グラドル戦隊グラドルレンジャーズ

青キング

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第一話 選ばれた五人

交戦2

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 猿男は地面を蹴って、左右にやじろべいのように重心を切り換えながら突進する。

「キィーーーーーー!」

 楠手を標的にして、右脚を重心に右手を振りかぶる。

 左肩口から袈裟懸けに振り下ろされる攻撃に、楠手は左脚を引いて左半身を遠ざけながら身を捻る。

 鋭爪を右腕が掠め、四条の傷口から血が飛び出る。

 腕を振り下ろした姿勢から、猿男は腰を少し屈めて右腕を突き出す。

 鋭爪が楠手の腹部に迫る。

 しかし猿男の右腕は楠手に到達する前に、横合いから伸びた栗山の手に握り止められる。

「キィー、腕を放せ」

 猿男は横目で栗山を睨みつける、

「生憎、そうはいかねえ。私達は戦うって決めたんだからな」

「ふざけた事を言うでないでぃ」

 右足を上げ、腕を掴んでいる栗山の腹部を目掛けて足裏を打ち込む。

  胃の腑を突き上げるような蹴撃で、栗山は掴んでいた腕を放してしまい、腹を抱えて蹲った。

 再び栗山に標的を戻した猿男の視界の左端から、不意打ちの拳が飛んできた。

 左手を振り向く隙もなく、拳が頬に重く食い込み振り抜かれた。猿男は支える物なく右に体勢を崩した。

 床に倒れるのを右手をついたアクロバットな側転の要領で立て直した。

「てめぇ、よくもおいらを殴ったでぃ」

 拳打を喰らわせた西之森を、左頬を擦りながら苛立った目で射る。

「殴って当然よ。あんたは私達の敵だもの」

「おめぇ達がおいらを戦うって言うなら、おいらも容赦はしねぇでぃ」

「望むところです!」

 西之森の背後から、勇気を押し絞るように上司が言った。

「戦うからには私達も手加減はしません。悪を倒すんです」

「私もよ」

 上司の隣で猿男を見据えながら、新城が同調を口にする。

「グラドルレンジャーの一人として、戦わなければならないなら戦うわ」

「チッ」

 猿男は舌打ちした。

「戦闘を放棄して逃げれば今後の苦しみを避けられるものを、どうしれわざわざ敵対するんでぃ」

「仕事だから」

 楠手が右腕の擦過傷を手で押さえながら、猿男に自然な声で告げた。

 他の四人に同意の空気が流れる。

「私達はあなたを含めるシキヨクマーと戦うことが役目」

 楠手の答えを聞いて、猿男は歯軋りして、

「仕方なく、おいら達と敵対するんでぃ? 組織を軽く見られておいらは怒ったでぃ」

 キィー、と耳障りな高音の呻きを発し、楠手へまっしぐらに襲い掛かる。

 五人は猿男を取り囲むような位置で、慣れないながらも戦闘をする姿勢で構えた。

 攻防の末、数で優っている五人が猿男を人事不省させた。

 両手足に爪撃による傷を作った五人は、力尽きた様子で格子状の針金の柵にもたれる猿男に、奇襲を警戒しながら近づく。

「負けたぜ」

 猿男は開き直った声で、敗北を宣言した。

「おいらはもう戦う力が残ってねぇ、おめぇ達の好きなように殺してくれぃ」

「殺してくれ、じゃないわよ。くたばる前に下着を返してもらうわよ」

 西之森が苛々と言い放つ。

 猿男は被っている黒地の下着を頭から外して、わずかに残っている体力で西之森へ投げた。

 猿男は投げた下着の行方を、生命力の弱い今にも閉じられてしまいそうな目で追った。

 下着は西之森のところまで届かず、ひらひらと猿男と西之森の間に落ちる。

 最後に一抹の無念を瞳に宿して、猿男は瞑目して命を散らした。

 猿男の死を悼むようにマンションの屋上には静寂が帰ってくる。

「しんみりする状況じゃないわよ!」

 と、誰にともなく西之森が突っ込んだ。

 楠手が頷く。

「そうだね。私達の初仕事で敵を倒したんだからね。こういう時は、怪人に背を向けて無言でこの場を去るべきだよ」

 見識ありげに言った。

 栗山、上司、新城がそういうものかな、という納得の視線を送る。

 楠手が先導するように踵を返した刹那、上司が気に掛かった様子で空を見上げた。

「あれは何でしょうか?」

 上司は五人の上空を漂いながら左右に揺れて徐々に落下する紙箋を指さす。

 他の四人は上司の指さす方向を仰ぎ、無風の中を降りてくる紙箋を眺める。

 紙箋は測ったかのように五人の輪の間に落ちた。

 楠手が拾い上げて、紙面を見た。

 最初理解しがたい顔だったのが、突如驚愕の顔で紙の隅に目を留めた。

「何が書かれてるんだよ?」

 楠手の顔に驚愕を見て、栗山が紙箋の内容を窺う。

「シキヨクマーの幹部から」

 楠手は差出人を答えて、四人に紙箋を見せる。

「宣戦布告だって」

 紙箋にはグラドルレンジャーへ、と小さい文字の後に比較にならない程大きく、宣戦布告の四文字が。裏面にはシキヨクマー幹部ギャルゲ大佐より、と丁寧に書かれてある。

 敵方からの戦意の押し付けを受け止めきれない気分で、五人はマンションの屋上にしばらく立ち尽くしていた。
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