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1章 幼少期編 I
21-1.薬用甘液
しおりを挟む家畜甘液……もとい、薬用甘液での交渉は見事成功し、アルベール商会は薬草課の全面協力を得られることとなった。
特急のお芋の品種改良は、植物成長魔法が得意なワーナー先生が中心になって進めてくれている。
はじめる前に、研究チームには改良前のジャガ系とサツマ系両方を強制的に試食してもらったそうだが、さて、覚悟を決めた彼らの顔の歪みは如何ほどであったのか。
意地悪くも想像してほくそ笑んでしまったが、立ち会ったルベール兄さまの「なかなか美味しかったよ」と言う経験談と、最初からバターが使われたという事で、口に入れたとたん顔色がパッと明るくなったのだと、盛り上がらない報告を聞かされた。
まぁ、美味しいは正義で、人の心をつかむのである。
おかげで研究チームの士気が上がったという事なので出だしは良好。
だが……面白くない。
私はまだ、お芋の食初にお呼ばれされなかったことに対して、へそを曲げ続けている。
……半時は曲げ続けるつもりだ。
さぁ、お姫さまのご機嫌を取るがよい!
☆…☆…☆…☆…☆
お芋の品種改良と並行して、水飴作りも進められた。
頑張ったのはチギラ料理人だ。
毎日毎日、離宮と魔導部薬草課を行ったり来たり。
私と付添人もほとんど彼と行動を共にし、チギラ料理人による薬草課への美味しい差し入れを追い続けた。
ベール兄さまもおやつを狙ってよく薬草課に顔を出した。
水飴の完成に立ち会いたいシブメンも本を片手に居座った……薬草課の面々は魔導部トップの存在に、少しだけ迷惑そうにしていた。
さて、水飴はまず『乾燥麦芽』作りからはじまります。
大麦か小麦を3日ほど水に漬けたら、濡らした布に挟んで22~25度で保存します。
薬草課の保温魔導具が大活躍するのはここです。
安定した温度の中で10日弱ほどかければ「もやし」として成長します。
そのもやしをカラカラに乾燥させて、叩いて、潰して、擦って、はい『乾燥麦芽』の完成です。
乾燥麦芽が水飴作りの胆なので、これがあればもう大丈夫。いつでもどこでも水飴を作る事が出来るようになりました。
私が知る水飴の作り方には3パターンあります。
玄米と乾燥麦芽の水飴。
サツマイモと乾燥麦芽の水飴。
サツマイモだけで作る水飴……です。
乾燥麦芽を使うタイプは、粥状にして粗熱を取り、そこに乾燥麦芽を加えて1日放置。その後、布で漉した液を煮込んで水分を飛ばせば、茶色い水飴になる。
サツマイモだけで作る場合も粥状にし、70度前後で7時間ほど保温して糖化させた後、漉し液を煮て水分を飛ばせば、同じく茶色い水飴が出来る。
しかしこれは保温器具を長時間使うことになるので没案となった。
水飴の製法の特許は国の物となっているので、今後は薬草課が中心となって作っていくことになる。
離宮で使われる分は試作扱いなので特許使用料は発生しないが、アルベール商会が商品化……云々は興味が無い。離宮で水飴を食べさせてくれるならどうでもいいです。
水飴づくりのこれまでは、多少の不都合はチギラ料理人と研究員たちが調整していたので、実のところ私の出番などまったくなかった。
私が薬草課でやったことと言えば、魔法を見せてもらったり、図鑑を見せてもらったり、薬草課の人たちが休憩がてらに遊んでくれたり、薬草をごりごりさせてもらったり、毎日が楽しくて水飴の事など味見と称して食べさせてもらっている時しか思い出せていなかった。
しかし図鑑と戯れている過程で妹が気になるものを、ルベール兄さまは記録に残していてくれていた。
夢中になると『欲しい』『役に立つ』など、何も報告しない妹の行動をしっかり見極めていたらしい。
そんな優秀な兄のおかげで、ある日突然それが届いたりするのである。
たまらず小躍りするのは大目に見てもらいたい。
そのうちのいくつかは離宮の畑で育成中だ。
先日は知らない果物がどっさりと届けられて、狂喜乱舞してしまった。
さすがにルベール兄さまに顔をムニムニされながら叱られたけれど、その後も制御できはしなかった。
美味しい物に関わると踊る体質に生まれついてしまったようだ。
前世の自分はそんなことなかっ………カラオケルームで歌って踊った、酔っ払い女の記憶が……
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