堕ちた双子

ゆきみまんじゅう

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嘘に嘘を重ねて

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「はぁ…はぁ…。」

電車から降りた後、息を切らしながらもなんとか個室トイレにたどり着いた。

あれからしばらく経つというのに、未だにものが収まる気配はない。

「なんとか…、しないと…。」

一番効果的なのは、自分で慰めることはわかっているが、そんなことは絶対にしたくない。

なので俺は強硬手段として、太腿を思い切りつねった。
その痛みによって、無理矢理にでも抑えようと試みる。

だが先程までの淫らな行為が、俺の脳裏をよぎり、一向に収まる気配がない。

ならばと思い、俺はさらに、右手の甲を噛んだ。

すると次第に、ものが収まっていき、ようやく一安心した。

「今、何時だろ…。」

気になって確認してみると、あと15分ほどで9時になる頃だった。

急がないとこのままでは遅刻してしまう。

俺は重い腰を上げると、走って学校に向かった。



学校に着くと、あと少しで授業が始まるところだった。
先生には嫌な顔をされたが、そんなことを気にするほどの余裕はなかった。

その後は、今朝の事を思い出さないよう、必死にノートを取ったり、問題を解きまくった。

そうやってなんとか無事に午前の授業が終わり、昼食の時間になった。

すると秋山が、一緒に弁当を食べようと誘ってきた。
俺はそれを喜んで聞き入れた。
1人でいると、あの事ばかりを考えてしまいそうだったからだ。

早速俺たちは机を合わせると、弁当を開いた。

「ん?今日のおかずは、夕食の残りか何かか?」

まさか秋山に勘付かれるとは思わず、俺は言葉を詰まらせてしまう。

確かに昨日は、弁当のおかずを作る気になれず、夕食の野菜炒めを詰め込むことにした。

いつもの俺なら、そんなズボラなことはしないと、秋山はわかっているのだろう。
だから、疑問に思っているに違いなかった。

「昨日、何かあったのか?ずっと様子がおかしいようだが。」

まさか正直に答えるわけにもいかず、俺は必死に考えを巡らせた。

「えーっと、その、最近兄さんの体調が悪いんだ。」

適当な嘘が思いつかなった俺は、今のありのままの状態を伝えた。
実際のところ、今朝無理矢理抑えこんだため、本当に調子が良くなかったのだ。

それを聞いた秋山は、心配そうな表情を浮かべた。

「だからさ、しばらくの間、早く帰って兄さんを看病してあげたいんた。」

なので俺は、都合の良いような嘘をついた。
そう言う事にしておけば、遊びに誘われることもなく、下校できると思ったからだ。

早く帰りたい理由は、もちろんアルバイトがあるためだ。

前ならこんな嘘を言わなくても、用事があると言えばよかった。
だが毎日となれば、流石に怪しまれるだろう。

なにかと規律に厳しい純のことだ。
もし俺と海斗が入れ替わっていると知ったら、先生に言いつけるかもしれない。

そうなってしまえば、もう海斗の身代わりができなくなってしまう。
それだけは何としても避けたかったのだ。

「そうだったのか。それは心配だな。早く良くなるといいな。」
「うん……。」

罪悪感を抱いた俺は、秋山に目を合わせることが出来ず、下を向いたまま頷いた。



アルバイトが終わり家に帰ると、やはり海斗が飛んでやってきた。

「兄さん、どうかしたの?元気なさそうだね。」
「まあ、ちょっとバイトでヘマしただけだ。」

本当は電車での出来事と、嘘をついている罪悪感から気が沈んでいるのだが、そんなことは口が裂けても言えない。

「それにさ、痴漢の件で少し残念な話があるんだ。」

少し残念な話というのは、当然作り話だ。

「今日、やっと痴漢野郎を捕まえたんだ。それはいいんだが、問題はそこじゃない。実は俺が痴漢されているところを目視している男が何人もいたんだ。だが全部、俺を助けるわけでもなく、ただいやらしい目つきで見ていた。つまりあの電車には、痴漢候補が何人もいたんだ。」

自分でもとんでもないことを言っていると思ったが、どうやら海斗は疑ってはいない様子だった。

「だからしばらくの間、そいつらが痴漢しようものなら、片っ端から捕まえるつもりだ。」
「えっ?それじゃあ、これからも電車に乗るの?」

俺は不安がる海斗の両肩を掴み、体を引き寄せた。

「俺は、海斗が傷つけられる事だけは、絶対に嫌なんだ。だから海斗のためなら、なんだってやってやるさ。」

そう言うと海斗は体を震わせ、涙を流した。

「そんなに、僕の事を、大切に思っていてくれたの?」
「当たり前だろ。俺にとって、海斗は世界で一番、大切な存在だ。」

今までこんな恥ずかしい言葉なんて、口に出したことはない。
そしてこれからも伝えるつもりもなかった。
それでもそれを口に出したのは、これ以上嘘をつきたくなかったからだった。

俺は泣きじゃくる海斗を胸に引き寄せると、彼が落ち着くまで抱きしめた。
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