風紀委員長様は今日もお仕事

白光猫(しろみつにゃん)

文字の大きさ
47 / 59

風紀委員長様は小動物に絡まれる(舞台そで編)

しおりを挟む
 これから新入生歓迎イベント……いわゆる鬼ごっこが幕を開ける。

(……腹だたしいくらいの晴天だな)

 新入生たちには、事前にルールブックと校内地図が渡されており、現在大講堂では細かい説明が行われている。前日のくじ引きにより、新入生の中から鬼役も選抜済みのはずだ。この後、開会式で生徒会役員が挨拶をし、ゲームスタートとなる。

 そもそもこのイベントは、まだこの生活に慣れていない新入生たちに、ゲーム感覚で楽しみながら学園に馴染んでもらうことを目的としている。広大な敷地を実際に足で巡り、逃走経路や隠れ場所を検討する中で、様々な発見をしてもらうというのが表向きの趣旨だ。

 しかし裏では、役員の誰が捕まるか、どんな罰ゲームをくらうか、めぼしい新入生がいるのか等、在校生が中継を見ながら馬鹿騒ぎできる祭りでもある。
 賭け事や盗撮も横行し、風紀委員としては頭が痛くなる厄介なイベントなのだ。

 野に放たれた可愛い野ウサギ(新入生や親衛隊持ち人気者)を狙った痴漢事件も多数発生する。閉会まで決して油断することはできない。
 しかも今回の俺は、追われながら取り締まりにも目を光らせるという、訳の分からないポジションなのだ。油断なんてしようがない。

(そろそろ行くか)

 生徒会から配布された運動着に着替え、寮から大講堂へと向かう。
 近づくにつれて、マイクの声が漏れ聞こえ、それをかき消すような大歓声が聞こえてきた。どうやら生徒会役員が、舞台でそれぞれ挨拶を始めたようだ。この挨拶が終了した後、俺も他の役員とともに顔見せすることになっている。

 舞台そでへと続く専用扉から中へと入れば、すでに俺以外の役員や人気ランキング常連の在校生たちが全員揃っていた。黒の運動着にセンサー付きの迷彩柄ベストを着用し、生徒会の挨拶が終わるのを舞台そでから見守っている。
 そっと後ろに加わったつもりだが、一人が俺の気配に気づき、話しかけてきた。

「ようやくのご登場だね。さすがはラスボスの風紀委員長様」
「それを言うなら如月あたりじゃないのか?」
「如月? 確かにアイツは性格もガラも超悪いけど、常に表舞台の中心にいる主人公様だからね。今だってまあ、スピーチするだけで新入生の心臓ワシ掴んじゃって、相変わらずのキラキラオーラっぷりに、腹の底からムカついてたとこだよ。でも藤堂は違うだろ? 眩しいスポットライト嫌いでしょ? 僕が思うに、下僕志願者にクツ舐めさせながら、冷笑浮かべて闇を支配する悪の総統がピッタリだと思うんだ。それでエクスカリバー(聖剣)抜いて勇者になった如月と最終決戦して、死闘の末に転生を繰り返し、ずっと戦い続ければ良いと思う。可愛い僕を巡ってね」
「つつしんで辞退する」

 朝っぱらから妄想電波を垂れ流しているのは、3―Sの【情報屋】こと、広報委員会の委員長・番屋信長(ばんやのぶなが)だ。荒々しい名前に反して、低身長で庇護欲をそそる可愛らしい見た目をしている。いつもウルッとしている大きな瞳も、キョトキョトとした仕草も、まるでハムスターのようだ。【抱きたい男ランキング】でも、常に上位にランクインしている。

 しかし、この脆弱なまでの存在感が、この男の最大の武器なのだ。
 人畜無害の柔らかそうな雰囲気で相手を油断させ、権力者のお坊ちゃんどもから、将来脅しにも使えそうな様々な情報を引き出している。
 瑞貴曰く、同人誌の件もこの男が一番怪しいらしいが、尻尾を掴みかけたところでサラリとかわされてしまう為、かなりの苦戦を強いられているようだ。

