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第三十一話 感謝

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「あのじろう、助かったって!」

 夕食の席で、大型デバイスを見ていた寮生が、声を上げる。

 一同がそちらを注視すると、「世界初! アノマロカリス がん摘出手術成功!」

 というテロップと、この間の研究所の責任者と思しき人が、映っていた。

「おお~!」

 と、声を上げる一同。

「……ただ、何ぶん高齢なため、術後の回復が思わしくなく、あのじろうの、体力と気力の勝負といったところです」

 責任者の言葉に、盛り上がった場が、冷える。

「大丈夫! あのじろうは、ぜってー元気になって帰ってくるって!」

「うん」

 まりんを励まそうとあくあが声を掛けるが、まりんの表情に、動揺の色はなかった。

(強くなったな……)

 心がじわりと熱くなる、あくあであった。


 ◆ ◆ ◆


「お疲れ様でした!」

 案内課にて。

 七月第一週、最終日の終礼が終わった。

 まりんは、再任命後、立派にアノマロカリス水槽の案内役を務めあげ、第一関門クリア。

 正式に、ソロの案内員を任されるのが、いつになるかはわからないが、希望を胸に抱くのであった。

「あのじろうの続報、あれからないですね」

 帰路、デバイスを見ながらつぶやくまりん。

「知らせがないのは、いい知らせ!」

 あくあが、まりんの肩に手を置く。

「そうだね」

 ちょっと切なそうに、微笑むまりん。

「明日から、いつもの体制に戻る。気合い入れていこう」

「はい!」

 らいあが、話題を切り替える。

「絶滅展の方は、どう?」

 不意に、企画組の進捗が、気になったまりん。

「課長曰く、順調だって。五月のデスマーチが保険だっていうのは、本当だったんですね」

「うん」

 あくあと里愛が、そんな会話をする。

「ん?」

 デバイスに新規通知が来たので、開くまりん。

「本日、あのじろうが、研究所から当館に搬送されます。完全に健康になるまで、医療課での療養となりますが、危険な状態は脱しました」

 新規の社内報に、そう書かれていた。

「みなさん! 社内報見てください!」

「……おおー!」

 肩を組み合って、きゃっきゃと喜び合う五人。

「やったな、雁州!」

「はい!」

 じんわりと、目頭が熱くなる。

 医療課は部外者入室禁止につき、あのじろうの様子を見に行くことはできないが、うち水族館の療養水槽で、ゆったり泳ぐ彼を想像するのであった。


 ◆ ◆ ◆


 寮での、夕飯待ちタイム。

 まりんとあくあが雑談していると、まりんのデバイスに通知が届いた。

「なんだろ?」

 起動すると、次のようなメッセージが届いていた。

「夜分に失礼致します。お久しぶりです。医療課課長の、石田いしだと申します。アドレスを案内課課長に尋ね、こうしてメッセージを送るご無礼、お許しください。二週間前、あのじろうの異変に気づいてくださったこと、感謝の念に堪えません。雁州さんが気づいてくださらなかったら、あのじろうの命はなかったかも知れません。今、彼の搬入を待っているところです。個人的に、どうしてもお礼を申し上げたく、一筆したためました。それでは、失礼致しました」

 もしや、あのときのドクター!? 課長クラスの人物に、こんな丁寧な、感謝の手紙をいただくとは……。

 恐縮しきってしまう、まりん。

「どした?」

 まりんの様子のおかしさに気づいた、あくあが尋ねる。

「これ……」

 メッセージを見せるまりん。

「おおー! すげー!」

「びっくりだよー」

 胸を押さえる彼女。

「二人共ー、晩御飯よー」

 里愛が、二人の部屋に、外から呼びかける。

「お、飯だ飯! 行こーぜ!」

「うん!」

 五人が集まると、あくあが感謝メッセージの件を話す。

「すごいじゃない、雁州さん!」

「いやー。もう、恐縮しちゃって、恐縮しちゃって……」

 奏の称賛に、もじもじするまりん。

「後で見せてくれよ」

「私も、見たいな」

「では、後で皆さんにも、お見せしますね」

 楽しく談笑しながら、夕食を食む五人であった。
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