5 / 37
第一話 選ばれた五人
交戦1
しおりを挟む 五人は駅前の喫茶店の席で、改めて自己紹介し合った。
「皆さん、意外と家が近いんですね」
上司が良縁であるかのように嬉しそうに言った。
栗山は顔を顰める。
「家が近いからって、なんだよ。毎日集まるわけでもねーだろ」
「そんな寂しいこと言わないでください。こうして出会ったのも何かの縁ですから、仲良くしましょうよ」
栗山の発言が不満で、願い出る口調で言う。
「それよりも……」
楠手が他の四人に顔を寄せて問いかける
「どうして、私達五人なのかな?」
「戦隊のメンバーがか?」
「そうですね。訊かれてみると、なんででしょう?」
「グラドルっていう共通点じゃないかしら?」
西之森が三人の顔を目に入れながら、決まりきった声で疑問に言葉を挟む。
「子供向けの戦隊モノには必ず固有のテーマがあるでしょう。だからグラビアアイドルが私達の戦隊のテーマなのよ、きっと」
「でも、目的は何かしらねぇ?」
ホットコーヒーのお代わりを注文し終えた新城が、西之森に探るような目を向ける。
「麻美ちゃんの憶測が正解だとしても、何故グラビアアイドルをテーマに選んだのかが、私は気になるわ」
「選んだ理由は、あのミスター・Kという人の趣向よ。といっても本人から聞いたわけじゃないから定かじゃないけど」
自信なく答えた。
「もしかして、皆グラドルっていうのも縁ですかね」
「上司さん、縁って言葉好きなの?」
楠手が何気なく尋ねる。
予想外の質問に、上司は瞬きをして楠手を見返した。
「好きってことはないですけど、どうしてそんなこと訊くんですか?」
「かなりの頻度で使ってるから、好きなのかと思って。違ったんだ」
「もしかすると、皆で仲良くしたいって思ってるから、縁って言葉が出てくるのかもしれません」
ケッ、と上司の隣で、栗山はくだらないことのように嘲り笑った。
「皆で仲良くするのは勝手にしてくれていいけどよ、無益な慣れ合いは御免だぜ」
「上司さんは良かれと思って言ってるのに、あなたは何で和を乱すようなことを言うのかしら?」
栗山の右向かいの席の西之森が、苛立った声音で問い詰める。
「あん? 和を乱してねぇだろ。仲良しこよしは嫌だって意見を言っただけだ」
「言い方が押しつけがましいのよ。もっと柔らかい言い方をしないと、上司さんが悪いみたいになるじゃない」
「はあ? お前は上司じゃねーだろ。知った口で言うんじゃねー」
二人の険悪な原因が自分にあると思い、上司は慌てて取り成すように言う。
「それぞれの意見があると思うので、わ、私が正しいなんてことはありません。だから私の言うことなんて聞き流してください」
「そんな謙遜しなくてもいいのに」
と、新城が微笑まし気にやり取りを眺める。
その時、五人のネックレスが小さく揺れた。
ネックレスを肌から離して、顔を寄せる。
(出動だ、西地区のマンション街だ)
ネックレスから出る木田の指令する声が、テーブル上で重なる。
五人は互いに頷き合って会計を手早く済まして、喫茶店を飛び出した――のだが。
走りながら胸の前で跳ねるネックレスを掌で包んだ瞬間、謎の力によって彼女たちの姿は消え去った。
気付いた時には、どこかのマンションの屋上に移動していた。
走っていた勢いのまま、楠手はたたらを踏んで、物干し台のアルミの棒に勢いよく鼻梁をぶつけた。
「いったぁ」
鼻を押さえて、その場に屈みこむ。
同時にテレポートして来た他の四人は、傍で起きた不運に何事かと顔を向ける。
「大丈夫か?」
栗山が訊く。
楠手は鼻を押さえたまま、ふるふると首を横に振る。
「大丈夫じゃないよ。鼻の骨が砕けてるかもしれないほどだよ」
答えているうちに、ドロリとした液体の感触を押さえている手に覚えた。
鼻から離して掌を見ると、赤々とした血が付いている。
「鼻血だな」
「見ればわかるよ」
