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風紀委員長様は後輩を聴取する(風紀委員会室編)
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見回りへ出た瑞貴と那須田が、大量の獲物を咥えて戻ってきた。
俺の知らぬ間に、校舎裏で網を張っていたらしい。
その中に、ひとり顔見知りの者を見つけた。
あの時のツル(仮)だ。
不運にも、仲間と共に網に引っ掛かったところを、那須田に保護されたのだそうだ。
ちなみに、先に到着した加害者の生徒たちは、瑞貴が他の風紀委員と共に、別室へと連れて行った。今頃厳しい聴取が始まっていることだろう。
俺も行こうとしたが、思いきり拒否された。まあ、いつものことだ。
昔から瑞貴は、自分が気に入らない人間に俺が接触するのを、潔癖なまでに嫌がる傾向がある。転校生の時が良い例だ。
そういったわけで自動的に、俺は被害者側の聴取を見守ることとなった。
現場にいた那須田が質問をし、事のあらましを丁寧にほぐそうとするが、上級生で役員の俺が同席しているせいか、緊張混じりのチグハグな回答しか返ってこない。空気を換える必要がありそうだ。
「委員長? どちらへ?」
「すぐに戻る」
瑞貴がいないことを幸いに、久しぶりに給湯室へと足を運ぶ。茶葉やカップのありかが分からず、多少手こずってしまったが、人数分の紅茶をなんとか入れることが出来た。
それらをトレーに載せて戻ってみれば、那須田が疾風のように駆け寄ってきた。トレーをひったくられそうになるも、ギリギリでかわす。
「何をするんだ。せっかくの茶がこぼれるじゃないか」
「あなたにお茶くみなんてさせたら、俺が佐藤に殺されます」
「みんな砂糖は適当に入れてくれ。佐藤と砂糖でややこしいな。那須田もいいから座れ」
固まっている三人の前に茶器を並べ、頭を抱えている那須田の前にもコトリと置いてやる。
俺が紅茶を飲み始めると、目の前の三人も「い、いただきます」と恐縮しながら、口をつけ始めた。那須田も観念したのか、黙ってカップを傾ける。
「横から見ると、那須田もなかなかの男前だな」
ブハッ!
俺の呟きに、那須田だけでなく四人がまとめて紅茶を吹きだした。
「なっ……なに言って……ゲホゲホゲホッ! い、委員長! こんなっ、時にっ、ふざけな、いで、くださっ……ゲホゲホッ!」
「キミたちはこの男と同級生だったな。どうだ? 普段はこんな真面目くさった面構えだが、裏で遊んでいるとか、クラスで噂になったことはないか? 俺は結構なムッツリだと踏んでいるのだが」
「委員長っ!」
「……え、え~っとぉ……、俺たちもその……、あまり詳しくはないですが……、たぶん……結構、も、モテる方だとは思います」
「ふうん? その根拠は?」
「……この間も、隣のクラスの子が、那須田に告白してフラれたって……玉砕したって噂が流れてましたし」
「それはいつ? どんな相手だ?」
「確か三日前……結構可愛いって評判の……」
「委員長! これは一体なんの聴取ですかっ! おまえもペラペラと律儀に答えるな!」
耳を赤くした那須田が、正直者のツル(仮)の言葉をさえぎってしまった。
「なるほど……思っていた通りだ。前から言っていただろう? おまえは絶対同性にモテる。これで裏が取れたな」
「やめてください。全然嬉しくないです」
「よし。早速その素質を伸ばしてみよう。男子校で環境は充分に整っている。生徒会のチャラ会計がなんだ。うちもチャラ風紀で対抗するぞ。とりあえず、あいつのハーレムから子ネコを奪ってこい。それで少しは平和になる。俺の仕事も減る」
「俺の心の平和はどうなるんですか」
げんなりした那須田に、三人ともたまらず笑っている。
良い空気だ。
「余談はこれくらいにして、先程の続きと行こうか。今度は俺からもいくつか質問をさせてもらう。加害者の何人かは、君たちの同級生だ。教室で耳にした噂のひとつやふたつはあるんじゃないかな? どんな些細な事でもいい。彼らの素行について、気になっていたこと、気づいていた点があれば、見たまま聞いたままを今のように話して欲しい」
そこからの聴取は、滞ることなくうまく進めることができた。
被害者三人を帰した後、残りは瑞貴たちに任せて、俺は業務を再開しようとしたのだが……
(……ん?)
父から俺宛に、メッセージが届いている。
聴取の間に、受信していたようだ。
なんだろう?
