ワルプルギスの夜

まゆり

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 個室のいくつかは既に埋まっていた。空いているところを探して中に入ると、マジックミラーから隣室が丸見えだった。それでも店内に入ってから三十分ほどで、すっかり慣れてしまうところが人間の適応能力の恐ろしいところだ。
「さっきの子、今日相談に来たって、萩原さんから聞いた。仕事変わったから保育所探してるって」
 隣の個室にいるカップルの男のほうと、マジックミラー越しに目が合った。こんなところでただ話しをしているのもおかしい。どこに行っても見られるようにできているんだ。なんだか落ち着かない。
「出来れば、サクラの女の子が店から金をもらっているという証拠が欲しいとこだけど、売春斡旋の証拠がなくても、公然わいせつで摘発はできないことないし、連行して調べれば必ず明るみに出る。今日のところは退散だな」
「じゃあクミちゃんに探りを入れてみたら」「いや、今日のところはこの辺で」
「私は何かあのセイラさんが気になるなあ。雰囲気も水商売っぽくなくて、なんだか食わせ者っぽい。知り合いって誰なのかも気になる。それから、どうやってあちこちから人気嬢を引き抜いてるのかとか。だからヤスさんは、クミちゃんにそれとなく探りを入れる。私はセイラさんと、この店のことよく知ってそうな常連客を探して、嗅ぎまわる」
「チエちゃん済まない。でも無理すんな」
 なぜそんなに事件のことが気にかかるのか、私にもわからない。殺された杉山さんと残されたミリちゃんが不憫だと思う気持ちは確かにあったけど、それだけではなかった。

 バーカウンターに向かう間も、一挙手一足投に視線が絡みつく。クミちゃんと一緒にいた二人の男はもういなくなっていた。出来るだけ顔が見えない位置に座ると、セイラさんを呼んで、二杯目のドリンクを注文した。それから、ここによく来ていて、遊びなれている人を紹介してくれるように、耳打ちをした。
 しばらくすると、私の隣の席に一人の男が移動してきた。ヤスは既にクミちゃんの隣に移動している。歳は私よりちょっと若いくらいだろうか。背が高くて、顔は細面で奥二重の目に眼鏡をかけていて、可もなく不可もない。名前はエイジ。
「ここにはよく来るの?」
「良く来るね、性懲りもなく。今日も来た。チカさんは?」
「私は今日初めてきたの」
「ひとり?」
「ううん。でも連れはあっちの若い子にご執心みたいだから、放っといてる。なんだか、若くて綺麗な子ばっかりで、びっくりしたわ。もっと、男日照りみたいな女がごろごろっての想像してたから」
 誘導尋問をかけてみた。乗ってくれ。
「ああ、あの子達はね、店仕込みの女。一通りやらしてもらったからもういいや」
「道理で。どっから見つけてくるのかしらね」
「風俗でしょ」
 そのくらいわかってる。まさか店の前でスカウトしてるわけじゃないだろう。
「ママって綺麗な人よね。全然水商売っぽくないけど、何してた人か知ってる?」
「セイラちゃんはね、詳しくは教えてくれないけど、元医療関係者。前立腺とか尿道責めもすっごく上手いし、膣鏡クスコとか、お医者さんごっこの道具は豊富に揃ってるよ。使ってみる?」
「遠慮しておくわ」
「そんなことより、チカさんに会えて嬉しいな。今日は来た甲斐があった」
 エイジの顔が近づいてくる。うそっ…やめてってば。しまった、ヤスと別行動にしたのは失敗だった。最後に誰かとキスをしたのは、忘れもしない3年前のあの日のことだ。
「行ってらっしゃい、無理はしないで」
 と言って軽いキスをして、シゲキを送り出した。まさかそれが最後のキスになるなんて思いもしなかった。

 逃げたり、抵抗したら悪目立ちしてしまうと思い、目を閉じた。唇が触れ合い、エイジの舌が捩じ込まれる。舌先で上顎の柔らかいところを擽られ、吐息が漏れる。こんなところで知り合った男とこんなことができて、しかもその先を期待した身体が意志に反して疼き始めている。ジャケットの襟元から指が滑り込んできて、キャミワンピの肩ひもが落とされる。唇が首筋を這いながら鎖骨に降りてくる。
「チカさん、すごく綺麗。店に入ってきたときからいいなと思ってた」
 エイジは胸元に舌を這わせながら、スカートの中に手を滑り込ませる。ショーツの上から硬く膨れて疼くところを指先で撫でられ、長く忘れていた快感に身体の奥が震える。

 ストラップレスのブラをずらされ、無防備に曝け出された突起にエイジの唇が吸いついてくる。軽く吸われ、舌先で転がされながら、快感に翻弄されていると、網タイツの粗い目をくぐり抜けた指先がショーツの脇から躊躇なくぬかるみの奥深くまで侵入してくる。迫り上がってくるうねりに耐えきれずに甘い悲鳴を上げる。
「チカさんのあそこ、すごいエッチ。指、食い千切られそうなくらい締めつけてくる。ね、フェラしてくれる?」
 エイジはスラックスのファスナーを下ろし硬くなったペニスを露出させた。私はスツールから降りて、それを口に含み、舌先で先端を擽りながら、唇で上下に扱く。滲み出てきた、かすかに塩味のする液体を舐め取ってから深く咥え、音を立てて吸い上げると、エイジが満足そうな吐息を漏らしながら私の髪を撫でる。
 ジャケットのポケットの中で携帯が震え始めた。
 

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