言いながら上向いて、垂れ流れてきそうな鼻血を奥に戻す。
「皆さん、皆さん、鼻血よりも大変なことになってます」
メンバーの姿を見回して、上司は当惑する。
「私達、皆水着になってます!」
彼女の言葉に、楠手以外の三人が自分の身体を見下ろした。一様に表情を驚きで固める。
「どうなってんだ、こりゃ?」
栗山がコバルトブルーのワンピース水着の脇腹部分の生地をつまんで呟く。
「この胸の宝石は、何の素材かしら?」
胸の前面を覆うグリーンのハート型のクリスタルガラスを指の爪でつつく。
ちなみに水着の色は、楠手がレッド、栗山がブルー、上司がイエロー、西之森がグリーン、新城がパープルである。
「なんで水着なの?」
赤のワンピース水着の上を向いている楠手が誰にともなく尋ねる。
四人は揃って、知らないという顔をした。
「何者でぃ、おめぇたち」
五人の頭上から、チンピラっぽい鼻につく声が降り注ぐ。
「おいらの縄張りだい。新参者にはひいてもらうでぃ」
声の主を見上げた五人は、仰天して一斉に口を開いた。
「「「「「パンツザル!」」」」」
彼女たちの叫んだ通り、声の主は物干しざおに器用に乗っている、頭に女物のパンツを被った人間大の猿であった。
「それはおいらのことか?」
「他にいないでしょ」
パンツザルの問いに、楠手は当然の如く答えた。
「ウキィ、おいらはパンツザルでねぇ」
パンツザルは腹を立てると、歯を剥き出して五人を睨みつけた。
「それじゃあ、なんなんだよ? 名前があるのか?」
聞いてやるぞという傲岸な態度で栗山が尋ねる。
「ウキィ、おいらにも名前はあるんでぃ。猿男っていうんでぃ」
「パンツ要素がねぇじゃねぇか!」
名を聞いて、栗山は不満を吐き捨てた。
「うるせぃ、おいらの知ったところじゃねぇ。こっちは名乗ったんだ、次はおめぇ達だ。何者でぃ」
栗山の抗議には取り合わず、自称猿男は五人の中央にいた楠手を指さし誰何した。
「え、私達?」
「そうでぃ」
「私達はその……なんというか」
「なんでぃ、正体を明かせないほどの悪者でぃ?」
「そうではないんだけど、言っていいのかどうか」
グラドルレンジャーだと明かしてはならない、と厳命されたばかりで楠手は逡巡した。
「この猿、敵よ!」
じいっと猿男に注視していた西之森が、はっとして突然に声を張り上げた。他の四人と猿男の視線が彼女に向く。
嫌悪と憤怒の眼差しで、西之森は猿男の被るパンツを指さす。
「こいつの被ってる下着、私のものよ」
途端、猿男の剽軽な表情が固まり、眼を左右に泳がせる。
他の四人はまじまじと猿男の被る下着を見る。
「それ、ほんと?」
「腰ひもが少しほつれてるもの」
楠手が訊くと、確信的な声で言った。
「それに色も作りも私が持ってるものと同じ。間違いないわ」
栗山が西之森に向って、卑しいにやつきを浮かべる。
「しっかしお前、黒下着なんて持ってるんだな。勝負下着か?」
「ちっがうわよ。糸のほつれてるのが、勝負下着のわけがないでしょ」
「なんだ違うのか。それなら下着一枚くらいで喚くんじゃねえよ」
「はあ? 自分の履いた下着が、下着泥棒の猿に被られてるのよ。下着でどんな猥褻な事を何をするかと思うと耐えられないわよ、普通」
「相手は猿だぜ。どうこう使う知能があるわけないだろ?」
「聞き捨てならねぇ! これでもおいらはシキヨクマーの一員でぃ。舐められたままのわけにはいかねぇ」
悪意ある一言に猿男はいきり立ち、キィーと吠えてから物干し竿を蹴って、爪の鋭い片手を振り上げて栗山に飛び掛かった。
栗山と近くにいた他の四人は考える暇もなく、予測される猿男の着地地点から瞬時に後ろへ飛び退いた。彼女達自らが驚くほどの反応速度だった。
猿男の爪撃は、誰もいない空を切る。
「おめぇたち、ただの女じゃねぇな。おいらの降下攻撃を躱せるはずがねぇ」
着地の屈んだ姿勢から、敵意剥き出しの眼でぎょろりと見上げる。
