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序章第一節 警備員 石原鳴月維、異世界に上番しました。
二.異世界オルス
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「召喚の儀、成功致しました」
目覚めた時、最初に耳にしたのはそんな言葉だった。
俺は…………あぁ、逆走してきたバカ野郎に轢(ひ)かれたのか。
どうやらまだ生きてたらしい、よかったよかった。これでまだ俺のぐーたらライフは続けられそうだ。
手足を動かしてみる、感覚はまだ残ってる。
五体満足だったか、結構丈夫なんだな俺。だけど……視界がまだボヤけているな。何か薄暗いけどここは病院じゃないのか?
しかも召喚の儀ってなんだよ、「手術成功しました」とかじゃないのか? 手術してもらっておいてなんだが中二病全開か。
そんな事を考えながらはっきりしてきた視界が捉えたものは……間違いなく医者や病院じゃなかった。
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◇
〈ウルベリオン城敷地内、教会第二聖堂「儀式の間」〉
そこは海外の教会みたいな内装の広い聖堂。
でかいステンドグラスに周りを囲まれているが何故か薄暗い。祭壇の上空には魔法陣みたいなのに囲まれた綺麗な水晶みたいなものが宙に浮いている、なにそれどんな技術?
その下には聖職者って感じの白い髪の美人がいる。こいつが召喚の儀とか中二病発言をしたやつらしい。
「おお、成功したか。よくぞ来てくれた、三人の戦士達よ」
次に声を発したのは見るからに王様って感じのおっさん。王冠、長髪、髭、装飾された偉そうな服にマント。今の時代にTHE王様って感じの格好してるやつ初めて見た、コスプレでも今日びやらないだろ普通。
おっさんの王様の横には若い青年と若い女性二名。こっちも何か剣とか盾とか杖とか持ってゲームのキャラクターみたいな格好で偉そうにしてる、何だここは。ファンタジー系のコスプレ会場か?
何で俺がそんな場所に。
辺りを見回すと鎧を着た兵士みたいなのがズラッと並んでいる。
「………え?」
「おいおい、何だここ?」
両隣から声が発せられる。
俺の両隣にはきょとん顔した全身タイツの宇宙ロボットのパイロットみたいな格好した少女と、野武士みたいな格好をした茶髪長髪のチャラ男みたいな青年がいた。ちなみに俺は警備員の制服のままだ。
パイロット、野武士、警備員。どんな組み合わせだ。
こいつらは俺と同じで状況を理解していないようだ。俺達三人は王様や兵士達に囲まれ皆の視線を集めている。
「ふむ、大神官よ。説明してやってくれ」
「仰せのままに」
偉そうなおっさん王に言われ聖職者っぽい大神官とやらが話し始める。
「あなた達は元の世界で死亡した事により召喚の儀によって別の世界からこの世界『オルス』へ転移してきたのです」
自己紹介も何もなく、大神官とやらは要点だけをかいつまんで説明し始める。
俺達はとりあえず口を挟まず大人しく聞いた。
どうやらこういう事らしい。
1.この世界は『オルス』とかいう設定で魔王とか配下の魔物とかがいてヤバい。
2.魔王軍は桁外れの強さでこのままじゃ世界がヤバい。
3.そのため世界を救う『天職』の勇者に魔王討伐の旅に出てもらっているが同行する仲間が魔物に太刀打ちできず人手不足でヤバい。
4.そこで最新技術により別世界で死んだ者を召喚し、勇者一行の仲間を集った、ヤバい。
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☆MEMO.『天職』『適職』
その人に最も合う職業。
『天職』はその職業に就く事が運命とされるくらいにその職業に適した才能がある事。
『適職』はその職業に就けば輝かしい成果を残す事ができるくらいの才能。
大体の人間には『適職』の才があるが、『天職』の才能を持つ者は稀である。
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5.ちなみにこの召喚は『聖職石』1000個分のレア度の低い召喚らしく、更に上位の者を召喚するには10000個分必要とか無駄な情報も聞いた。
この情報でわかるのは俺はどうやらヤバい妄想連中に拉致されたって事だけだ、どうやって逃げよっかな。
「……どうやら……この三名で『天職』の才を持つ者は一名だけ、他二名は『適職』止まりのようです」
「かぁ~っ、マジかよ」
「だから言ったのん、後7000個集めて一人使えるの召喚した方がいいってん」
「かったりーよ、3000個集めた時点で十分飽きてんだよもう」
おっさん王様の隣で若い男女が言い合いを始める。どうやらあれが『天職』の勇者とその仲間らしい。
「御三方、状況は理解できましたでしょうか?」
「はい、わかりました」
俺は真っ先に返事した。
「……お前……こんなわけわかんねー話信じんの?」
なんか野武士のチャラ男がヒソヒソ話しかけてきた。
「いいや? とりあえず適当に話合わせてさっさと帰ろうかなって」
「お前……天才かよ……」
「ぐすっ……ここどこなんですか……」
どうやら召喚された(設定)の俺含めた三人は全然話を飲み込んでいないらしい。当たり前だな、早く帰りたい。
そんな俺らを無視して、大神官と勇者とやらは話しを続ける。
「それで? どいつなんだよ? あの変な格好だけど可愛い子がいいな、そうだろ?」
「『天職』の才を持つ者は……中央にいる【イシハラ・ナツイ】様です」
俺の名前を呼ばれた。個人情報まで抜き取られたのか、ま、困る事なんか何もないからどうでもいいけど。
「マジかよ、あのおっさんかよ。んで何の職の『天職』なんだ?」
えらそうな勇者がえらくガッカリしている。俺はとなりのチャラ男と少女に声をかけてみた。
「突然だが自己紹介をしよう。俺は石原鳴月維、年齢は34だ」
「本当に突然だな!? しかも結構歳いってんな!? 二十代かと思ったぜ……って今はそんなんどうでもいいよ!」
「え、えっと……とりあえず話を聞きませんか……?」
チャラ男と少女に話を制された。ふむ、何か発表するらしいから黙って聞くか。
皆は大神官とやらの言葉を固唾(かたず)を飲んで見守っている。
そして大神官とやらは勇者とやらの質問に答えた。
「【イシハラ】様の『天性』は……【警備兵】でございます」
「「「「……………………」」」」
少しの間が空いた後、周囲から一斉に笑いが起こった。
「け、警備兵って! あの!? 給金も低いいてもいなくてもいいあの!?」
「そんなのが『天職』なんてこりゃあいい! 酒の席の面白ぇ肴(さかな)ができたぜ! つーか警備兵に『天職』なんかあったのかよ!」
「大体囮くらいにしか使い物にならない職業だからな、勇者様達には気の毒だが……大外れだな」
周りにいる兵士が口を揃えて嘲笑する。兵士の格好してるけどこいつらは警備兵じゃないのか?
「ほ~らだから言ったのん。この召喚でろくなの出た試しないんだからん」
「うっせぇな! わあったよ! 今度はもっと集めりゃいいんだろ! おい神官! 天職だろうか警備兵なんざいらねぇよ! 今回はナシだ!」
周囲からの嘲笑が止まない中、俺は思った。
腹へった……今すごくハンバーガーが食べたい。
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