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第六章 光り輝く犬が降る。
第四話 知ってはいけない。
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一冴が男だと梨恵は全く気づいていなかった。
ただ――些細な違和感は覚えている。
最初に違和感を覚えたのは、いちごの目覚めが早すぎる点だ。梨恵が目を覚ますころ、いちごは必ず制服に着替え終えている。梨恵は朝が苦手だ。それゆえ、同居人のほうが早く目を覚ますことは可怪しくない。しかし、それにしては早すぎないか。
第二に気づいた違和感は、蘭に対する態度であった。
蘭へと向ける眼差しや、蘭について語るときの表情――そこから、いちごが特別な感情を持っていることは察していた。しかし、恋愛感情に近い感情か、恋愛感情そのものかは分からなかった。
何しろ、いちごには片思いの相手がいるのだ。ところが、そんな「彼」は別の少女に片思いしているという。しかも振られたそうだ。
一方、どうも蘭は菊花に恋心を抱いている。
いちごの片恋相手と状況が似ていないか。
そもそも、ほとんど学校から出ず、地元からも離れているのに、中学時代の先輩に恋をし続けられるのだろうか。それは、相手が蘭であることを隠すための方便ではないか。
だから――少し鎌をかけてみたのだ。
――これなら、きっと鈴宮先輩も気に入ってくれるでないかな?
ほんの出来心であったのである。
だが、その効果は覿面に現れてしまった。
別に、同性愛者だからといって差別をするわけではない。しかし、同性愛者同士の三角関係だ――いちごと菊花は友人で、いちごは蘭に好意を向けており、蘭は菊花へと好意を向けている。
――やっぱり多いのかな? 女子校って。
しかし、そのうちまた別の違和感を抱くようになった。
夜――梨恵が眠りにつくか否かというとき、いちごはよくトイレへ行く。それ自体は不自然なことはない。だが、頻繁となると少し気にかかる。
梨恵が寝静まったタイミングを見計らうように、いちごはトイレに起きていないか。
ある日のこと、梨恵は寝るふりをして少し起きてみた。
やはり、いちごは起き上がり、部屋から出ていった。しかも、それから二十分近くも戻らなかったのである。
――どこ行ってたんだろ?
詮索するのは気が咎めた。しかし、気になることに変わりはない。
別の日の夜のことである。
その日も、梨恵は寝たふりをして少し起きていた。梨恵が寝ついたのを見計らったかのように、いちごはベッドから起き上がる。そして、部屋から出ていった。
少し経って、梨恵もまたベッドから起き上がった。
忍び足で、部屋から出る。
尾行などという真似は難しくてできない。とりあえず、少し探してみようと思っただけだ。まずはトイレへと行ってみることとする。そうすれば、万が一だれかに見つかっても、トイレへ行くだけだったと言い訳できる。
そして、トイレへとさしかかった時のことだ。
個室の一つに気這いを感じた。
その中に誰かがいることは明らかであった。
けれども、何か様子が可怪しい。
個室の中から、やや荒い吐息が聞こえた。まるで、何か昂奮するような息だ。加えて、便座がきしむような音、何かのこすれるような音も微かにする。
直観的に梨恵は察した。
これは――恐らくは触れてはいけないことなのだ。
中にいるのがいちごなのかは分からない。しかし、いちごであったとしても、そうでなかったとしても、あまり深く立ち入るべきことではなかろう。
そう思い、梨恵は部屋へと引き返していった。
ただ――些細な違和感は覚えている。
最初に違和感を覚えたのは、いちごの目覚めが早すぎる点だ。梨恵が目を覚ますころ、いちごは必ず制服に着替え終えている。梨恵は朝が苦手だ。それゆえ、同居人のほうが早く目を覚ますことは可怪しくない。しかし、それにしては早すぎないか。
第二に気づいた違和感は、蘭に対する態度であった。
蘭へと向ける眼差しや、蘭について語るときの表情――そこから、いちごが特別な感情を持っていることは察していた。しかし、恋愛感情に近い感情か、恋愛感情そのものかは分からなかった。
何しろ、いちごには片思いの相手がいるのだ。ところが、そんな「彼」は別の少女に片思いしているという。しかも振られたそうだ。
一方、どうも蘭は菊花に恋心を抱いている。
いちごの片恋相手と状況が似ていないか。
そもそも、ほとんど学校から出ず、地元からも離れているのに、中学時代の先輩に恋をし続けられるのだろうか。それは、相手が蘭であることを隠すための方便ではないか。
だから――少し鎌をかけてみたのだ。
――これなら、きっと鈴宮先輩も気に入ってくれるでないかな?
ほんの出来心であったのである。
だが、その効果は覿面に現れてしまった。
別に、同性愛者だからといって差別をするわけではない。しかし、同性愛者同士の三角関係だ――いちごと菊花は友人で、いちごは蘭に好意を向けており、蘭は菊花へと好意を向けている。
――やっぱり多いのかな? 女子校って。
しかし、そのうちまた別の違和感を抱くようになった。
夜――梨恵が眠りにつくか否かというとき、いちごはよくトイレへ行く。それ自体は不自然なことはない。だが、頻繁となると少し気にかかる。
梨恵が寝静まったタイミングを見計らうように、いちごはトイレに起きていないか。
ある日のこと、梨恵は寝るふりをして少し起きてみた。
やはり、いちごは起き上がり、部屋から出ていった。しかも、それから二十分近くも戻らなかったのである。
――どこ行ってたんだろ?
詮索するのは気が咎めた。しかし、気になることに変わりはない。
別の日の夜のことである。
その日も、梨恵は寝たふりをして少し起きていた。梨恵が寝ついたのを見計らったかのように、いちごはベッドから起き上がる。そして、部屋から出ていった。
少し経って、梨恵もまたベッドから起き上がった。
忍び足で、部屋から出る。
尾行などという真似は難しくてできない。とりあえず、少し探してみようと思っただけだ。まずはトイレへと行ってみることとする。そうすれば、万が一だれかに見つかっても、トイレへ行くだけだったと言い訳できる。
そして、トイレへとさしかかった時のことだ。
個室の一つに気這いを感じた。
その中に誰かがいることは明らかであった。
けれども、何か様子が可怪しい。
個室の中から、やや荒い吐息が聞こえた。まるで、何か昂奮するような息だ。加えて、便座がきしむような音、何かのこすれるような音も微かにする。
直観的に梨恵は察した。
これは――恐らくは触れてはいけないことなのだ。
中にいるのがいちごなのかは分からない。しかし、いちごであったとしても、そうでなかったとしても、あまり深く立ち入るべきことではなかろう。
そう思い、梨恵は部屋へと引き返していった。
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