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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【2】魔王はエイリアン!?

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 それは数日前、ジークとコウジ達はいきなり女神アルタナの空間に呼ばれて告げられた。
 モルガナ国が魔王によって滅ぼされたと。

「女神さんよ、魔王ってなんだ?」
「魔王は魔王よ。魔界の王だから、魔王」
「いやいや、この世界に災厄はともかく“魔王”なんて聞いたこともありませんけど」
「それはそうでしょ。魔王はこの世界の“外”からやってきたものよ」
「は?」

 なんだそりゃエイリアンかなんかか? と思ったが、アルタナの説明によると、本当にそれに近いものらしい。

 この世界は各神々が創造した大地と空間が、シャボン玉のようにくっついて出来ている。創造された大地の周りに海が囲み、その海の外にさらに虚海と呼ばれる次元の海が広がっていて、そこは次元船と呼ばれる特殊な船がないと渡れない。
 で、他にもそんな世界構造を持つ神々の世界があり、魔王と魔界は元の世界から“追放された”シャボンの一つで次元をさまよううちに、別の世界と接触し、その世界に災いをもたらすという。

「魔王は支配欲の権化だし、魔界の生き物は闘争本能が強くて凶暴で凶悪。とても話し合いなどで解決出来ないわ。共存共栄なんて無理ね」
「“追放された”って、だったらその元の世界に責任とって引き取ってもらえばいいじゃないですか?」

 ピートが子供らしくあざとくあっけらかんと言う。コウジもうんうんとうなずいた。

「そりゃ、元の世界の神様達が責任とるべきだよな」
「あのね“追放”と言ったでしょ? 元の世界でも手に負えないから、魔界を切り離して虚数の海に放り投げたのよ!」

 なんだその産廃の不法投棄みたいなのとコウジは思う。
 女神様の続く説明によれば、虚海で隔てられた世界が干渉しあえないように“通常”ならば、魔界がそばを通り過ぎても、その世界にくっつくなんてことはないのだという。

「世界を守護する神の力が相当に弱まっていない限りね。
 だけど、そのときのモルガナはしわしわのお婆ちゃんの肉の器に閉じこめられているうえに、常にその力を十七人の王子に吸い取られている状態だったんだもの」

 あ~とコウジは納得する。

 フォートリオンと虚海を隔てた隣国モルガナは、聖女を宗主として神官団が治める宗教国家だ。もっと正確にいえば、モルガナ女神以外を認めない女神の独裁国家とも言える。
 その女神様は己の狭量さゆえに国が小さく発展しないことを棚にあげて、隣国であるこのフォートリオンを侵略してきたのは、約半年ほど前のことだ。

 聖女の身体そのものに女神モルガナがのりうつり、その魅了の力で、出会うフォートリオンの民のことごとくを虜にしていったのだ。このとき魔法少女を失い力を欲していた十七人の王子もまた、この女神の虜となった。
 それもコウジ達の活躍とジークの計略によって、撃退されて国に逃げ帰ったのだった。

 ピチピチの十代の容姿だった聖女様だったが、しわしわの老婆になってだ。老婆になっても女神様の魂ゆえに百年はその肉体に縛られると、そのことを話したときに女神アルタナは意地悪く笑っていたのをコウジは思い出した。
 弱ったところに運悪く、元の世界から切り離された魔王と魔界に遭遇してしまったということか。

「モルガナ国はたった一日でひとたまりもなく、魔界に呑み込まれたわ。モルガナは肉体を失い。聖女を守ろうとした神官に聖騎士は全滅したそうよ」

 全滅ってことはモルガナそのものである聖女の魅了の力の虜となってついて行った、十七人の王子もということか。
 ご愁傷様と思うが、フォートリオンを裏切ってモルガナに走ったのは彼らの選択だ。モルガナの虜になったままなら、女神と聖女のために死ねるならと、彼らは恍惚としたまま死に向かっただろう。

 死んじまったもんは仕方ねぇ……とコウジの生死感はそこらへんドライだ。

 生きるときは生きるし、死ぬときは死ぬ。だが自分は最後まで生きることは諦めない。死ぬことが怖いと無様にわめくことだけは、男のちっぽけなプライドにしがみついて絶対にしないと決めているが。

「それで、今はこの姿よ」

 アルタナの言葉と彼女がゆったりと座る寝椅子の先、その肘掛けの薔薇の飾りにとまる白いものがあることに、コウジは気づいた。
 それは白い蝶、いや、蛾か? 蛾が女神モルガナ? 

