上 下
65 / 120
どうも魔法少女(おじさん)です。【3】~魔王降臨!!おじさんの昔のオトコ!?~

【1】英雄と勇者 その2

しおりを挟む
   



 散々ねちっこくされて「お前だけだから」だの「俺の身体はお前しか、しらねぇからっ!」とか、最期には「(気持ちヨクて)死んじまう!」とか、啼かされた夜が明け。

 コウジは正直寝起きがよろしくない。それでも「今日は早くに起きないと“儀式”がある」とジークに起こされ、身を起こしはしたがベッドでぼんやりしていたら、これまたジークの手で朝食が運ばれてきた。
 温かなお茶にプレーンなオムレツ、焼き立てのパンでおじさんは十分だ。ジークの皿には当然のようにソーセージや焼きトマトや豆のプディングが副菜として盛られていた。

 ここはジークの館ではないのだが、出てくる料理に遜色そんしょくがないことに感心する。このパン、誰が焼いているんだ? と思いつつ苦みのあるマーマレードともに食べる。
 それから二人に割り当てられた部屋についているバスでシャワーを浴びて、まだ残る夜の甘いけだるさと眠気の残滓を落とし、コウジは黒のスーツに着替えた。

 これまた屋敷ではないのに、ぱりっとアイロンがかかったシャツに感心した。袖を通したとたんに、なんかくたびれた感じになるのは、このおじさんの仕様だ、仕様。
 ジークもまた黒に銀の軍服に着替えて、部屋の外に共に出る。居住区から、白い列柱が並ぶ回廊をぐるりと回って上を目指す。柱の向こう壁のない外は雲と青空が見えた。遥か下にフォートリオンの大地が見える。まさしくファンタジー世界の光景だ。

 そして回廊の先には、壁無し円形の柱のみに支えられたドーム空間がある。すでにコンラッドにシオン、ピートにマイアも到着していた。彼らも軍服に魔法少女の姿だ。
 そして、円形の広い空間の真ん中にはもう一つ、ふわりふわりと浮かぶ小さな影がある。

「遅いわよ! なにをしていたの!」

 そのひらひらと羽を動かすのは蝶ではない。“蛾”だ“蛾”。それが話している。

「時刻通りに来たぜ」

 コウジが反論すれば、そのまっ白な蛾ではなく、後ろにいた男が口を開いた。

「このような大事なときは少し早めに来るのが礼儀ではありませんか?」

 金の髪をぴっちり七三分けにして事務服に黒のアームカバーをつけたアンドルだ。言葉は丁寧だが、彼はいかにもイライラした表情だった。

「悪いな。大物ってのは最後の最後にやってきて『遅かったか……』とつぶやくのが定番なんだぜ。
 時刻通りにやってきたことをむしろ、感謝して欲しいぐらいだね」
「なにが感謝しろですか! 相変わらず失敬な男ですね! 私がいまだあなた様の国の第1王子だったなら、即刻、あなた様のお首など刎ねて差し上げるところです!」

 本当はお前などの首を刎ねてやる! と叫びたいのだろうが、この“元”第1王子の言葉はアルタナ女神のかけた制限によって、口から出る言葉がやたら丁寧語に変換されるようになっていた。
 それがおかしくてついからかってしまうコウジだ。「首を刎ねて差し上げるか!」と爆笑するおじさんに対して、元王子様は顔を真っ赤にしてふーふーいっている。そこに「そろそろ、始めましょうよ」とシオンの声がかかる。

 それに「ちょっと」と不満げな声をあげたのは、白い“蛾”だ。実はモルガナ女神の化身だったりする。老婆の姿からどうして蛾になったのかは、おいておいて。

「なに取り仕切ろうとしているのよ。儀式の中心はこのわたしよ。わたしの“聖女”の力がなければ“勇者”は呼べないのだから」
「モルガナ女神よ。それに私達の助力がなければ“召喚”は成功しないと、我らを召喚したのはアルタナ女神であるが?」

 ジークの反論に羽をひらめかせたモルガナ女神は一瞬沈黙し「さあ、始めるわよ」とそれに答えず、ようするにはぐらかした。
 こんな不協和音で成功するのかねぇ? とコウジは思ったが。とりあえず儀式は行われた。

 モルガナの化身たる白い蛾が羽をはためかせて、ドーム型の広場の中心に、その白き鱗粉で輪を描く。
 ジーク以下の三王子、そして二人の魔法少女にコウジが、その輪の中心にそれぞれの魔法陣を念じる。この数日練習して描けるようになったものだ。

 コンラッドとシオンの青と紫の炎に、ピートとマイアの黄色の風の陣。そして、ジークの苛烈な光の雷の陣に、コウジの黒の闇の陣が重なる。
 そう、コンラッドとシオンは炎であり、ピートとマイアは風なのだが、ジークとコウジの属性は光と闇と正反対だ。どうしてなのかはコウジも知らない。

 ともあれ陣は重なり、それがさらに複雑な文様の陣となる。陣は青に紫、黄色、光と闇の極彩色をまとった渦となってドーム型の天井を貫く。
 そして、その瞬間になにか降りてきたのをコウジは見た。
 が。

────なんだ!? 

 一瞬、それを分断するようにノイズが走ったように見えた。くわえ煙草で顔をしかめて、横を見ればジークも眉間にしわを寄せている。
 だが、モルガナ女神の化身は羽をはためかせて「勇者召喚成功よ!」と喜んでいる。他の者達も渦が徐々に消えて、そこに立っている人物の姿が浮かび上がってくるのに、ただ注目している。

────誰も気づいていない? 

 そのことにコウジがひっかかったのは一瞬で、現れたその姿に軽く目を見開いた。

 歳は初めて会ったときよりもさらに若い。ジーク達と同じぐらいか? 
 しかし、獅子のたてがみのような黄金の髪は変わらず、なめし革のような光沢の褐色の肌。長身の均整のとれた体躯。
 それよりもなによりも、見る者を貫くような苛烈な黄金の瞳は、幾人も通り過ぎては死んで言った者達のなかでも印象的で、忘れることがなかった男だ。

「フィラース……」

 自分はただの革命家。呼び捨てで構わないと言われて呼んだ名を、コウジは思わず口にした。
 記憶よりも若い男は鮮やかな笑顔を見せた。

「こんな場所で再会するとはな、コウジ。会いたかったぞ」





しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて、やさしくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。