嫌な予感しかしないが、渋々クリックしてみる。
『愛しい玲
次の土曜日、仕事帰りにそちらへ寄れることになりました。
理事長に挨拶をして、昼過ぎには寮へ遊びに行く予定です。
久しぶりに君を抱きしめられる日を心待ちにしています。
パパより』
次の土曜といえば、鬼ごっこイベントの翌日だ。
散々男どもに追いまわされたあげくに、父に抱擁までされるのか。
しかし、仲直りして早々にこうくるとは……、音信不通だった二年間で、あの人がどれだけ子煩悩をこじらせているのか、いささか不安になってきたぞ。
いろいろと、気疲れする週末になりそうだ。
プリンでも常備しとくか。
そういえば、ツル(仮)の名前を、また聞きそびれてしまった。
まあ。聴取の報告書に記されてくるだろうから、その時に確認すればいい。
……覚えていればだが。
俺の知らぬ間に、校舎裏で網を張っていたらしい。
その中に、ひとり顔見知りの者を見つけた。
あの時のツル(仮)だ。
不運にも、仲間と共に網に引っ掛かったところを、那須田に保護されたのだそうだ。
ちなみに、先に到着した加害者の生徒たちは、瑞貴が他の風紀委員と共に、別室へと連れて行った。今頃厳しい聴取が始まっていることだろう。
俺も行こうとしたが、思いきり拒否された。まあ、いつものことだ。
昔から瑞貴は、自分が気に入らない人間に俺が接触するのを、潔癖なまでに嫌がる傾向がある。転校生の時が良い例だ。
そういったわけで自動的に、俺は被害者側の聴取を見守ることとなった。
現場にいた那須田が質問をし、事のあらましを丁寧にほぐそうとするが、上級生で役員の俺が同席しているせいか、緊張混じりのチグハグな回答しか返ってこない。空気を換える必要がありそうだ。
「委員長? どちらへ?」
「すぐに戻る」
瑞貴がいないことを幸いに、久しぶりに給湯室へと足を運ぶ。茶葉やカップのありかが分からず、多少手こずってしまったが、人数分の紅茶をなんとか入れることが出来た。
それらをトレーに載せて戻ってみれば、那須田が疾風のように駆け寄ってきた。トレーをひったくられそうになるも、ギリギリでかわす。
「何をするんだ。せっかくの茶がこぼれるじゃないか」
「あなたにお茶くみなんてさせたら、俺が佐藤に殺されます」
「みんな砂糖は適当に入れてくれ。佐藤と砂糖でややこしいな。那須田もいいから座れ」
固まっている三人の前に茶器を並べ、頭を抱えている那須田の前にもコトリと置いてやる。
俺が紅茶を飲み始めると、目の前の三人も「い、いただきます」と恐縮しながら、口をつけ始めた。那須田も観念したのか、黙ってカップを傾ける。
「横から見ると、那須田もなかなかの男前だな」
ブハッ!
俺の呟きに、那須田だけでなく四人がまとめて紅茶を吹きだした。
「なっ……なに言って……ゲホゲホゲホッ! い、委員長! こんなっ、時にっ、ふざけな、いで、くださっ……ゲホゲホッ!」
「キミたちはこの男と同級生だったな。どうだ? 普段はこんな真面目くさった面構えだが、裏で遊んでいるとか、クラスで噂になったことはないか? 俺は結構なムッツリだと踏んでいるのだが」
「委員長っ!」
「……え、え~っとぉ……、俺たちもその……、あまり詳しくはないですが……、たぶん……結構、も、モテる方だとは思います」
「ふうん? その根拠は?」
「……この間も、隣のクラスの子が、那須田に告白してフラれたって……玉砕したって噂が流れてましたし」
「それはいつ? どんな相手だ?」
「確か三日前……結構可愛いって評判の……」
「委員長! これは一体なんの聴取ですかっ! おまえもペラペラと律儀に答えるな!」
耳を赤くした那須田が、正直者のツル(仮)の言葉をさえぎってしまった。
「なるほど……思っていた通りだ。前から言っていただろう? おまえは絶対同性にモテる。これで裏が取れたな」
「やめてください。全然嬉しくないです」
「よし。早速その素質を伸ばしてみよう。男子校で環境は充分に整っている。生徒会のチャラ会計がなんだ。うちもチャラ風紀で対抗するぞ。とりあえず、あいつのハーレムから子ネコを奪ってこい。それで少しは平和になる。俺の仕事も減る」
「俺の心の平和はどうなるんですか」
げんなりした那須田に、三人ともたまらず笑っている。
良い空気だ。
「余談はこれくらいにして、先程の続きと行こうか。今度は俺からもいくつか質問をさせてもらう。加害者の何人かは、君たちの同級生だ。教室で耳にした噂のひとつやふたつはあるんじゃないかな? どんな些細な事でもいい。彼らの素行について、気になっていたこと、気づいていた点があれば、見たまま聞いたままを今のように話して欲しい」
そこからの聴取は、滞ることなくうまく進めることができた。
被害者三人を帰した後、残りは瑞貴たちに任せて、俺は業務を再開しようとしたのだが……
(……ん?)
父から俺宛に、メッセージが届いている。
聴取の間に、受信していたようだ。
なんだろう?
嫌な予感しかしないが、渋々クリックしてみる。
『愛しい玲
次の土曜日、仕事帰りにそちらへ寄れることになりました。
理事長に挨拶をして、昼過ぎには寮へ遊びに行く予定です。
久しぶりに君を抱きしめられる日を心待ちにしています。
パパより』
次の土曜といえば、鬼ごっこイベントの翌日だ。
散々男どもに追いまわされたあげくに、父に抱擁までされるのか。
しかし、仲直りして早々にこうくるとは……、音信不通だった二年間で、あの人がどれだけ子煩悩をこじらせているのか、いささか不安になってきたぞ。
いろいろと、気疲れする週末になりそうだ。
プリンでも常備しとくか。
そういえば、ツル(仮)の名前を、また聞きそびれてしまった。
まあ。聴取の報告書に記されてくるだろうから、その時に確認すればいい。
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