「さては、おめぇたち。正義を謳う五人組の戦隊でぇねえか」
しばらく五人をじっと眺めると、猿男は獲物を捉えたかのように唇を歪めた。
「ちがいねぇ、おめぇ達只者でないでぃ」
確信を得て、流血に飢えたような目をして問い質す。
「おめぇ達は五人は何と言うんでぃ?」
「別になんだっていいでしょ」
西之森が下着を被られている憤りの籠めて、冷淡に言った。
途端、猿男の眼が昏く戦闘の意思を湛える。
「障害になり得る者は排除するのがシキヨクマーの規則でぃ。おめぇたちは無論、排除の対象。今ここでくたばってもらうでぃ!」
猿男の脚に力が入り地面を蹴立てようと、腰を落とした。
「グラドルレンジャーって言います!」
突然、上司が叫んだ。
猿男が落としていた腰を上げて、上司だけに眼を投げる。上司は怯えたようにビクッと身体を震わせる。
「偽りねぇか?」
「は、はい」
「グラドルレンジャーと言うんすねぇ。わかったでぃ」
猿男は顔に理解を顕す。
相手が手を引いてくれるのだろうと思い、上司は実際に胸を撫で下ろす気持ちになった。
間を置いて、猿男は暴力的な笑みを浮かべた。
「名を明かそうが明かさまいが、おめぇ達を排除することに変わりないでぃ!」
「そんな、ひどい」
上司は失意の声を小さく漏らした。
猿男は再び腰を落として、襲い掛かる前の姿勢を取る。
五人は敵であると認知され、戦いを避けられない状況に陥った。
鼻血が止まって血の気の盛った猿男をまともに目にした楠手は、決意を固める。
「皆!」
不意に声を上げた楠手に、他の四人が視線を移す。
「なんだ?」
「なによ?」
「どうしたんですか?」
「なあに?」
栗山、西之森、上司、新城が問い返す。
猿男を睨みつけて、楠手は四人に短く語り掛ける。
「戦おう」
楠手の一言に、各々が今までの日常を振り切るように、ふっと息を漏らして頷いた。
五人は警戒の糸を張り詰めて、猿男と対峙した。
「皆さん、意外と家が近いんですね」
上司が良縁であるかのように嬉しそうに言った。
栗山は顔を顰める。
「家が近いからって、なんだよ。毎日集まるわけでもねーだろ」
「そんな寂しいこと言わないでください。こうして出会ったのも何かの縁ですから、仲良くしましょうよ」
栗山の発言が不満で、願い出る口調で言う。
「それよりも……」
楠手が他の四人に顔を寄せて問いかける
「どうして、私達五人なのかな?」
「戦隊のメンバーがか?」
「そうですね。訊かれてみると、なんででしょう?」
「グラドルっていう共通点じゃないかしら?」
西之森が三人の顔を目に入れながら、決まりきった声で疑問に言葉を挟む。
「子供向けの戦隊モノには必ず固有のテーマがあるでしょう。だからグラビアアイドルが私達の戦隊のテーマなのよ、きっと」
「でも、目的は何かしらねぇ?」
ホットコーヒーのお代わりを注文し終えた新城が、西之森に探るような目を向ける。
「麻美ちゃんの憶測が正解だとしても、何故グラビアアイドルをテーマに選んだのかが、私は気になるわ」
「選んだ理由は、あのミスター・Kという人の趣向よ。といっても本人から聞いたわけじゃないから定かじゃないけど」
自信なく答えた。
「もしかして、皆グラドルっていうのも縁ですかね」
「上司さん、縁って言葉好きなの?」
楠手が何気なく尋ねる。
予想外の質問に、上司は瞬きをして楠手を見返した。
「好きってことはないですけど、どうしてそんなこと訊くんですか?」
「かなりの頻度で使ってるから、好きなのかと思って。違ったんだ」
「もしかすると、皆で仲良くしたいって思ってるから、縁って言葉が出てくるのかもしれません」
ケッ、と上司の隣で、栗山はくだらないことのように嘲り笑った。
「皆で仲良くするのは勝手にしてくれていいけどよ、無益な慣れ合いは御免だぜ」
「上司さんは良かれと思って言ってるのに、あなたは何で和を乱すようなことを言うのかしら?」
