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1章 幼少期編 I

20.マヨが主役

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今日試食するお芋は二種類あって、どちらも丸いジャガイモ系であった。
里芋は今回もない……残念。

「昨日のじゃがバターと同じ食べ方でいいんだね。それではいただこうか……万物に感謝を」

この場で一番身分の高いルベール兄さまが音頭をとる。
万物に感謝を。いっただきまーす。


「ほっ、はふっ、旨っ、旨っ」

ベール兄さまの反応が一番早い。そしていい旨顔。

「バターもそうだったけど、マヨネーズも何にでも合いそうだね」

ルベール兄さま……昨日のミネバ副会長と同じこと言ってますね。

「……ほぅ」

シブメン……ほぅ、じゃわかりません。

「ゼルドラまどうしちょう、どうですか?」

「芋とは旨いものだったのですな。シチューにいれて煮崩れたら良い風味がでそうだ。この調味料も料理の幅を広げることになりそうです」

そうなのです。マヨネーズは何でもありなのです。なにしろマヨラーという種族がいたほどですから。

「チギラりょうりにん。もうひとつの……それをパンのうえに、のせてください。もっとたっぷり……はい、そのくらいです。では、みなさま、これは手でもって、たべるのが、さほうです。どうぞ」

今日は手を使って食べるのでお手拭きも用意した。

メニューは『じゃがマヨ』だけではなく、『マヨたま』との二段構え。

──…さぁ、どうだ?

「これっ! これが一番旨いぞ! これは何だ!?」

ベール兄さま、ここ最近の一番輝いたお顔ですが、マヨたまの欠片が口端についています。可愛いですが。

「『マヨたま』といいます。パンにのせたあとに、もういちどやいたものも、おすすめです」

「うん、美味しいね……卵に卵の調味料か……面白い」

ルベール兄さまからも高評価をいただけた。
でも、今日もお芋が霞んでしまったかな。

「……わかりました」

何がわかったんですか? 唐突なシブメンですね。

「ゾウゴウ菌を除去させる魔導具を作りましょう」

わぁ、そこで魔道具に思考がいっちゃうんだ。さすが魔導士。

「マヨネーズを使った料理をまた作っていただきたい。しかも、他にも生卵を使った料理がありますね?」

睨まれちゃったよ……あ、これは期待されている目か。

「マヨネーズの調理法と、その魔導具を合わせて販売……」

ルベール兄さま、その話はアルベール兄さまへどうぞ。


……でも、魔導具を買えない人は殺菌しないで作っちゃいそうな予感がする。
食中毒を起こされて、罪のないマヨネーズが風評被害を受けるのは嫌だ。

そうすると、一般に広めるなら豆乳マヨネーズの方がいいかもしれない。
大豆が見つかればの話だけど。見つかってほしいな。醤油と味噌も作りたい。

「まめでつくるマヨネーズもあります。こんど、ししょくしてください。でも、ゾウゴウ菌をなくすまどうぐは、あったらうれしいです。ゼルドラまどうしちょうが、むりせずつれるのでしたら、おねがいします。えと、それと、なまのおさかなの菌も、なくなるようになると、うれしいなぁ、なんて……」

お刺身が食べたいのだ。
試したことはないけど、塩でもたぶんイケるのだ。

「シュシュ、生の魚なんてどうするの? 生のまま食べるの? 違うよね?」

ルベール兄さまの笑顔は盛大に引きつっている。

うふふ、お寿司も食べたいのです。

「生魚は王女殿下だけが食べることになりそうですので、私が直接鑑定いたしましょう。では、魔導具の作成に取り掛かります。中座する失礼をお許しください」

立っ。早っ。

「魔導士長! 先に冷凍庫をよろしくな! シャーベットが待ってるぞ!」

念を押すベール兄さまは笑顔だけど、目が真剣で可愛い。

「そうでしたな。シャーベット………………氷菓子も楽しみだ」

去り際の最後の呟きはひとりごと。
シブメンもあっちに往っちゃうタイプの人のようだ……仲間かもしれない。



本日の試食会も美味しく終了した。

卵の白身を焼いたものをすっかり忘れていたので、ランド職人長とチギラ料理人に、マヨたまパンにあわせて食べてもらった。

アルベール兄さまとミネバ副会長の分は、冷めた芋とマヨネーズでは可哀想なので、マヨたまの方を用意することになった。

チギラ料理人が作ったのは、薄めに焼いたパンでマヨたまを軽く巻いたタコスのような、ブリトーのような……軽食として食べやすい形で取り置きされた。

水鉢の青菜を刻んで入れていたな。あれは絶対パセリだ。今度食べさせてもらおう。



☆…☆…☆…☆…☆



チギラ料理人による『食べやすいように』というこの気遣いは、後に『チギラ巻き』として王都平民層へ販売されることになる。

品種改良後の芋……改め、新野菜『ジャガ』の一般の普及にも一役買った。

賽の目に切ったジャガとベーコンと数種の野菜を炒め、挟んだものが『早い・安い・旨い』の三拍子で、平民の間で昼食の定番となったのだ。

ジャーマンポテト・ティストーム風味……美味しいものは異世界でも美味しいのである。

続々と新しい具味が増えて、チギラ巻き専門の露店があちこちに出る頃には、昼食だけではなく、仕事前の朝食に立ち食いする姿も多く見られようになった。

この立ち食いに貢献したのが、何をかくそう藁紙である。

手が汚れないように、汚れた手でも食べられるように、チギラ巻きに巻かれた藁紙は大活躍したのだ。

なにしろ藁紙は安価である。
品質を無視するのであれば、こうやって包むための紙として大いに活用できた。

そして、食べ終えた後に残った藁紙は決して捨てられることはない。

平民にとっては、油染みがあろうが、皺があろうが、紙は紙。
立派な筆記用紙として再利用された。


こうして、ジャガと藁紙は、王都を超えて広くティストーム全体に浸透していったのである。


同時にこれを手掛けたアルベール商会の名も、高位層から新たに平民層にも認知されていったのだった。


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