67 / 133
第六章 光り輝く犬が降る。
第三話 寝不足の二人
しおりを挟む
翌日、菊花は酷い寝不足だった。
菊花が絶叫したあと、心配した寮生や朝美が駆けつけてくれた。しかし、そのとき既に蘭はおらず、その傍らで紅子は熟睡していた。
結局、部屋に蘭が忍び込んだことは信じてもらえなかった。夢でも見たのだろうということにされ、朝美からはしかられてしまった。
それから翌朝まで、寝ようとしても目が冴えていたのである。
しかも、一冴が告白した日以来、菊花は弁当を作り続けている。その朝も、弁当を作るために菊花は早く起きた。
結果、ほとんど寝られなかった。
一方――あれだけ熟睡していたというのに、なぜか紅子も眠そうな顔をしていた。そんな顔に、菊花は少し苛つく。
昼休みのことである。
その日もまた、菊花と一冴は校舎裏で弁当を食べた。
本日の弁当はカルビ丼である。しかも松坂牛の霜降り極上カルビだ。一冴に気に入られるべく、金にあかした弁当を菊花は作り続けている。そんな高級食材が使われていると知らない一冴は、菊花はとても料理が上手いのだと思い込んでいた。
一冴の弁当は、菊花の弁当の二倍程度の分量もある。それなのに、菊花が半分も食べないうちに一冴はいつも完食する。
弁当を食べながら、菊花は大きなあくびをした。
「ふあーあ。」
「大丈夫なのか、お前?」
「うーん、大丈夫じゃないかも。もう、眠くて眠くて。」
「自律神経崩れてんじゃない? この季節、俺も睡眠時間が変な感じになるしさ。」
「――うん。」
蘭が忍び込んできたことは、誰に説明しても信じてもらえない。それは一冴も同じだ。弁解することに疲れ、信じてもらうことはあきらめた。
やがて菊花も食事を終える。
そうして、弁当箱を片づけようとしたときだ。
ひとけのない校舎裏に、何者かが現れた。
「あら――菊花ちゃん、いちごさん、こゝにいらっしゃったのですね。」
菊花の顔が引きつる。
しかし、構わず蘭は近づいてきた。
「菊花ちゃん、最近はお弁当を作っていらっしゃるのですね。道理で、学食にお姿を現さなかったわけですわ。――お隣、よろしいでせうか?」
言いつつ、菊花の隣に蘭は坐る。
「あ――あの、あの。」
「菊花ちゃん、お料理がお得意なんですか? できれば、わたくしも菊花ちゃんのお弁当を食べてみたいのですけれども。」
「いえ。」
菊花は急いで弁当箱を片づけ始める。
「あの、私、用があるので――」
そして、校舎裏から立ち去った。
「まあ――菊花ちゃん、そゝっかしいのですね。」
ええ――と一冴はうなづく。
告白などなかったように蘭はふるまっている。
落胆していると、一冴のほほへ蘭の手が触れた。
「いちごさん、ご飯粒がついていらっしゃいますわ。」
一冴のほほについていた飯粒を蘭は手に取り、そっと口に運んだ。
「あ――あの――?」
「菊花ちゃんと同じやうに、いちごさんもそゝっかしいのでせうか?」
一冴は顔を紅くし、うつむく。
一方、蘭は口の中で飯粒をなめ回していた。
――うふゝ、菊花ちゃんの作ったお料理の味♡
菊花が絶叫したあと、心配した寮生や朝美が駆けつけてくれた。しかし、そのとき既に蘭はおらず、その傍らで紅子は熟睡していた。
結局、部屋に蘭が忍び込んだことは信じてもらえなかった。夢でも見たのだろうということにされ、朝美からはしかられてしまった。
それから翌朝まで、寝ようとしても目が冴えていたのである。
しかも、一冴が告白した日以来、菊花は弁当を作り続けている。その朝も、弁当を作るために菊花は早く起きた。
結果、ほとんど寝られなかった。
一方――あれだけ熟睡していたというのに、なぜか紅子も眠そうな顔をしていた。そんな顔に、菊花は少し苛つく。
昼休みのことである。
その日もまた、菊花と一冴は校舎裏で弁当を食べた。
本日の弁当はカルビ丼である。しかも松坂牛の霜降り極上カルビだ。一冴に気に入られるべく、金にあかした弁当を菊花は作り続けている。そんな高級食材が使われていると知らない一冴は、菊花はとても料理が上手いのだと思い込んでいた。
一冴の弁当は、菊花の弁当の二倍程度の分量もある。それなのに、菊花が半分も食べないうちに一冴はいつも完食する。
弁当を食べながら、菊花は大きなあくびをした。
「ふあーあ。」
「大丈夫なのか、お前?」
「うーん、大丈夫じゃないかも。もう、眠くて眠くて。」
「自律神経崩れてんじゃない? この季節、俺も睡眠時間が変な感じになるしさ。」
「――うん。」
蘭が忍び込んできたことは、誰に説明しても信じてもらえない。それは一冴も同じだ。弁解することに疲れ、信じてもらうことはあきらめた。
やがて菊花も食事を終える。
そうして、弁当箱を片づけようとしたときだ。
ひとけのない校舎裏に、何者かが現れた。
「あら――菊花ちゃん、いちごさん、こゝにいらっしゃったのですね。」
菊花の顔が引きつる。
しかし、構わず蘭は近づいてきた。
「菊花ちゃん、最近はお弁当を作っていらっしゃるのですね。道理で、学食にお姿を現さなかったわけですわ。――お隣、よろしいでせうか?」
言いつつ、菊花の隣に蘭は坐る。
「あ――あの、あの。」
「菊花ちゃん、お料理がお得意なんですか? できれば、わたくしも菊花ちゃんのお弁当を食べてみたいのですけれども。」
「いえ。」
菊花は急いで弁当箱を片づけ始める。
「あの、私、用があるので――」
そして、校舎裏から立ち去った。
「まあ――菊花ちゃん、そゝっかしいのですね。」
ええ――と一冴はうなづく。
告白などなかったように蘭はふるまっている。
落胆していると、一冴のほほへ蘭の手が触れた。
「いちごさん、ご飯粒がついていらっしゃいますわ。」
一冴のほほについていた飯粒を蘭は手に取り、そっと口に運んだ。
「あ――あの――?」
「菊花ちゃんと同じやうに、いちごさんもそゝっかしいのでせうか?」
一冴は顔を紅くし、うつむく。
一方、蘭は口の中で飯粒をなめ回していた。
――うふゝ、菊花ちゃんの作ったお料理の味♡
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる