グラドル戦隊グラドルレンジャーズ

青キング

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第三話 女性たちを返せ! 残虐イケメン俳優

交戦1

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 グラドルレンジャーの五人がテレポートしたのは、夜闇に紛れて建つモルタル住宅の裏戸口の前だった。

「ここが『ウルフ』っていうお店?」

 レッドが目の前のやたらに堅牢な造りの鉄扉を指さす。

「立て札も看板もありませんけど、場所間違えたんですかね?」

 辺りの暗闇を見回して、イエローが自信なさげに言った。

「でも、今までテレポート失敗したことってないわよね」

 グリーンがイエローの言葉に淡く否を呈する。

「それじゃあ、この建物が『ウルフ』なんですか?」

「私にも確信はないわよ」

「確信だとか言ってる場合じゃねーだろ。はやく入んぞ」

 友人を監禁されているブルーは、メンバーの不断に焦れて鉄扉を足裏で蹴りつけた。

 ヒーロースーツで増強された蹴りに、案外脆く蝶番が外れて鉄扉は打ち破られた。中から明るい照明の光が漏れる。

 鉄扉の破壊に反応したのか、サイレンが鳴り響いた。

「やべっ」

 膂力のコントロールをしくじったブルーは、サイレンの音に肝を冷やした。

「こうなったら、突入しましょう」

 レッドが鼓舞するように促す。

 五人の意思は通じ合い、地下への階段を雪崩れ込んだ。

「なんだお前達は!」

 先頭のブルーが咄嗟に足を止めた。

 五人が階段を降り切る前に、全身ピンクタイツがブルーの顔に警棒を突きつけている。ピンクタイツの背後には、警棒を持った同じ格好の男が二人、五人を睨んでいた。

 ピンクタイツの姿を見て、ブルーは毅然と言い放った。

「グラドルレンジャーだ」

「なにっ!」

 警棒を突きつけているピンクタイツは、矢庭に色めき立った。

 階段上で両陣とも下手な身動きができず、敵意の視線をかち合わせていると、ピンクタイツの後ろから、紳士服の男が階段に走り寄ってきた。

「何事だ?」

 ピンクタイツの一人に男が訊くと、敵襲ですと返事がある。

「敵襲、こんな時に」

「構わない。いずれこの時が来ることはわかっていた」

 男の後方から若い男の声。しかし今度は男性に似つかわしくないアルトの声質である。

「どこかで聞いた声です」

 イエローが記憶から声の正体を思い出そうと眉間をひそめる。

「ご明察」

 アルトの声の男は五人の目が届く位置まで来て、イエローの推察を褒めた。

 ブルーとイエローに衝撃が走る。

「神里……」「神里さん……」

「そう、神里晋一だ。よくも邪魔をしてくれた」

 飄々として手を広げ、憤懣を含んだ言葉を吐く。

 状況を呑み込めないでいる五人を見て、神里はピンクタイツたちに告げる。

「命令だ、そいつらを殺せ」

 ピンクタイツたちが途端に殺気立つ。

 敵の殺気を感じ取った五人は、戦闘の構えを取った。

「うおっ」

 突きつけられていた警棒が、ブルーの咽頭を狙う。

 ブルーは喉に迫った警棒の先端を手で払った。

 反応素早く警棒の突き攻撃をブルーにいなされ、ピンクタイツは体勢を崩す。

 ぐらりと背中側によろめいて、他のピンクタイツを将棋倒しにして、階段を落ちていった。

 ブルーは怒りの形相で間抜けな彼等に歩み寄る。

 頭を打って昏倒した一人をクッションにして、ピンクタイツ二人は起き上がった。

「このっ」

 瞬間、顔面をブルーに蹴り抜かれて失神したまま床にのした。

 残った一人のピンクタイツは怖気づき、警棒を中段に構える手が震えている。

 ブルーが一歩踏み出すと、逃げ腰で後退った。

 部下の怯懦を目の当たりにした神里は、読み取り難い表情で背後から肩を手を掛けた。

 ピンクタイツは神里に振り向くと、迫り来る二本指が一瞬だけ見え、眼窩から脳髄へ突き抜けるような激痛に襲われた。 

 ピンクタイツの両眼からは血が迸り、苦悶の呻きとともに警棒を落として両眼を手で覆いながら蹲った。

 意想外の惨事が目の前で起こり、レンジャー五人ましてやバーのマスター役だった男さえも茫然と神里の動きを眺めることにしかできなかった。

 神里は周囲の視線に対して、道理に適ったことをしたまでという表情を湛えて見返す。

「シキヨクマーに腰抜けは必要ない。大望成就のために戦いを厭わない者のみがシキヨクマーの成員であるべきだ」

「後光が見える……」

 バーテン役だったシキヨクマーの隊員は、感極まるように畏敬の念の籠った声を出す。

「あなたこそがギャルゲ大佐の後継者に相応しい」

「ありがとう。でも今は目の前に敵に集中しないと」

 神里は隊員に礼を言いつつも警戒を促す。

 何よりも早く未希の救出を果たしたいブルーは、敵方の内輪話に興味はなく、奥の部屋を目掛けて全霊で床を蹴った。

 ブルーの突貫を神里は身軽に半身を引いて受け流した。

 力をいなされてブルーは監禁室の方へもんどりうち、身体をどこにも打ち付けることなくなんとか前転をして屈んだ姿勢に留めた。

 怒りの視線を神里に振り向ける。

「どういうつもりだ?」

 ブルーと他の四人が左右に分かれて見える位置に立ち、不敵に笑い神里は問いに答える。

「君達の目的は収監者の救出だろう。一度、彼女たちの姿を目に入れておいた方がいいと思ってね」

「何を企んでるの?」

 レッドが今にも飛び掛からんとする威勢を持って訊ねる。

 神里はまたしても飄々と笑う。

「企んでることは明かせないが、僕が君達をどうしようと思ってるかだけは言えるよ」

「何?」

「敵として殺すつもりだ」

「シキヨクマーの怪人らしいこと言うのね」

「こう見えてもシキヨクマーの一員だからね」

 レッドと神里は静かに睨み合って言葉を交わしながら、互いに相手の出方を窺っている。

「未希!」

 監禁室に未希の姿を見たブルーは、歓喜を溢すように名を叫び、膂力で監禁室の格子をねじ開けようと手を掛ける。

 ブルーの行動を予見した神里は、間抜けを目にしたように鼻で笑った。

「浅はかな」

「いでっ」

 格子を掴んだ腕に高電圧の電気が走り、ブルーは痛みに顔を歪め慌てて手を離した。よろよろと格子から距離を取る。

「部外者が触れると電気が流れるんだよ」

 無表情でそう言ってから、露悪的に口角を吊り上げる。

「そして電圧防備のシステムを止まる方法は、最高管理者である僕が死ぬことだ。言いたいことはわかるだろう?」

 神里はレンジャー五人と目を合わせて、質問口調で先を譲る。

「つまり監禁されている者を助けたければ、あんたを殺すしかないってことね」

「そういうこと。これで君達は僕と戦わないわけにはいけなくなった」

 望んだ舞台が幕を開けた劇作者のように、おどけに似た笑みを口元に浮かべる。

 今にも五人と神里との交戦が勃発しようという時、監禁室のフロアの最奥のドアが蝶番を軋ませて、ゆっくりと開いた。
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