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第四章
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しおりを挟む私の最後の記憶は、間違いなくベットに飛び込んだあのときだ。
確かに寝たはず。
だからこれは夢で間違えないはずなのに…何故か不思議な体験をしているかの様に思える。
「夢だよね……?」
あまりの不思議な感覚に声が漏れてしまう。
『実は……夢なのですが、夢では無いのです』
「んん?」
『夢とは目が覚めれば基本忘れてしまいますよね?』
「はい」
『ですが、今回のこの夢は目覚めても当分忘れないようになっています』
「……便利ですね?」
そんなことをどうしてできるのだろう。
どうやら疑問になるのがわかっていたみたいで、間をおかずすぐに答えが返ってきた。
『実は、死んですぐに不思議な空間で意識を取り戻したのです。そこで神と名乗る方に会いました。私の娘を心配する未練の想いがあまりにも強かったみたいなのです。どうにかして未練をなくなさければ、私は生まれ変われず、一生彷徨うと言われました。私としては、娘の行く末を見れるならそれでも良いと思ったのですが、いつかあの子に死が訪れたとき、私が彷徨ったままではきっと泣かせてしまう。そう思い直しました…。なので、どうにかしてこの未練をなくさなければいけなくなりました。それには、神と名乗る方も少し手伝いをしてくれるというので、今最も娘に近い人に願いを託そうとお願いしました』
「それで私が?……というか、神と名乗る方に好かれてるんですね?」
『私も初めはおかしいと思いました。そこで聞いてみれば、どうやら私の魂は綺麗にしなくてはならないみたいなのです。これはあくまでもあちら側の諸事情らしく、あまり詳しくは聞けませんでした』
「なるほど」
『アイシア様…貴女には迷惑しかかけれません。…突然現れ、面識もないのに頼み事をする無礼をどうかお許しください。……それでも、貴女に娘を救っていただきたいのです。……お願いします…!』
「……」
頼まれることが嫌とか、面識もないから無下にしようとかじゃくて。
私にできることなどあるのだろうか?
そもそも、今の私にはジュゼッペ様がどうなれば救われるのかがわからない。
「……ジュゼッペ様にとっての救いとは何なのでしょうか」
『それは…』
こう聞けば、てっきりサシェル様は言葉を詰まらせると思った。
娘を救いたいなんて、ただ心配し過ぎた感情の延長かと思ってたのだ。
そんな予想は大きく外れた。
『あの子は…まだ本当の自分がわかっていないのです。…本当は、ギャルツ家では一番優秀なのに。周りが歪んでいたせいで…あの子まで歪んでしまいました。…………だからアイシア様。ジュゼッペに気づかせてほしいのです。本当の貴女は凄いということを。…貴族の世界で生きる意味を一緒に見つけてあげてほしい…。本来なら私がやるべきことなのは重々承知です。……だからこそお願いしたいのです』
「……」
サシェル様が本当にジュゼッペ様を思っているのがわかった。
本当にこの人は、ジュゼッペ様の家族なんだなと感じられた。
「……一つ聞いても?」
『もちろん』
「…何故私なのですか?ジュゼッペ様の周りにはヒルユもいるのに」
『ヒルユでは駄目なのです。ジュゼッペと対等な立場の人でなければきっと声は届かない…。同じ公爵令嬢という立場のアイシア様なら少なくとも無下にはできないはずですから。それに…』
「…?」
『貴女のような秀でて、優しさも持つ素晴らしい人なら任せられます』
「え」
『ごめんなさい。神から貴女を進められてから、長らく観察をしていたのです。その…どんな人なのだろうと思って。ですから、貴女の小テストでの殿下からの評価や、普段の振る舞いなどを陰ながら見させてもらって、どういう人なのか…今では勝手に親近感を感じています』
「…………」
あまりの驚きに声を失ってしまった。
めちゃめちゃはずかしいのですけど…。
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