8 / 70
兄
嘘に嘘を重ねて
しおりを挟む
「はぁ…はぁ…。」
電車から降りた後、息を切らしながらもなんとか個室トイレにたどり着いた。
あれからしばらく経つというのに、未だにものが収まる気配はない。
「なんとか…、しないと…。」
一番効果的なのは、自分で慰めることはわかっているが、そんなことは絶対にしたくない。
なので俺は強硬手段として、太腿を思い切りつねった。
その痛みによって、無理矢理にでも抑えようと試みる。
だが先程までの淫らな行為が、俺の脳裏をよぎり、一向に収まる気配がない。
ならばと思い、俺はさらに、右手の甲を噛んだ。
すると次第に、ものが収まっていき、ようやく一安心した。
「今、何時だろ…。」
気になって確認してみると、あと15分ほどで9時になる頃だった。
急がないとこのままでは遅刻してしまう。
俺は重い腰を上げると、走って学校に向かった。
学校に着くと、あと少しで授業が始まるところだった。
先生には嫌な顔をされたが、そんなことを気にするほどの余裕はなかった。
その後は、今朝の事を思い出さないよう、必死にノートを取ったり、問題を解きまくった。
そうやってなんとか無事に午前の授業が終わり、昼食の時間になった。
すると秋山が、一緒に弁当を食べようと誘ってきた。
俺はそれを喜んで聞き入れた。
1人でいると、あの事ばかりを考えてしまいそうだったからだ。
早速俺たちは机を合わせると、弁当を開いた。
「ん?今日のおかずは、夕食の残りか何かか?」
まさか秋山に勘付かれるとは思わず、俺は言葉を詰まらせてしまう。
確かに昨日は、弁当のおかずを作る気になれず、夕食の野菜炒めを詰め込むことにした。
いつもの俺なら、そんなズボラなことはしないと、秋山はわかっているのだろう。
だから、疑問に思っているに違いなかった。
「昨日、何かあったのか?ずっと様子がおかしいようだが。」
まさか正直に答えるわけにもいかず、俺は必死に考えを巡らせた。
「えーっと、その、最近兄さんの体調が悪いんだ。」
適当な嘘が思いつかなった俺は、今のありのままの状態を伝えた。
実際のところ、今朝無理矢理抑えこんだため、本当に調子が良くなかったのだ。
それを聞いた秋山は、心配そうな表情を浮かべた。
「だからさ、しばらくの間、早く帰って兄さんを看病してあげたいんた。」
なので俺は、都合の良いような嘘をついた。
そう言う事にしておけば、遊びに誘われることもなく、下校できると思ったからだ。
早く帰りたい理由は、もちろんアルバイトがあるためだ。
前ならこんな嘘を言わなくても、用事があると言えばよかった。
だが毎日となれば、流石に怪しまれるだろう。
なにかと規律に厳しい純のことだ。
もし俺と海斗が入れ替わっていると知ったら、先生に言いつけるかもしれない。
そうなってしまえば、もう海斗の身代わりができなくなってしまう。
それだけは何としても避けたかったのだ。
「そうだったのか。それは心配だな。早く良くなるといいな。」
「うん……。」
罪悪感を抱いた俺は、秋山に目を合わせることが出来ず、下を向いたまま頷いた。
アルバイトが終わり家に帰ると、やはり海斗が飛んでやってきた。
「兄さん、どうかしたの?元気なさそうだね。」
「まあ、ちょっとバイトでヘマしただけだ。」
本当は電車での出来事と、嘘をついている罪悪感から気が沈んでいるのだが、そんなことは口が裂けても言えない。
「それにさ、痴漢の件で少し残念な話があるんだ。」
少し残念な話というのは、当然作り話だ。
「今日、やっと痴漢野郎を捕まえたんだ。それはいいんだが、問題はそこじゃない。実は俺が痴漢されているところを目視している男が何人もいたんだ。だが全部、俺を助けるわけでもなく、ただいやらしい目つきで見ていた。つまりあの電車には、痴漢候補が何人もいたんだ。」
自分でもとんでもないことを言っていると思ったが、どうやら海斗は疑ってはいない様子だった。
「だからしばらくの間、そいつらが痴漢しようものなら、片っ端から捕まえるつもりだ。」
「えっ?それじゃあ、これからも電車に乗るの?」
俺は不安がる海斗の両肩を掴み、体を引き寄せた。
「俺は、海斗が傷つけられる事だけは、絶対に嫌なんだ。だから海斗のためなら、なんだってやってやるさ。」
そう言うと海斗は体を震わせ、涙を流した。
「そんなに、僕の事を、大切に思っていてくれたの?」
「当たり前だろ。俺にとって、海斗は世界で一番、大切な存在だ。」
今までこんな恥ずかしい言葉なんて、口に出したことはない。
そしてこれからも伝えるつもりもなかった。
それでもそれを口に出したのは、これ以上嘘をつきたくなかったからだった。
俺は泣きじゃくる海斗を胸に引き寄せると、彼が落ち着くまで抱きしめた。
電車から降りた後、息を切らしながらもなんとか個室トイレにたどり着いた。
あれからしばらく経つというのに、未だにものが収まる気配はない。
「なんとか…、しないと…。」
一番効果的なのは、自分で慰めることはわかっているが、そんなことは絶対にしたくない。
なので俺は強硬手段として、太腿を思い切りつねった。
その痛みによって、無理矢理にでも抑えようと試みる。
だが先程までの淫らな行為が、俺の脳裏をよぎり、一向に収まる気配がない。
ならばと思い、俺はさらに、右手の甲を噛んだ。
すると次第に、ものが収まっていき、ようやく一安心した。
「今、何時だろ…。」
気になって確認してみると、あと15分ほどで9時になる頃だった。
急がないとこのままでは遅刻してしまう。
俺は重い腰を上げると、走って学校に向かった。
学校に着くと、あと少しで授業が始まるところだった。
先生には嫌な顔をされたが、そんなことを気にするほどの余裕はなかった。
その後は、今朝の事を思い出さないよう、必死にノートを取ったり、問題を解きまくった。
そうやってなんとか無事に午前の授業が終わり、昼食の時間になった。
すると秋山が、一緒に弁当を食べようと誘ってきた。
俺はそれを喜んで聞き入れた。
1人でいると、あの事ばかりを考えてしまいそうだったからだ。
早速俺たちは机を合わせると、弁当を開いた。
「ん?今日のおかずは、夕食の残りか何かか?」
まさか秋山に勘付かれるとは思わず、俺は言葉を詰まらせてしまう。
確かに昨日は、弁当のおかずを作る気になれず、夕食の野菜炒めを詰め込むことにした。
いつもの俺なら、そんなズボラなことはしないと、秋山はわかっているのだろう。
だから、疑問に思っているに違いなかった。
「昨日、何かあったのか?ずっと様子がおかしいようだが。」
まさか正直に答えるわけにもいかず、俺は必死に考えを巡らせた。
「えーっと、その、最近兄さんの体調が悪いんだ。」
適当な嘘が思いつかなった俺は、今のありのままの状態を伝えた。
実際のところ、今朝無理矢理抑えこんだため、本当に調子が良くなかったのだ。
それを聞いた秋山は、心配そうな表情を浮かべた。
「だからさ、しばらくの間、早く帰って兄さんを看病してあげたいんた。」
なので俺は、都合の良いような嘘をついた。
そう言う事にしておけば、遊びに誘われることもなく、下校できると思ったからだ。
早く帰りたい理由は、もちろんアルバイトがあるためだ。
前ならこんな嘘を言わなくても、用事があると言えばよかった。
だが毎日となれば、流石に怪しまれるだろう。
なにかと規律に厳しい純のことだ。
もし俺と海斗が入れ替わっていると知ったら、先生に言いつけるかもしれない。
そうなってしまえば、もう海斗の身代わりができなくなってしまう。
それだけは何としても避けたかったのだ。
「そうだったのか。それは心配だな。早く良くなるといいな。」
「うん……。」
罪悪感を抱いた俺は、秋山に目を合わせることが出来ず、下を向いたまま頷いた。
アルバイトが終わり家に帰ると、やはり海斗が飛んでやってきた。
「兄さん、どうかしたの?元気なさそうだね。」
「まあ、ちょっとバイトでヘマしただけだ。」
本当は電車での出来事と、嘘をついている罪悪感から気が沈んでいるのだが、そんなことは口が裂けても言えない。
「それにさ、痴漢の件で少し残念な話があるんだ。」
少し残念な話というのは、当然作り話だ。
「今日、やっと痴漢野郎を捕まえたんだ。それはいいんだが、問題はそこじゃない。実は俺が痴漢されているところを目視している男が何人もいたんだ。だが全部、俺を助けるわけでもなく、ただいやらしい目つきで見ていた。つまりあの電車には、痴漢候補が何人もいたんだ。」
自分でもとんでもないことを言っていると思ったが、どうやら海斗は疑ってはいない様子だった。
「だからしばらくの間、そいつらが痴漢しようものなら、片っ端から捕まえるつもりだ。」
「えっ?それじゃあ、これからも電車に乗るの?」
俺は不安がる海斗の両肩を掴み、体を引き寄せた。
「俺は、海斗が傷つけられる事だけは、絶対に嫌なんだ。だから海斗のためなら、なんだってやってやるさ。」
そう言うと海斗は体を震わせ、涙を流した。
「そんなに、僕の事を、大切に思っていてくれたの?」
「当たり前だろ。俺にとって、海斗は世界で一番、大切な存在だ。」
今までこんな恥ずかしい言葉なんて、口に出したことはない。
そしてこれからも伝えるつもりもなかった。
それでもそれを口に出したのは、これ以上嘘をつきたくなかったからだった。
俺は泣きじゃくる海斗を胸に引き寄せると、彼が落ち着くまで抱きしめた。
0
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
羽田家の日常
瀬界
BL
ちょっとぶっ飛んだものを書きたくなったので、エロ多めな上になんだそれなお話です。苦手な人は回れ右推奨。
BL/近親相姦/父×息子/兄×弟 です。
【概要】
羽田家。
父 雅臣(まさおみ) 35歳。IT社長、185センチ、筋肉質。
長男 玲(れい)16歳。高校2生、176センチ、文武両道。
次男 勇(ゆう)8歳。小学3年生、128センチ、天然。
ぼくのお家は、おっきくて優しいパパと頭が良くてなんでも教えてくれるお兄ちゃんの3人家族です。生まれた時からママはいないけど、優しいパパとお兄ちゃんがたくさんかまってくれるので、毎日たのしいです。
ぼくの家にはたくさんのルールがあるけど、これはぼくを守るためで家族みんなが仲良しのためのひけつ?なんだって!
自分たちだけのとくべつだから、みんなにはしーなんだって、パパとお兄ちゃんが教えてくれました!
ぼくはいいこなので約束は守れます!!
シングルパパの羽田家のえっちな日常をお送りします。
普通に家族がいちゃいちゃしてる常識はずれな家庭です。
誤字脱字、リクエストなどありましたら気軽にお声掛けよろしくお願いします。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
【R18】歪んだ家族の幸せ
如月 永
BL
ホモでメスガキの僕は、エッチな事が好きだった。
母さんがいなくなった家で、寂しいお兄ちゃんとお父さんは僕をメスとして愛してくれた。
セックスすると気持ち良いし寂しくなくて幸せなんだ。
<説明&注意点>
父×息子。兄×弟。3P。近親相姦。ショタ。ストーリー性0。エロ中心。
メスガキ感はあんまり出せてないかも。
一話2000文字くらい。続きの更新未定。
<キャラクター覚え書>
●お父さん(※名前未定):
会社員。妻に逃げられ、仕事に熱中して気を紛らわせたが、ある日気持ちがぽっきり折れて息子を犯す。
●和雅(かずまさ):
兄。高校生。スポーツをしている。両親に愛を与えてもらえなくなり、弟に依存。弟の色気に負けて弟の初めてを奪う。
●昂紀(こうき):
弟。僕。小学○年生。ホモでメスガキな自覚あり。父と兄とするセックスはスキンシップの延長で、禁忌感は感じていない。セックスは知識より先に身体で覚えてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる