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第二十話 企画課奮闘記

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「春木さ~ん、波部せ~んぱ~い。一緒に帰りましょ~」

 終業時刻になったので、二人を誘うまりん。

 公私を分けるため、仕事場では、あくあちゃんではなく、春木さんと呼んでいる。

「ごめん、残業。先帰ってて」

 残念そうに、断るあくあ。最近、企画課コンビはずっとこんな感じである。二人に限らず、企画課全体が残業状態だ。

 これは、カンブリアン・アクアリウム独特の、長期休暇体制によるものである。

 GWゴールデンウィークにお盆と、世間的な長期休暇のない社員たち。

 では、彼らはどこで休暇を得ているかというと、閑散期の六月二週目から、七月一週目の前後半どちらかに、二週間まとめて休みが与えられるのだ。

 案内課や広報課、飼育課といった、誰かしらいないと困る部署は、半数ずつ交代制で。企画課のような、半端に誰かいても意味のない部署は、前半か後半の二週間、完全に空っぽになる。

 客の少ない梅雨時に、多数スタッフがいても意味がないという判断からである。

 梅雨時に、こんな超長期休暇をもらっても困るというのが職員の本音だが、他の時期がおおむね行楽向きなので、やむなしというところ。

 そして、こんな体制であるために、企画課は六月はまる二週間仕事にならず、夏休み企画を落とさないため、五月にできるかぎり仕事をやっつけておき、七月に余裕があるようなら、そこでマイペースに仕事するという習慣が出来上がっていた。

 寮の夕食が食べられない企画課職員たち、コンビニ弁当を食みながら、仕様書を必死に切っている。

「春木。『迫力が足りない』って、コンテ突っ返せ」

 試作映像のコンテを見ていた課長が、ダメ出しをする。

「完成、間に合いますかね?」

「間に合わせるために、必死こいて残業してるんだからな。向こうさんにも、頑張ってもらわにゃ困る」

 肩を落とし、「夜分遅く、申し訳ありません」と、制作スタジオに掛け合うあくあ。

 交渉が終わると、間を置かず、「春木さーん、展示パネルのことなんだけど」と、別の社員から声がかかる。

 先輩方の力を借りながら、中心となって仕事を進めていく、新人プロジェクトリーダー。身に余る大仕事に、てんてこ舞いであった。


 ◆ ◆ ◆


 一方その頃。寮に帰ってきた、案内課トリオ。

「あくあちゃんと波部先輩、大変ですねー」

「そうねえ。わたしたち、終業になったらやることないから、残業はしたことないわね」

「その代わり、あらしら一日中、立ちっぱだからな。そう楽でもない」

 互いに、苦労があるものである。

 夕食の和風ハンバーグ定食を食べながら、会話に花を咲かせる三人。この場に、あくあと里愛がいないのが残念だな、と思うのであった。


 ◆ ◆ ◆


「ただいまー……。門限、間に合った~……」

 なんだか今にも倒れそうなあくあが、就寝時間間際に、まりんとの相部屋に戻ってきた。

「お疲れ様~」

「シャワーだけ浴びてくる……」

 入浴道具と着替えをひっつかむと、すぐに出ていく。

 湯船は入浴時間が決まっているが、シャワーは起床時間から就寝時間までの間なら、いつでも使える。

 あくあが、髪を洗って汗だけ流したのであろう短時間で戻ってきて、髪も乾かさず、アイマスクをして布団にくるまる。そして、すぐさま寝息を立てるのであった。


 ◆ ◆ ◆


 そんな日々が続き……。やっと、休館日がやって来た。

 朝食を食べ終えると、アイマスクをして、ごろごろと眠るあくあ。

 しかし今回は、(自堕落だな)とは思わない、まりんであった。


 ◆ ◆ ◆


「久々の、寮の晩御飯だー!」

 里愛とハグし合うあくあ。

「嬉しそうですねー」

「そりゃもう! 五日間、コンビニ弁当だったんだから!」

 あくあが、立てた人差し指を振る。

 今日のメニューは、カツオのたたき定食。

「あ~、嬉しいな~! お刺身ですよ、お刺身!」

「やっぱり、日本人はお魚よね」

 あくあと里愛が、ほくほく顔で、いただきます宣言。それはもう、美味しそうに平らげていく。

 そんな二人に、ちょっと圧倒されながら、カツオをいただく案内課トリオ。

 こんな極端な日常が、しばらく続くはずであったが……?
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