栗山の右向かいの席の西之森が、苛立った声音で問い詰める。
「あん? 和を乱してねぇだろ。仲良しこよしは嫌だって意見を言っただけだ」
「言い方が押しつけがましいのよ。もっと柔らかい言い方をしないと、上司さんが悪いみたいになるじゃない」
「はあ? お前は上司じゃねーだろ。知った口で言うんじゃねー」
二人の険悪な原因が自分にあると思い、上司は慌てて取り成すように言う。
「それぞれの意見があると思うので、わ、私が正しいなんてことはありません。だから私の言うことなんて聞き流してください」
「そんな謙遜しなくてもいいのに」
と、新城が微笑まし気にやり取りを眺める。
その時、五人のネックレスが小さく揺れた。
ネックレスを肌から離して、顔を寄せる。
(出動だ、西地区のマンション街だ)
ネックレスから出る木田の指令する声が、テーブル上で重なる。
五人は互いに頷き合って会計を手早く済まして、喫茶店を飛び出した――のだが。
走りながら胸の前で跳ねるネックレスを掌で包んだ瞬間、謎の力によって彼女たちの姿は消え去った。
気付いた時には、どこかのマンションの屋上に移動していた。
走っていた勢いのまま、楠手はたたらを踏んで、物干し台のアルミの棒に勢いよく鼻梁をぶつけた。
「いったぁ」
鼻を押さえて、その場に屈みこむ。
同時にテレポートして来た他の四人は、傍で起きた不運に何事かと顔を向ける。
「大丈夫か?」
栗山が訊く。
楠手は鼻を押さえたまま、ふるふると首を横に振る。
「大丈夫じゃないよ。鼻の骨が砕けてるかもしれないほどだよ」
答えているうちに、ドロリとした液体の感触を押さえている手に覚えた。
鼻から離して掌を見ると、赤々とした血が付いている。
「鼻血だな」
「見ればわかるよ」
言いながら上向いて、垂れ流れてきそうな鼻血を奥に戻す。
「皆さん、皆さん、鼻血よりも大変なことになってます」
メンバーの姿を見回して、上司は当惑する。
「私達、皆水着になってます!」
彼女の言葉に、楠手以外の三人が自分の身体を見下ろした。一様に表情を驚きで固める。
「どうなってんだ、こりゃ?」
栗山がコバルトブルーのワンピース水着の脇腹部分の生地をつまんで呟く。
「この胸の宝石は、何の素材かしら?」
胸の前面を覆うグリーンのハート型のクリスタルガラスを指の爪でつつく。
ちなみに水着の色は、楠手がレッド、栗山がブルー、上司がイエロー、西之森がグリーン、新城がパープルである。
「なんで水着なの?」
赤のワンピース水着の上を向いている楠手が誰にともなく尋ねる。
四人は揃って、知らないという顔をした。
「何者でぃ、おめぇたち」
五人の頭上から、チンピラっぽい鼻につく声が降り注ぐ。
「おいらの縄張りだい。新参者にはひいてもらうでぃ」
声の主を見上げた五人は、仰天して一斉に口を開いた。
「「「「「パンツザル!」」」」」
彼女たちの叫んだ通り、声の主は物干しざおに器用に乗っている、頭に女物のパンツを被った人間大の猿であった。
「それはおいらのことか?」
「他にいないでしょ」
パンツザルの問いに、楠手は当然の如く答えた。
「ウキィ、おいらはパンツザルでねぇ」
パンツザルは腹を立てると、歯を剥き出して五人を睨みつけた。
「それじゃあ、なんなんだよ? 名前があるのか?」
聞いてやるぞという傲岸な態度で栗山が尋ねる。
「ウキィ、おいらにも名前はあるんでぃ。猿男っていうんでぃ」
「パンツ要素がねぇじゃねぇか!」
名を聞いて、栗山は不満を吐き捨てた。
「うるせぃ、おいらの知ったところじゃねぇ。こっちは名乗ったんだ、次はおめぇ達だ。何者でぃ」
栗山の抗議には取り合わず、自称猿男は五人の中央にいた楠手を指さし誰何した。
「え、私達?」
「そうでぃ」
「私達はその……なんというか」
「なんでぃ、正体を明かせないほどの悪者でぃ?」
