。
でもね、ジークさんのコウジさんを想う気持ちって、すごく大きくて深いんだと思う。一途で情熱的で、でも、ちょっと怖い」
「うーん、確かにコウジさんを失ったジーク・ロゥ兄様とか考えたくないな」
「それはすごく悪いことになりそうで、いやだな……」
「世界に絶望して魔王になっちゃうとか?」
「コウジさんが居なくなっちゃうのも嫌だし、ジーク・ロゥさんがそんなことになるなんて考えたくないな」
マイアは少し泣きそうな顔をして、ピートは「そうだね。でもあの二人はきっと大丈夫だよ」と励ます。それにシオンが「当然よ」と口を挟む。
「あのおじさんのことだもの。『よお!』なんて片手をあげて、なんでもない顔で戻ってくるに違いないわ」
「あ~それは目に浮かぶようですね。僕もおやつのマカロンかけてもいいです」
とうなずくピートにマイアが「じゃあ、わたしもおやつのイチゴのタルトをかけようかな」と言う。それに「お菓子をかけるなんてお子様ね」とシオンが呆れたように言う。三人の会話に気難しい顔をしていたコンラッドも思わず微笑んだのだった。
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