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2章 幼少期編 II

57.研究院 6

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研究院の立派な建物の裏手には『研究室棟』と呼ばれる実技実験施設がある。
本院の2階だけにある渡り廊下で繋がっているらしい。
今そこに向か合って階段棟を上っているわけだが、ヨイショ、ここもやたらと天井が高いので、ヨイショ、大変である。

研究室棟に続く渡り廊下は、誰でも通れるわけではない。
研究によっては危険であるし、秘匿されているものもあるとかないとかで、身元検めが必要になるのだ。

──渡り廊下に到着した。

本院側に警備員の詰め所があって、問題がなければ室棟側に合図が送られる手筈になっているようだ。ここからは既に開けられている鉄格子が見える。

私たちの来訪は先触られているし、事務官と玄関から随行してくれている警備員も一緒だから、当然素通りである。だけど通った後にガションと鉄格子を閉められると、檻に入れられたみたいで妙な気分になった………猛獣だぞ、ガオーッ…とふざけたら警備員さんは笑ってくれたけど他は無反応。ノリが悪いね。
「ば~か」とベール兄さまに言われながら手を引かれて鉄格子から離れつつ、警備員さんに手を振ったら振り返してくれた。いい人だ。覚えておこう。


研究室棟はというと、飾り気のない白い廊下が私たちを待ち構えていた。
四角い窓、四角い壁、四角い扉。前世のオフィスビルのような無機質感───でも活気があった。煩いともいう。廊下を歩いている院生は少ないのに、あちこちの部屋からガンガン、ゴンゴン、甲高い雄叫び、泣き声まで………扉が開けっ放しになっているので全部丸聞こえだ。

先導していた警備員が慌てて進行先の扉を閉めていく。

するとピタリと騒音は止まった。防音対策は万全のようだ。

「………」

静かになった……と思ったら、急に院生の姿も見えなくなった。

シン、と静まった廊下。

私たちの足音だけが反響している。

片側が全部窓なのに、本院が陽の光を遮り、薄暗く感じた。

そして、人気のない廊下の先──…


「柱の陰からゾンビが……」

「でそう、でそう」


私たちにしかわからない笑いが洩れ………ズダン!!

びくっ。

ドドドォォォーーーーーン!(ドルビーサラウンドで放送しております)

遠くの方で巨大な何かが倒れたね。

ビビビビィィーーン……

振動が体に伝わってきた。
ベール兄さまが警戒して、繋いでいた私の手をキュッと握る。

でも誰も騒いでいないから、いつものことらしい。

「1日の平均死傷者数は?」

アルベール兄さまがブラックなジョークを飛ばした。

「ははは、軽傷3人というところでしょうか。重傷者は年に何人か。今のところ死亡者は出ていませんね」

事務官は軽く言ったが、毎日3人も怪我人が出るのか。
安全対策はどうなっているのかね?(メガネをしていればここでクイッとする場面)私は危険な場所には行きませんよ。そんなところにアルベール兄さまは連れて行かないでしょうけどね。

あ、騎乗してた騎士たちが先に着いちゃってる。
呑気に『薄すぎる、濃すぎる、固すぎる、崩れすぎる』しててゴメンね。

「遅くなったな」

アルベール兄さまの、こういう澄ました声掛けがカッコいいのよ。

そして、敬礼する騎士たちの前を一瞥しただけで足を止めずに進むのです。

先の扉前にも騎士が立っていて、これまた程よいタイミングで扉を開けてくれる。

ちらっと見えた部屋の表示は『アルベール商会・開発研究室』…もうガチで院生を抱え込んでるね。

で、ここで警備員さんたちはお役御免らしく、無言で頭を下げて私たちは見送られた。

──…アルベール王子は軽く頷くだけで、止まらずに進みます。

廊下には2名の騎士を残して扉が閉じられる。

──…歩みはまだ止まりませんよ。

専属の研究室に入ってすぐは、受付と待合小間だ。
立つのは敬礼する2名の騎士。

──…それにもだた軽く頷くだけで素通りする。

待合小間から左右に分かれる廊下の左手に進む。
2番目の扉前に騎士が立っているから次はそこ。

──…無言で通ります。

分室表示は『設計・試作』

中はまたもや待合小間。
先発していたらしき侍従侍女が待機していた。




───…背後で静かに扉が閉められる。




どうよ、この一連の流れ!

渡り廊下からここまでノンストップですよ!

素敵でしょ? シビレるでしょ?



私はこれを『王子さまウォーク』と呼んでいる!



「シュシューア、御用室に行ってきなさい。ベール、私たちも行くぞ」


んもう。せっかく萌えてたのに。切り替えの早い王子さまなんだから~。






………続く
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