「そうではないんだけど、言っていいのかどうか」
グラドルレンジャーだと明かしてはならない、と厳命されたばかりで楠手は逡巡した。
「この猿、敵よ!」
じいっと猿男に注視していた西之森が、はっとして突然に声を張り上げた。他の四人と猿男の視線が彼女に向く。
嫌悪と憤怒の眼差しで、西之森は猿男の被るパンツを指さす。
「こいつの被ってる下着、私のものよ」
途端、猿男の剽軽な表情が固まり、眼を左右に泳がせる。
他の四人はまじまじと猿男の被る下着を見る。
「それ、ほんと?」
「腰ひもが少しほつれてるもの」
楠手が訊くと、確信的な声で言った。
「それに色も作りも私が持ってるものと同じ。間違いないわ」
栗山が西之森に向って、卑しいにやつきを浮かべる。
「しっかしお前、黒下着なんて持ってるんだな。勝負下着か?」
「ちっがうわよ。糸のほつれてるのが、勝負下着のわけがないでしょ」
「なんだ違うのか。それなら下着一枚くらいで喚くんじゃねえよ」
「はあ? 自分の履いた下着が、下着泥棒の猿に被られてるのよ。下着でどんな猥褻な事を何をするかと思うと耐えられないわよ、普通」
「相手は猿だぜ。どうこう使う知能があるわけないだろ?」
「聞き捨てならねぇ! これでもおいらはシキヨクマーの一員でぃ。舐められたままのわけにはいかねぇ」
悪意ある一言に猿男はいきり立ち、キィーと吠えてから物干し竿を蹴って、爪の鋭い片手を振り上げて栗山に飛び掛かった。
栗山と近くにいた他の四人は考える暇もなく、予測される猿男の着地地点から瞬時に後ろへ飛び退いた。彼女達自らが驚くほどの反応速度だった。
猿男の爪撃は、誰もいない空を切る。
「おめぇたち、ただの女じゃねぇな。おいらの降下攻撃を躱せるはずがねぇ」
着地の屈んだ姿勢から、敵意剥き出しの眼でぎょろりと見上げる。
「さては、おめぇたち。正義を謳う五人組の戦隊でぇねえか」
しばらく五人をじっと眺めると、猿男は獲物を捉えたかのように唇を歪めた。
「ちがいねぇ、おめぇ達只者でないでぃ」
確信を得て、流血に飢えたような目をして問い質す。
「おめぇ達は五人は何と言うんでぃ?」
「別になんだっていいでしょ」
西之森が下着を被られている憤りの籠めて、冷淡に言った。
途端、猿男の眼が昏く戦闘の意思を湛える。
「障害になり得る者は排除するのがシキヨクマーの規則でぃ。おめぇたちは無論、排除の対象。今ここでくたばってもらうでぃ!」
猿男の脚に力が入り地面を蹴立てようと、腰を落とした。
「グラドルレンジャーって言います!」
突然、上司が叫んだ。
猿男が落としていた腰を上げて、上司だけに眼を投げる。上司は怯えたようにビクッと身体を震わせる。
「偽りねぇか?」
「は、はい」
「グラドルレンジャーと言うんすねぇ。わかったでぃ」
猿男は顔に理解を顕す。
相手が手を引いてくれるのだろうと思い、上司は実際に胸を撫で下ろす気持ちになった。
間を置いて、猿男は暴力的な笑みを浮かべた。
「名を明かそうが明かさまいが、おめぇ達を排除することに変わりないでぃ!」
「そんな、ひどい」
上司は失意の声を小さく漏らした。
猿男は再び腰を落として、襲い掛かる前の姿勢を取る。
五人は敵であると認知され、戦いを避けられない状況に陥った。
鼻血が止まって血の気の盛った猿男をまともに目にした楠手は、決意を固める。
「皆!」
不意に声を上げた楠手に、他の四人が視線を移す。
「なんだ?」
「なによ?」
「どうしたんですか?」
「なあに?」
栗山、西之森、上司、新城が問い返す。
猿男を睨みつけて、楠手は四人に短く語り掛ける。
「戦おう」
楠手の一言に、各々が今までの日常を振り切るように、ふっと息を漏らして頷いた。
五人は警戒の糸を張り詰めて、猿男と対峙した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる