どうも魔法少女(おじさん)です。 異世界で運命の王子に溺愛されてます

志麻友紀

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どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【1】英雄と勇者 その2

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 散々ねちっこくされて「お前だけだから」だの「俺の身体はお前しか、しらねぇからっ!」とか、最期には「(気持ちヨクて)死んじまう!」とか、啼かされた夜が明け。

 コウジは正直寝起きがよろしくない。それでも「今日は早くに起きないと“儀式”がある」とジークに起こされ、身を起こしはしたがベッドでぼんやりしていたら、これまたジークの手で朝食が運ばれてきた。
 温かなお茶にプレーンなオムレツ、焼き立てのパンでおじさんは十分だ。ジークの皿には当然のようにソーセージや焼きトマトや豆のプディングが副菜として盛られていた。

 ここはジークの館ではないのだが、出てくる料理に遜色そんしょくがないことに感心する。このパン、誰が焼いているんだ? と思いつつ苦みのあるマーマレードともに食べる。
 それから二人に割り当てられた部屋についているバスでシャワーを浴びて、まだ残る夜の甘いけだるさと眠気の残滓を落とし、コウジは黒のスーツに着替えた。

 これまた屋敷ではないのに、ぱりっとアイロンがかかったシャツに感心した。袖を通したとたんに、なんかくたびれた感じになるのは、このおじさんの仕様だ、仕様。
 ジークもまた黒に銀の軍服に着替えて、部屋の外に共に出る。居住区から、白い列柱が並ぶ回廊をぐるりと回って上を目指す。柱の向こう壁のない外は雲と青空が見えた。遥か下にフォートリオンの大地が見える。まさしくファンタジー世界の光景だ。

 そして回廊の先には、壁無し円形の柱のみに支えられたドーム空間がある。すでにコンラッドにシオン、ピートにマイアも到着していた。彼らも軍服に魔法少女の姿だ。
 そして、円形の広い空間の真ん中にはもう一つ、ふわりふわりと浮かぶ小さな影がある。

「遅いわよ! なにをしていたの!」

 そのひらひらと羽を動かすのは蝶ではない。“蛾”だ“蛾”。それが話している。

「時刻通りに来たぜ」

 コウジが反論すれば、そのまっ白な蛾ではなく、後ろにいた男が口を開いた。

「このような大事なときは少し早めに来るのが礼儀ではありませんか?」

 金の髪をぴっちり七三分けにして事務服に黒のアームカバーをつけたアンドルだ。言葉は丁寧だが、彼はいかにもイライラした表情だった。

「悪いな。大物ってのは最後の最後にやってきて『遅かったか……』とつぶやくのが定番なんだぜ。
 時刻通りにやってきたことをむしろ、感謝して欲しいぐらいだね」
「なにが感謝しろですか! 相変わらず失敬な男ですね! 私がいまだあなた様の国の第1王子だったなら、即刻、あなた様のお首など刎ねて差し上げるところです!」

 本当はお前などの首を刎ねてやる! と叫びたいのだろうが、この“元”第1王子の言葉はアルタナ女神のかけた制限によって、口から出る言葉がやたら丁寧語に変換されるようになっていた。
 それがおかしくてついからかってしまうコウジだ。「首を刎ねて差し上げるか!」と爆笑するおじさんに対して、元王子様は顔を真っ赤にしてふーふーいっている。そこに「そろそろ、始めましょうよ」とシオンの声がかかる。

 それに「ちょっと」と不満げな声をあげたのは、白い“蛾”だ。実はモルガナ女神の化身だったりする。老婆の姿からどうして蛾になったのかは、おいておいて。

「なに取り仕切ろうとしているのよ。儀式の中心はこのわたしよ。わたしの“聖女”の力がなければ“勇者”は呼べないのだから」
「モルガナ女神よ。それに私達の助力がなければ“召喚”は成功しないと、我らを召喚したのはアルタナ女神であるが?」

 ジークの反論に羽をひらめかせたモルガナ女神は一瞬沈黙し「さあ、始めるわよ」とそれに答えず、ようするにはぐらかした。
 こんな不協和音で成功するのかねぇ? とコウジは思ったが。とりあえず儀式は行われた。

 モルガナの化身たる白い蛾が羽をはためかせて、ドーム型の広場の中心に、その白き鱗粉で輪を描く。
 ジーク以下の三王子、そして二人の魔法少女にコウジが、その輪の中心にそれぞれの魔法陣を念じる。この数日練習して描けるようになったものだ。

 コンラッドとシオンの青と紫の炎に、ピートとマイアの黄色の風の陣。そして、ジークの苛烈な光の雷の陣に、コウジの黒の闇の陣が重なる。
 そう、コンラッドとシオンは炎であり、ピートとマイアは風なのだが、ジークとコウジの属性は光と闇と正反対だ。どうしてなのかはコウジも知らない。

 ともあれ陣は重なり、それがさらに複雑な文様の陣となる。陣は青に紫、黄色、光と闇の極彩色をまとった渦となってドーム型の天井を貫く。
 そして、その瞬間になにか降りてきたのをコウジは見た。
 が。

────なんだ!? 

 一瞬、それを分断するようにノイズが走ったように見えた。くわえ煙草で顔をしかめて、横を見ればジークも眉間にしわを寄せている。
 だが、モルガナ女神の化身は羽をはためかせて「勇者召喚成功よ!」と喜んでいる。他の者達も渦が徐々に消えて、そこに立っている人物の姿が浮かび上がってくるのに、ただ注目している。

────誰も気づいていない? 

 そのことにコウジがひっかかったのは一瞬で、現れたその姿に軽く目を見開いた。

 歳は初めて会ったときよりもさらに若い。ジーク達と同じぐらいか? 
 しかし、獅子のたてがみのような黄金の髪は変わらず、なめし革のような光沢の褐色の肌。長身の均整のとれた体躯。
 それよりもなによりも、見る者を貫くような苛烈な黄金の瞳は、幾人も通り過ぎては死んで言った者達のなかでも印象的で、忘れることがなかった男だ。

「フィラース……」

 自分はただの革命家。呼び捨てで構わないと言われて呼んだ名を、コウジは思わず口にした。
 記憶よりも若い男は鮮やかな笑顔を見せた。

「こんな場所で再会するとはな、コウジ。会いたかったぞ」





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