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第十三話 雨の日
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雨の中、五人は職場へと向かう。
西暦二一三〇年になっても、相変わらず雨具は、傘とレインコート。
ただし、我々の時代よりは、少々高性能になっていた。
二十一世紀に発明された、風でお猪口にならない傘や、ハスの葉を応用して作られた「濡れない雨具」は、とっくの昔に特許が切れ、一般でお安く手に入る。
「織田先輩、あのワンピじゃないんですね」
「さすがに、通勤には使わんよ」
まりんの所感に、苦笑するらいあ。
彼女は、肘丈袖のブラウスとスラックスである。
「あくあちゃんも、水兵さんルックで出社したら可愛いのに」
「それはいくらなんでも、イタすぎる」
あくあも、呆れる。
彼女もまた、オーソドックスな通勤ルック。
「今日は、暇そうですねえ」
奏、らいあにぼやくまりん。
「そうね。こういう仕事は、どうしても天気に左右されるから……」
天を仰ぎ、応える奏。
「企画課は、雨の日も晴れの日も、平常運転っす」
ふーっと息を吐く、あくあ。
「春木さんの企画が、実現するんじゃない。もっと元気だそう?」
里愛に、励まされる。
「ですねー」
GWを乗り越え、いよいよ絶滅展に向かってプロジェクトが動くが、やはり天気が良くないと、いまいちノリ気になれない。
そんな弛緩した会話を繰り広げていると、アクアリウムに着いた。
「じゃあ、また後で」
傘立てに傘をしまい、三人に別れを告げる、あくあと里愛。
「うん、また後で」
三人も、少し先の案内課に向かうのであった。
◆ ◆ ◆
(暇だなー……)
オダライアの水槽を任された、まりんであるが、客は極めてまばら。
屋外型レジャー施設など、もっとガラガラだろうと思うと、いくぶんか心の慰めになるが。
奏が配置された、アノマロカリス水槽は多少マシだが、晴れの日の十分の一も、客がいない。
別館など、本館以上に暇だろう。
向かいの水槽の、カナダスピスをぼーっと眺めていると、「あのー」と、不意に声がかけられた。
「はい!」
男性の、お客様だった。油断大敵。初日のナラオイアのときから、進歩してないなあ、と自戒する。
「オダライア……ですか。これは、どういった生き物なんです?」
「はい。こちら、節足動物でして、チューブ状の殻に包まれているのが特徴です。また、尾びれのうち一つが下を向いており、泳ぐ際、大変舵取りがしやすく……」
説明すると、「ほお」とか、「ふーん」とか、感心するお客様。
「ありがとう、ためになったよ」
そう言うと、彼は隣の水槽に移り、別の案内係に質問を始める。
(ふう)
気を引き締めないと。地獄のGWと三連休開けに加えて、雨天だからって、気が緩みすぎだ。
◆ ◆ ◆
一方、企画課は。
「お世話になっております。カンブリアン・アクアリウム企画課の、春木と申します。松戸教授は、いらっしゃいますでしょうか」
東大に、デバイスで電話するあくあ。
絶滅展のイベントとして、絶滅に詳しい東大教授を呼んで、トークイベントを繰り広げるというものを予定している。その、アポを取ろうとしている所だ。
「お世話になっております。カンブリアン・アクアリウム企画課の、春木と申します。弊館では、夏休みに、絶滅展というイベントを企画しておりまして……」
交渉開始。淀みなく、イベントについて解説していく。
「ひいては、教授にトークイベントにご出演いただけないかと思いまして……」
交渉は、順調だ。
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします。失礼いたします」
通話を切る。
「面会予約、取り付けました!」
拳を突き上げるあくあ。
「テンション上げすぎ。でも、おめでとう」
里愛や、他の社員が、祝ってくれる。
「ありがとうございます!」
弛緩した顔をする、あくあ。
「好事魔多し。本決まりじゃないし、まだまだ、やることたくさんあるからな。油断するなよ」
「はい!」
課長に釘を差され、別のプログラムに取り掛かる。
「はい、お祝いの差し入れ」