「なに? わたしがこんな姿になって、いい気味だと思っているの?」

 蛾がいきなりしゃべった。いや、そんなこと思ってませんけど。相変わらずの自己顕示欲バリバリの女神様だなあ、おい。

 魔王軍に攻め滅ぼされたとき、しわしわの婆さんになった聖女の身体を失った女神だが、とっさに窓辺にとまっていた蛾の身体に飛びこんで、燃える神殿を脱出したのだという。
 そしてアルタナ女神に助けを求めた……という話に、コウジは「ん?」と思う。

「その女神様の自業自得で国が滅んだんだから、別に放っておいてもよくね?」

 そもそも他の神の創造地を欲しがって、無茶をして起こした侵略の失敗の結果だ。あげく、その侵略をしかけた国の女神に、姉とはいえ助けを求めるのはおかしくないか? 
 そうアルタナ女神とモルガナ女神は姉妹である。もっと神様全員兄弟姉妹の関係らしいから、別に特別ではない。むしろ自己顕示欲バリバリの妹女神と、生真面目で働き者の姉女神は国が隣同士のせいもあるのか、お互いにお互いを良く思ってはいない。
 まあ、隣同士の国なんて大概仲が悪いもんだ。良い方がおかしい……と言ったのは誰だったか。

「そうね。虚海に隔てられているんですもの。隣の国が魔界に呑み込まれたところでこっちに影響はないわ。普通なら放置でしょうけど」

 コウジの発言にアルタナ女神も深くうなずく。それにモルガナは「相変わらず失礼な男ね!」と憤慨し「ひどい! お姉様ったら、わたしを見捨てるの!」などと白い蛾の姿で叫んでいるが、両者はさらりと無視をする。
 そして「ふう……」とアルタナがため息を一つ。

「ところがこちらにまったく影響がないわけではないのよね。災厄の影響でしばらくは虚海の結界が弱くなると以前に言ったでしょう?」

 豊かな大地のフォートリオンだが、百年に一度、彼の地には災厄が降り注ぐ。
 これを祓うために異世界より魔法少女が呼ばれて、運命の王子様とパートナーを組んで、災厄を祓ってきた。
 そう、魔法少女なのになぜか、その四十四人ともに、おじさんのコウジが呼ばれてしまった。

 しかも、コウジの魂は二十二歳の夢も希望もなかったコンビニの店員だった。それがこの異世界に呼ばれたときに、暗黒の中二病時代に考えた最強のおじさんキャラになっていたのだった。
 そしてパートナーとなった隣に立つ銀髪に剃刀色の瞳。長身に足長。どこをとっても完璧な王子様ジークと、合体したり合体したり、その合間に災厄退治をしたりして、ついにはラスボスも倒して身体だけじゃなくて、心も結ばれてめでたし……となったが。

 物語ならそれで終わりだが生きている限りは、その続きがある。

 災厄を倒してやれやれと思ったところ、突然に隣国の聖女というか女神がやってきて、このフォートリオンを侵略しようとしたが、返り討ちにしてやった。

 それが前回までのあらすじ。

 で、百年に一度の災厄に揺れたフォートリオンはいまだ女神の力は万全ではなく、隣同士の神々の大地との虚海の境は揺らいでいるのだという。
 それをついてモルガナ女神はこっちにちょっかいをかけてきたんだが。

 アルタナ女神は前に、その結界の揺らぎはちょっとのあいだですぐに治るといった。
 しかし、それは神様時間での感覚だ。そりゃ千年単位なら十年なんて一瞬かもしれないが。
 人生百年以下の人間からすれば、そのちょっとの間の十年は結構な長さだ。
 つまり。

「モルガナと接しているその弱まった結界から、魔王がこのフォートリオンに侵攻してくるということか?」

 ジークの問いに他の者達にも一斉に緊張が走る。それにアルタナは「そうはさせないわ」と答えた。

「その前にあなた達にはモルガナ国で決着をつけてもらうわ。魔王を打ち倒す“勇者”とともにね」



   ◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇



 魔王というのは堕ちた神だという。

 自らの強大な力におごり、同じ次元上にある神々の国を侵略しようとして、逆にその神々の結束によって次元の海へと追放となった。

 正確には神々に選ばれた人間の勇者によって打ち倒され、封じられて流された。
 神を倒すのは神ではなく、人なのだとこれまた訳のわからない神様ルールだ。

 そして、倒されては別の次元に流れつき目覚めた魔王をまた、その世界に“召喚”された勇者が打ち倒してきたのだという。
 またもや“召喚”かとコウジは目を据わらせた。

「あんたら神様はどこまで他力本願なんだよ? 関係もない人間を異世界から呼び出して、いきなり魔王を倒せってか?」
「そうしなければ、このフォートリオンは滅びるわ。他に選択の余地はないの」

 アルタナはきっぱりとそれが世界の理だと言わんばかりに口にした。実際、そうなのだろう。

 神はそう言った……ってヤツだ。






 だからといって、まさかコウジの昔の(知り合いだった)男が召喚されるとは思わなかったが。





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