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第三十話 味方

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「雁州さん、無断欠勤したわ……」

 昼休み。社員食堂で、奏が非常に重い表情で、いつもの三人に言う。

「えーっ! めちゃめちゃまずいですよ、それ!」

 今、まりんの立場は非常に悪い。そこに、無断欠勤をやらかした。

「折を見て、メッセージを送ったり、コールしてみたりしてるんだけど、全然返事なくて」

「このままじゃ、ほんとに首が飛ぶぞ」

 らいあも、強い危機感を覚える。

「これじゃ、わたしがいくら課長を説得しても……」

 頭を抱える奏。

「ちょいとごめんよ。波部里愛って人、知らないか?」

 飼育課のネームプレートを下げた中年男性が、四人に問う。

「あ! 私です! なにかご用でしょうか?」

「ああ、やっと見つかった。この署名の、雁州まりんってのは、一昨日飼育課に、あのじろうの異変を知らせに来た子かな?」

「飼育課はわかりませんけど、ドクターに診てもらったって言ってましたよ!」

 あくあが、一昨日の会話を思い出す。

 それを聞いて、うんうん頷く彼。

「やっぱり、あの子だな。署名、期待しといてくんな」

 そう言うと、彼は去って行く。

 狐につままれたような感覚で、食事を再開する四人であった。


 ◆ ◆ ◆


「これ見て!」

 終業後、寮に帰ってきた里愛が、奏たちに署名ページを見せる。

 するとそこには、二百以上の賛同がついていた。

「え? マジすか、これ……」

 呆然とするあくあ。しかし、一気に我に返り、自室に突撃する。

「起きろ、まりん! お前には、二百人以上の味方がいるぞ! 二百人以上の社員が、お前の復帰に賛同してるんだ!」

 無視。

「い・つ・ま・で・も……ふてくされてんじゃねぇーっ!!」

 布団を引っ剥がし、叩き起こす。それでも、視線を合わせようとしないまりんの両頬をひっつかみ、視線を合わさせる。

「アタシだって、やべー時期あったよ! でも、立ち直るきっかけのアイデアくれたの、お前だって、波部先輩から教わったよ! 今度は、アタシに力にならせろ! 親友だろ!? なあ! 無力なの、辛いんだよ!!」

 あくあは、泣いていた。

「アタシと先輩方だけじゃない、お前には二百人以上の味方がいるんだ! みんなの気持ちを、無駄にすんなよ!」

 まりんが、やっと自発的に視線を合わせる。

「私、やり直せるかな……?」

「それは、お前次第だよ。環境は、できる限り整えてやる」

「ありがとう。ごめんね……」

 あくあの胸の中で、泣くまりん。

 さんざん泣きじゃくると、「体力、取り戻さなきゃね……」と、夕食の用意が整った食堂に向かう。

 それを見た四人は、ほっと胸をなでおろし、再び五人で席を囲うのであった。


 ◆ ◆ ◆


「大変、ご迷惑をおかけしました! 心を入れ替えて働きます! ですから、もう一度だけ、もう一度だけチャンスを下さい!」

「わたしからもお願いします! 行き届かないところは、わたしがきちんと指導します! ですから、雁州さんに、もう一度だけ機会を与えてください!」

 翌朝の案内課朝礼。まりんと奏は、土下座していた。

 ふうと、ため息をつく課長。

「さすがに、土下座はやめなさい。二人の……いえ、二百人の気持ちは、伝わりました」

 署名、見てくださったんだ! と、二人の心に光明が差す。

「昨日の夜、飼育課からメッセージが届きました。飼育課長が一同を代表して、『あのじろうの異変に気づき、救ってくれたのは、雁州さんです! 二百票は、我々飼育課の総意です!』と書き記していました。飼育課全体にこうまで言われては、無下にはできないではないですか」

「それでは……!」

「もう一度だけ、チャンスを与えようと思います。ただし、次の質問に正直に答えなさい。雁州さん。あのじろうが死んだとき、冷静でいられますか?」

 まりんの心臓が、きゅっと縮む。

「……仕事が終わってから、めちゃくちゃ泣きます! やけ酒、飲みます! 親しい人に絡みます! そして、翌朝きちんと出勤します!」

「……いいでしょう。その誓いに、二言はないと信じます。では、今日から再度、アノマロカリスをお願いします。鎌瀬かませさんは、ごめんなさいね。ハルキゲニアをお願いします」

「ありがとうございます!!」

 深々とお辞儀する、まりんと奏であった。
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