里愛から、缶コーヒーをもらう。
「ありがとうございます!」
よーし、がんばるぞー! と、気合の入るあくあであった。
西暦二一三〇年になっても、相変わらず雨具は、傘とレインコート。
ただし、我々の時代よりは、少々高性能になっていた。
二十一世紀に発明された、風でお猪口にならない傘や、ハスの葉を応用して作られた「濡れない雨具」は、とっくの昔に特許が切れ、一般でお安く手に入る。
「織田先輩、あのワンピじゃないんですね」
「さすがに、通勤には使わんよ」
まりんの所感に、苦笑するらいあ。
彼女は、肘丈袖のブラウスとスラックスである。
「あくあちゃんも、水兵さんルックで出社したら可愛いのに」
「それはいくらなんでも、イタすぎる」
あくあも、呆れる。
彼女もまた、オーソドックスな通勤ルック。
「今日は、暇そうですねえ」
奏、らいあにぼやくまりん。
「そうね。こういう仕事は、どうしても天気に左右されるから……」
天を仰ぎ、応える奏。
「企画課は、雨の日も晴れの日も、平常運転っす」
ふーっと息を吐く、あくあ。
「春木さんの企画が、実現するんじゃない。もっと元気だそう?」
里愛に、励まされる。
「ですねー」
GWを乗り越え、いよいよ絶滅展に向かってプロジェクトが動くが、やはり天気が良くないと、いまいちノリ気になれない。
そんな弛緩した会話を繰り広げていると、アクアリウムに着いた。
「じゃあ、また後で」
傘立てに傘をしまい、三人に別れを告げる、あくあと里愛。
「うん、また後で」
三人も、少し先の案内課に向かうのであった。
◆ ◆ ◆
(暇だなー……)
オダライアの水槽を任された、まりんであるが、客は極めてまばら。
屋外型レジャー施設など、もっとガラガラだろうと思うと、いくぶんか心の慰めになるが。
奏が配置された、アノマロカリス水槽は多少マシだが、晴れの日の十分の一も、客がいない。
別館など、本館以上に暇だろう。
向かいの水槽の、カナダスピスをぼーっと眺めていると、「あのー」と、不意に声がかけられた。
「はい!」
男性の、お客様だった。油断大敵。初日のナラオイアのときから、進歩してないなあ、と自戒する。
「オダライア……ですか。これは、どういった生き物なんです?」
「はい。こちら、節足動物でして、チューブ状の殻に包まれているのが特徴です。また、尾びれのうち一つが下を向いており、泳ぐ際、大変舵取りがしやすく……」
説明すると、「ほお」とか、「ふーん」とか、感心するお客様。
「ありがとう、ためになったよ」
そう言うと、彼は隣の水槽に移り、別の案内係に質問を始める。
(ふう)
気を引き締めないと。地獄のGWと三連休開けに加えて、雨天だからって、気が緩みすぎだ。
◆ ◆ ◆
一方、企画課は。
「お世話になっております。カンブリアン・アクアリウム企画課の、春木と申します。松戸教授は、いらっしゃいますでしょうか」
東大に、デバイスで電話するあくあ。
絶滅展のイベントとして、絶滅に詳しい東大教授を呼んで、トークイベントを繰り広げるというものを予定している。その、アポを取ろうとしている所だ。
「お世話になっております。カンブリアン・アクアリウム企画課の、春木と申します。弊館では、夏休みに、絶滅展というイベントを企画しておりまして……」
交渉開始。淀みなく、イベントについて解説していく。
「ひいては、教授にトークイベントにご出演いただけないかと思いまして……」
交渉は、順調だ。
「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします。失礼いたします」
通話を切る。
「面会予約、取り付けました!」
拳を突き上げるあくあ。
「テンション上げすぎ。でも、おめでとう」
里愛や、他の社員が、祝ってくれる。
「ありがとうございます!」
弛緩した顔をする、あくあ。
「好事魔多し。本決まりじゃないし、まだまだ、やることたくさんあるからな。油断するなよ」
「はい!」
課長に釘を差され、別のプログラムに取り掛かる。
「はい、お祝いの差し入れ」
里愛から、缶コーヒーをもらう。
「ありがとうございます!」
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