上 下
72 / 91
メンヘラストーカー編

6話

しおりを挟む
 デートに行ってハムスターを買ってきたこともあった。ヘラ君は「頭から噛んでやると暴れて面白いんですよ」
 意味が分からない。
「ムツゴロウさんみたいに、ここをこうやるんですね! とか言いながら噛み付くんですよ」
「いやいや何で噛みつくんだ」
「ハムスターが暴れるんですよ、なんでですかね?」
「暴れるに決まってるやろ」
 とにかく意味がわからない。ネット動画でネズミなどの駆除動画を見て小動物が嫌がってる姿を見て楽しむのが趣味らしい。女の子と別れてしばらくすると山で捨ててしまったそうだ。
「今頃、野生に帰ってますよ」
「まず食べられてるか飢え死にだわ」

 食わず嫌いで未知の物は避けたがる。なのに欲望のスイッチが入ると警戒心は消えて、絶対うまくいく「はず」と願望と現実の区別がつかなくなる。

 絶対止まらなきゃいけない状況で止まらない。止まらなくていいところで慎重になる。 

 出会い系彼女とのトラブルは三回。高速道路に乗ってる時にダッシュボードに片足を乗せて運転する子がいたとか。ヘラ君の虚言でなければサーカスみたいなもんだな。

 3回目。パパ活女子に入れ込んで浮気されたと大騒ぎした。職場で泡吹いてぶっ倒れた。
見え見えの地雷に突っ込むなと何度言ったかわかんない。

 そのパパ活女子ヘラちゃん。
 アル中の父親の面倒を見る為に色々と歪んだ私生活をしていた。出会い系で色んな男達に援助してもらって、心の隙間を埋めてもらったり。薬を自主的に辞めてしまう医療嫌いなメンヘラさんだった。
 少し猟奇的で破滅願望がある子だった。睡眠薬のオーバードーズ(過剰摂取)しちゃう子だった。切腹未遂で血だらけになったり。42°cの熱が出ているのに「45°cになったら病院に行く」と言い出したり。
 深夜にトラブルが起こってヘラくんから助けてくださいと呼び出されたこともあった。

 ヘラ君は何度か車を持っていた。ヘラ君も彼女がいる時だけは俺に連絡をしてこなくなった。そんなヘラくんとヘラちゃんの楽しいドライブ!
 走行中喧嘩をしてヘラちゃんが助手席から飛び出したというのだ。時速40 キロ まで落としたが後輪でヘラちゃんの足首をひいてしまった。
 救急車と警察を呼ぶことになった、という。 

 別れる、別れないと言っていた時、ヘラ君は指定の住所に行ってほしいと俺をタクシー代わりにした。なんとヘラちゃんの部屋に明かりがついているかどうか確認に行ったのだ。全く意味が分からない。気持ち悪い。
しおりを挟む

処理中です...