 ハムスターの尻尾を追いかけるネコ……なんて微笑ましい構図だろうか。
 瑞貴が一生懸命なので、面白いから放っておいている。

「それにしても、藤堂はスタイル良いから何でも似合うね。すごく羨ましいな。僕なんて見てよ。ソデとかダボダボで最悪。ほんと嫌になる」

 両頬をぷっくり膨らませて、番屋が上目遣いで訴えてきた。ますますハムスターっぽい。
 確かに、彼のソデからは指先だけがチョコンと覗いている。

「邪魔なら、まくればいい」
「……おい、それだけか藤堂? もっと食いつけ。目の前のご馳走に気づけ。こんな愛くるしい僕の、こんな彼シャツを彷彿とさせる絶妙な萌えソデだぞ? 健康な男なら下半身興奮しかないだろうが」
「声が大きいぞ。ハムナガ」
「ハムナガって呼ぶなっ! おまえのせいで、親衛隊まで【ハムナガ様】って言い間違えるんだぞ! どうしてくれる!」
「それは困る」
「そうだろーが。少しは反省しろ」
「おまえをそう呼んでいいのは、俺だけなのに」
「……え? そっ、そうなの?」
「違うのか? それは寂しいな」

 番屋の顔を覗き込むようにして、お伺いを立ててみる。
 ハムスターと信長を足して【ハムナガ】……親しみやすいネーミングだと思ったのだがお気に召さないようだ。友達百人計画を遂行中なのだが、級友との距離の詰め方が、いまいち分からない。

「そっ……そういうことなら……、許さなくも……ない」
「ん?」
「藤堂だけっていうなら……いい。特別に許してやる」

 目をそらした番屋は、頬を染めて急にモジモジしだした。
 くすぐったいから、腕に「のの字」を書くのはやめて欲しい。

「……ねえ、藤堂。キミばかり愛称で呼ぶのは不公平だと思わない? 僕からも呼ばせて」
「そういうものか?」
「そういうものだよ。藤堂玲一だから……【玲】って呼びたいな。駄目?」
「申し訳ない。親からその申し出だけは受けるなと、キツク言われている」
「それって、保証人頼まれて断る時の常套句だよね! 酷いっ!」

 のの字が、ポカポカへと変わったが、小さな手で殴られてもちっとも痛くない。

(……常套句どころか、事実なんだが)

 父は昔から、俺が【玲】と気安く呼ばれることを極端に嫌がる。
 そう呼ぶのは自分だけの特権だと、長年周囲に主張(威嚇)し続けているのだ。

 ”愛しい玲”
 ”私の玲”

 幼い頃からずっと……、繰り返し繰り返し、鼓膜へ浸透させるようにして囁かれ続けてきた。
 そのせいで、他人から【玲】呼びされると、まんまと父の顔がよぎってしまう、可哀想な身体になってしまった。なんてことだ。


『さあ、それではご紹介しましょう! 可愛い新入生の為ならばと、快く参加を引き受けてくださった在校生の皆様です! どうぞコチラヘ!』


 司会者の呼び込みに、番屋の手が止まった。

「僕、もうちょっと前へ行こうっと。藤堂の隣だと悪目立ちしちゃうから」

 おい、どういう意味だ?
 大歓声に迎えられながら、番屋を含め、みな順番に舞台へと上がっていく。流れで俺もあとに続いたが、ラッキーなことに最後尾につけた。
 よしよし。これだけ舞台の端ならば、陰になって目立たないだろう。

『それでは、時間もだいぶ押しておりますので、ここは人気者たちを代表して、この方から話を伺いましょう。藤堂委員長はおられますか? 風紀委員長の藤堂玲一くーん! そんな端っこの幕に隠れても無駄ですから、いますぐ前へ出てきてください』


 ……あの司会者、あとで絞める。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処理中です...