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第二章 楽園クラフトと最初の標的

#036.準備をしよう④『大規模調査』

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「………──成程、何処で聞いたかはこの際不問とするが……確かにそういったEX遺物(レジェンダリ)は存在する。あるとするならばそこしかないだろう……だが、あまりに危険だ。あの場所は人が立ち入るような場所ではない」
「なはは、まるで入った事があるような口ぶりだな。まぁいいさ──だが、『それ』の入手は絶対だ。聞けば近いうちに『大規模調査』があるらしいじゃねぇか。参加するにはお前の力がいるんだイルナ」

 騒々しくも灯りの少ない酒場の室内、テーブル越しに俺とイルナは真剣に向き合う。

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〈宿場町カルデア 酒場『杯の宴』〉

 俺とマインは楽園での仕事が一段落したその足でイルナに会い酒場に誘った。目的は言うまでもなく……イルナを仲間に引き入れた理由である【EX遺物】入手のための算段を立てるためだ。
 オーバーワールドに無数に存在する『ダンジョン』には入るのに資格(ランク)が必要となる場所がある。初級者の狩場のように危険性があまり無い場合はフリーとなっているが、危険度の高いとされているダンジョンは基本的にギルド内ランク『エメラルド』か『ダイヤモンド』の同行が必然だ。
 
「調査隊に選ばれるのはごく僅かだよ、確かな実績が審査の材料になる。そこにおいて──私などがお眼鏡に叶うとは到底思えないな」
「謙遜にしか聞こえないな、『真実の砲口』は王都神聖教団の教皇に直々に譲り受けたものらしいじゃねえか。たかが一ギルドの頭領とどんな繋がりがあるのか……徹底的に調べ上げてもいいぜ?」
「…………」

 話に乗り気でなく飄々(ひょうひょう)といなしていたイルナが初めて口を閉ざす。哀しみとも怒りとも取れる表情をしている、やはりイルナは自身の過去に立ち入られるのがあまり好きではないようだ。
 俺も俺なりに調査して得たこのカードはあまり使いたくはなかったが、協力が得られないのでは仕方ない──

「……………ふ、誰から聞いたか知らないが……やはり人の口に戸は立てられないというわけか……残念だ、だが」
「なはは、初めて騙されたな。安心しろ、冗談だ」
「……………え?」

 ──と、意地の悪い演技をして笑いながら真実を打ち明ける。
 すると初めてと言っていいほどイルナは呆気に取られた表情をした。

「知られたくない事を無理矢理調べて駆け引きに使うほど性格は腐っちゃいない──あくまで仲間うちには、だけどな。俺達は参加する場にいるだけでいい」
「……? つまり……参加はするが迷宮には立ち入らないという事かな?」
「いや、入るには入るさ。だが……俺は迷宮自体に用があるわけじゃない。そもそもが調査隊に参加してEX遺物を見つけたところで没収される可能性の方が高い」
「……確かにそうだが、では何をするというのかな?」

 俺はイルナに耳打ちして『作戦』を伝える。すると見る見るうちにイルナの表情が高揚していく様子が見てとれた。

「……………ふふ、ふふふ! 確かにラインならばそれが可能だな、面白い。一本取られたとは正にこの事だ……私の負けだよ。すぐに準備しよう」
「……イルナさん、ありがとうございます」

 笑いながらイルナは席を立つ、今回は俺の勝ちのようだ。意図を上手く隠して演技を見破られなかったからな。さっきのは単なるハッタリだった。
 別に勝負しているわけじゃないけど毎回心の内を読み取られるのも癪だと思ったので上手く心をコントロールして騙してやったのだ。

「子供っぽいところがあるソ……ラインさんも素敵です」

 横でマインがクスクスと笑う、とにかくこれで挑戦権を得たわけだ。
 期日は16日後──大陸の最北端に位置する最難関の迷宮【黒耀石の尖塔】に。

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〈酒場〉→→〈カルデア 連盟商店通り〉

 酒場を出た俺とマインはその足で鍛冶屋へと向かう。通りはいつも以上に他所の冒険者らしき奴等の姿で賑わっている、その理由は俺達と同じ──此度(こたび)発令された大規模共同クエストである塔への話題で市場が持ちきりだからだ。

「ラインさん、今回調査が解禁されたその塔とはそれほどに重要な場所なのでしょうか? マインはまだ塔の歴史については学んでいないのです」
「ああ、かつて魔獣達の頂点だった【邪悪なる村人の王】が四人の勇者に討伐された場所が【黒耀石の尖塔】だ……つまりは元・魔獣の王が根城にしていた総本山でもあった迷宮だからな。現在でも無数あるダンジョンの中でも十指に入る危険な産み場に指定されてる」
「さすがソラインさん、勉強になります。ではそこに目的の〈アーティファクト〉があるかもしれない、と言うわけですね」

 そう、レッドストン鉱山の地下深くの小部屋にルーン文字と共に隠されていた〈アーティファクト〉。よくよく調べてみるととんでもないアイテムである事が判明した。恐らくではあるが世に出回ればEX遺物(レジェンダリ)と同等の価値がつくぐらいの代物だ。

(ハコザキの銅像に祀られていたということは……創世記に近い年代のものでハコザキに何か関係のあるものだろう、もしかすると本人が使用していたものか……肝心な事は一切聞かなかったし……仮に聞いても答えはしなかっただろうが……叶うならもう一度あいつと話してみたいもんだな)

 とにもかくにも──俺が狙うのはまさしくその〈アーティファクト〉。それが【塔】にも存在するという確証を得ての今回の話なわけだ。
 確証を得たのはまさしくその秘密部屋、アーティファクトの置かれた台座に小さく記されていた文字からだ。まるで次の居場所の手掛かりを示すかのように、それにしては意地悪く隠すように謎の文言が彫られていた。その文言の示す地──それが【黒耀石の尖塔】だったんだ。
 
「普段は強固な封印術で厳重に管理されているらしいからな、そんな折の大規模調査依頼……渡りに舟とはこの事だ」

 思えば、たまたま寄ったレッドストン鉱山でミランダの情報を得て、更にミランダに繋がる人物に近づくために必要なアイテムの入手先へタイミング良く大規模調査依頼。全てが見えない糸で繋がって都合良くこちらへ引き寄せられているような感覚に陥る。

「地球でいう『ご都合主義』ってやつだな、この好機を逃す手はねぇ」
「どこへでもお供致します、行きましょうラインさん」
 
 果たしてこの『ご都合主義』がどう作用するか、それは神のみぞ知るというところだろう。

 台座にはこう記されていた。ルーン文字──つまりはハコザキのいた世界【地球の日本語】で『天ヲ穿ツ漆黒ノ塔 悪魔ハ斯ノ地デ亡霊ト化ス』……と。
 
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