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第九章 恋に先立つ失恋
第一話 青一点
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六月十五日・日曜日の昼のことである。
高台を下った処にある喫茶店で、梨恵と一冴は昼食を摂っていた。
窓辺の席で食事を摂る二人の姿は少女同士にしか見えない。しかし、お互いが違う性であることを二人だけが知っている。
周囲に聞こえないよう、男の声を一冴はだす。
「それにしても疲れてきた――人前じゃずっと裏声出してるし、部屋にだって監視カメラはあるし、バレてない演技しなきゃならないし。」
「ほんになー。」
梨恵は苦笑する。
「そんにしても、理事長先生も酔狂なことしんさるな――いくら似合っとっても、女子校に入れるなんて普通せんだら? 部屋だって、ほんとは菊花ちゃんとなるはずだったにぃ。」
「うん。」
申しわけなさそうに、一冴は目を伏せる。
「ねえ――やっぱり、いいの?」
「――何がぇ?」
「いや――男が同じ部屋にいるって。更衣室やトイレも同じだし――。俺はみんなを騙してるわけじゃん。菊花も最初は気持ち悪がってた。」
「うーん。」
梨恵は考え込んだ。
正直、納得しきれない部分はある。挙句、女子寮にまぎれ込んだこの男のせいで、「気づいていない」演技を梨恵もしなければならなくなった。
「けど――ぶっちゃけ、今さらっていうか――」
一冴へ視線を向ける。
梨恵が教えたサイドテイルの髪――。緋色のリボンも白い花の髪留めも梨恵が買った物だ。言われなければ分からないという程度ではあるが、その顔には確かに少年らしさがある。おまけに今は男の声を出している。それなのに、外見は完全に少女なのだ。
「なんか、もう、完全に女の子って感じだにぃ。」
「ええ、ああ、そう。」
一冴は少し肩を落とす。
「――男として全く見られてないってのもな。」
「まあ、ええが。それだけ似合っとるってことだが。」
「うん。」
落胆しなくてもいいのに――と梨恵は思う。
一目見たときから可愛い子だと思っていた。フリルのついたカットソーや、オフショルや、ブラウスを着せても似合う。髪型をいじるとさらに可愛らしくなる。それこそ――梨恵が羨ましくなるほどに。しかし、そんな少女の格好の向こうに「彼」はいる。
少女しかいない空間に――ただ独りまぎれ込んでいる。
この秘密を知るのは、菊花を除けば梨恵しかいない。
高台を下った処にある喫茶店で、梨恵と一冴は昼食を摂っていた。
窓辺の席で食事を摂る二人の姿は少女同士にしか見えない。しかし、お互いが違う性であることを二人だけが知っている。
周囲に聞こえないよう、男の声を一冴はだす。
「それにしても疲れてきた――人前じゃずっと裏声出してるし、部屋にだって監視カメラはあるし、バレてない演技しなきゃならないし。」
「ほんになー。」
梨恵は苦笑する。
「そんにしても、理事長先生も酔狂なことしんさるな――いくら似合っとっても、女子校に入れるなんて普通せんだら? 部屋だって、ほんとは菊花ちゃんとなるはずだったにぃ。」
「うん。」
申しわけなさそうに、一冴は目を伏せる。
「ねえ――やっぱり、いいの?」
「――何がぇ?」
「いや――男が同じ部屋にいるって。更衣室やトイレも同じだし――。俺はみんなを騙してるわけじゃん。菊花も最初は気持ち悪がってた。」
「うーん。」
梨恵は考え込んだ。
正直、納得しきれない部分はある。挙句、女子寮にまぎれ込んだこの男のせいで、「気づいていない」演技を梨恵もしなければならなくなった。
「けど――ぶっちゃけ、今さらっていうか――」
一冴へ視線を向ける。
梨恵が教えたサイドテイルの髪――。緋色のリボンも白い花の髪留めも梨恵が買った物だ。言われなければ分からないという程度ではあるが、その顔には確かに少年らしさがある。おまけに今は男の声を出している。それなのに、外見は完全に少女なのだ。
「なんか、もう、完全に女の子って感じだにぃ。」
「ええ、ああ、そう。」
一冴は少し肩を落とす。
「――男として全く見られてないってのもな。」
「まあ、ええが。それだけ似合っとるってことだが。」
「うん。」
落胆しなくてもいいのに――と梨恵は思う。
一目見たときから可愛い子だと思っていた。フリルのついたカットソーや、オフショルや、ブラウスを着せても似合う。髪型をいじるとさらに可愛らしくなる。それこそ――梨恵が羨ましくなるほどに。しかし、そんな少女の格好の向こうに「彼」はいる。
少女しかいない空間に――ただ独りまぎれ込んでいる。
この秘密を知るのは、菊花を除けば梨恵しかいない。
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