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第二章 楽園クラフトと最初の標的

#037.【楽園計画】④

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〈連盟商店通り〉→→〈鍛冶屋『鉄心』〉

「よぉ、ラインじゃねえか! その娘が話のマインっつーお嬢か?! 器量の良さそうなべっぴんさんじゃねえか!」
「……………」
「マイン、大丈夫だ。こいつは鍛冶師でドワーフ族の【アドオン】、ここへ来てから何度か世話になっている」
「そうでしたか、初めましてアドオンさん。ラインさんの従者のマインです。イルナさんからもお噂はかねがね聞いています」

 鍛冶屋に入ると、カウンター奥からその小さな風体からは想像もできないような大声が響いた。
 のそのそと歩いて現れたのは身長1Mくらいの小さな男。角つきの兜を目深に被り、白髭をふんだんに蓄えた鍛冶師である【アドオン】というドワーフだ。ワヲンの紹介で何度か顔を合わせてからは……その明け広げな性格や俺の持つ黒耀剣に興味津々なおかげからかすっかり気に入られてしまったようで顔馴染みとなっている。

 ドワーフ族というのはエルフと共に遥か昔からオーバーワールドに住む種族だ。自然主義で保守派寄りなエルフとは真逆で利便主義のドワーフはこの世界の文明改革に一役も二役も買っている。
 特技とする鍛冶工を更に発展させるためにレッドストーンによる電気の力や機械化などを積極的に取り入れ、今や飛空挺や魔導具といったおおよそ領分外の仕事にも携わり、幾人もの名技師を誕生させている。

 昔ながらの職人気質な奴も多いが、前述のように多様化が進んだ今となってはアドオンのように飾り気も裏表も線引きもなく、人懐(ひとなつ)い奴等も多くなってきている。それが良い事か悪い事かは別にして。
 だが、そのせいかエルフとはめっぽう仲が悪いらしい。ドワーフは低身長で筋骨粒々な奴が多く、エルフは背丈が高く痩せ型といった容姿の違いも反する両種族の長い歴史の確執を象徴しているようだ。

 初対面であるマインはアドオンに警戒している様子だったが、俺が間を取り持つと微笑んで挨拶をする。だが、その眼は笑っておらず誰が見てもわかるような社交辞令そのものだった。

(同性にはある程度心を許すのに……やはり異性とは一切口を聞かないな……)

 アドオンは豪気な性格なため気にしていないようだが……俺は居心地の悪そうなマインに配慮して世間話もそこそこに適当に買い物を済ませ、鍛冶屋を後にする。

「おう! また来いよ!」

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〈鍛冶屋〉→→〈書物屋『ミラリオン』〉

「あ……ラインさん……いつもお世話になっております……今日はご入り用でしょうか……? あ……もしかして……そちらのお綺麗な方が……」
「ああ、相棒のマインだ。マイン、この子は司書の【ラティクル】。魔術やルーン文字の研究家でもある」
「初めましてラティクルさん。ラインさんの第一の従者であるマインと申します、以後お見知り置き下さい」
「え……あ、ご丁寧にどうもです……ラインさん……従者って……?」
「気にしなくていい、本人がそう名乗りたいってだけだから……」

 鍛冶屋を後にした俺達はその足で通り裏手にある書物屋に入る。アドオンとは正反対に消え入りそうな小声で出迎えてくれたのはひっそりと書物屋を経営する女主人のラティクル。綺麗な翡翠(ひすい)色の髪を乱雑に結び、服も埃まみれで眼鏡も傾いているために……可愛らしい顔立ちを台無しにしているが当人は全く気にしていない。本当に度が合っているのかわからないくらい本を顔に近づけ見入っているのは人見知りな性格なためだとワヲンは言っている。
 アドオンと同じように、ワヲンの紹介だったりイルナの肩代わりしたクエストの都合で何度か店に通っているうちに顔見知りとなった。人見知りなのに何故か俺には積極的に話しかけてくるのは……俺に同じ匂いみたいなのを感じたからだろうか。

 大小種類様々に並ぶ本に埋もれそうなこの書物屋では『魔術書』を初め『歴史書』『総記書』『哲学論』『技術書』『産業史』『芸術史』『言語学』『文学書』『専門書』などの一般的なものから『錬金術書』『魔導書』果ては『黒魔術書』や『絵本』『児童書』なんてのも分類を限らず置かれている。
 
「あ……わたし……古書をかき集めるのが趣味なもので……よ、良かったらマインさんも見ていってください……」
「はいっ! わぁ……見たこともない本がいっぱいありますっ!」

 二人は早速意気投合したようで仲睦まじく話している、本や勉学が好きなマインとラティクルは話が通じ易いようだ。
 俺はマインのために絵本や魔術書を何冊か購入して書物屋を後にした。

「ラインさん……マインさん……また来てくださいね……」

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〈書物屋〉→→〈連盟商店通り〉

「あ、ラインさん。今日はデート?」
「ライン君、買っていって~今日は珍しい物入荷したからさ~」
「あ! ライン遊ぼうぜ! ……なんだよでーと中なのかよ~じゃあまた今度な!」

 通りを歩くと人種や年齢を問わず様々な人達から声をかけられる、『デート』という言葉にマインは紅くなり俯(うつむ)いていた。だが、微笑みが抑えきれないという様子でにこやかな表情をしている。

「何だか嬉しそうだな」
「もちろんです、ラインさんが町の方達に慕われているのは誇らしくもあり……至福です。マインの御主人様が如何に優しく素敵で素晴らしいかを理解してもらえたのですから」
「まぁ……あまり目立ちたくはなかったんだけど。イルナのクエストを肩代わりしているうちに顔を知られちまった。狭い宿場町だから仕方ない事だけど……そんな大した事してないんだがな」
「くすくす……照れているラインさんも可愛いです」

(……ま、慕われるというのは悪い気はしないし……なにより『夢』のためには必要な事だ。大した用がなくてもこうやってまめに店に顔を出すことも、な)

 穏やかな日常と、復讐のための算段。二足の草鞋(わらじ)で生活を送るのは気苦労はあるが悪くはない。
 夢も復讐も必ず完遂させてやる。
 そのために必要な事は全てやってやるさ。
 
 すると、町の入口の方から大きな音と悲鳴が轟(とどろ)く。

 略奪者(ピリジャー)と呼ばれる魔獣の来襲だった。
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