81 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~
【10】答え合わせをしよう その1
しおりを挟む目が覚めた。
天蓋付きのベッドに慣れちまったのはどうなんだ? とコウジは身を起こしてくしゃりと髪をかき混ぜる。
なんか違和感あるなぁ……と思ったら、枕にしていたのは普通の羽根枕だった。普通の……ってのはどうなんだ? 申し分のない枕のはずだが、ジークの胸枕に慣れた身としては、あの弾力と温かさが恋しいって……ほど、まだ離れてないか。
見渡せば当然、ジークの屋敷のベッドルームとは違う。違うが天蓋付きのベッドといい、置かれている豪奢な調度からして、とても牢屋とは思えない。
自分は魔勇者となったフィラースの閃光の直撃を受けたはずだ。身体に痛みがないってことは治療してくれたのか?
生きているし怪我はない。しかし、どうしてこんな豪華な部屋に鎖にも繋がれずに寝かされているのか?
そこで左腕の違和感に気付く。手首につけられた金色の細い輪。これが魔力を封じているのか? 手から引き抜こうとしても取れない。当然か。
魔法は使えないことはわかったが、なんで自分がこんな豪奢な部屋にいるのか? が理解不能だ。ベッドの上であぐらをかいて、しばし考えていると部屋の扉が開いた。
入ってきたのは可愛らしいメイド姿の少女だった。メイド服ってのはどこも変わらないのか? と、コウジはヘッドドレスに黒いワンピース、白いエプロンの彼女をまじまじと見る。
髪の色は銀に淡い紫の巻き毛、肌の色は青みがかったように白く、耳の先は尖っている。髪と同じく銀に紫の瞳の瞳孔は針のように細い、魔族の少女? かと思ったが背中に透ける羽が四枚見えた。
彼女はコウジにむかいうやうやしく頭を下げ。
「お世話をさせていただきます、リンベイと申します。ご希望があればなんなりとおっしゃってください」
「じゃあ、リンベイちゃん、おじさんをここから出してくれる?」
「それはできません」
一番の希望はそれなのだが、やはり出来ないか。「この部屋から出るのもダメ?」と確認したら「はい」と答えられた。ふむ、一応は閉じこめられているのか。
しかし、牢屋で鎖に繋がれるわけではなく、閉じこめられているとはいえ、こんな豪華な部屋で世話係のメイド付きって自分はどういう状況なんだ? とコウジがうーんと考えこめば。
「なにかお召し上がりになりますか?」
そうリンベイに訊かれた。そうだな。腹は空いてないが、なんか食うか。
「パフェある?」
「はいご用意いたしますす。お飲み物は温かなお茶になされますか?」
「ん~アワアワのシャンパン、極上の奴」
どうせフィラースの懐から出るんだろうから高いの頼んでやれと思う。
「パフェもメロン盛った奴がいいな」
メロンは魔界じゃ高いのかな? まあ好きだから食べてやれと思う。
程なくして、リンベイがワゴンを押して部屋にやってきた。グラスに盛られた、まるい形のグリーンにオレンジのメロンの果肉だけでなく、白に紫のジェラートにキラキラ輝くクラッシュされたゼリーも挟まっている、芸術的な代物だ。魔王城のシェフもなかなかやるようだ。
そして、シャンパンを一口。うん、注文どおりの極上品だ。この味を覚えたのは、この世界に来てからだ。シャンパンが果物にあうと教えてくれたのは……。
ジークの奴どうしているかな? とコウジは思う。今頃はフォートリオンに無事についていると思いたいが。
そう、シャンパンと果物が合うと教えてくれたのはあいつだ。あれは散々しつこくされて拗ねたベッドの上でだったか? 「おじさんはいくら好物だからって、果物と酒なんかでご機嫌は取られないぞ」と口にした、イチゴとシャンパンはすごくうまかった。
今、口にしているメロンもシャンパンも極上の品だ。柄の細長い銀のスプーンで一口すくって食べたアイスクリームはホワイトチョコか。これも、うまい。
うまいことはうまいが、あいつがいない。
「……いまいちだな」
「うちの料理人の味が気に入らないか?」
小卓を挟んでフィラースが反対側の椅子に腰掛ける。あの黒い甲冑を脱いで、今はシンプルな黒いシャツにパンツにブーツ姿だ。
そういえば俺の服……とコウジが自分の姿を見れば、白いシャツにズボンの姿だった。スーツは脱がされたようだが、ぴらぴらのレースのお貴族様の服でないのでいいと思う。おじさんにフリルなんて似合わないことこの上ない。
「いや、味は絶品だぜ。ただし、ここに閉じこめられているのが、気に入らないだけだ」
「答え合わせをしようぜ」とコウジは続ける。パフェを食べる手は休まず、口にオレンジのメロンの果肉を放り込んで、シャンパンを一口。
「答え合わせ?」
「ああ、あんたはこの世界で勇者召喚される前に、別の世界で召喚された。そこで、魔王をゾンビ化して、自分が魔王になるのを止めたってことか?」
コウジの言葉にフィラースは軽く目を見開く。
「誰かに聞いたとは思えないな。玉座の間のあの瞬間まで、お前達は魔王の正体にも私の真の姿にも気付いていないようだった」
「ああ、まんまと騙されたぜ。だけど、魔王があんたによって倒された。“そう見せかけられた”瞬間に、俺の意識が一瞬飛んで“視えた”のさ。
あれは夢や幻じゃない。そうだと考えれば、あんたが今、どうして魔王にならず、勇者のまま闇の力も使える魔勇者になってるか説明がつく」
魔王を倒さなければ勇者は魔王化することはない。繰り返されてきた神々によるこの“たくらみ”を、フィラースは魔王を不死化して止めた。いや、それだけでは足りないと、自ら半堕ちして闇を取り込んで魔勇者となることで、屍となった魔王を使役する上位者となった。
153
お気に入りに追加
1,067
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて、やさしくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。
薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。
アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。
そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!!
え?
僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!?
※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。
色んな国の言葉をMIXさせています。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。